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ドイツの育児休暇制度「親時間」を利用したときの体験談 ―その1 正社員として取得―

©Megumi Takahashi

ドイツの育児休暇制度「親時間」を利用したときの体験談 ―その1 正社員として取得―

皆さん、こんにちは!

 

ドイツ・ワークスタイル研究室の高橋です。

 

前回は、

「育児休暇」という名前を廃止したドイツ 女性の98%、男性の43%が育児休業制度を利用

と題して、ドイツの産休・育休事情について、制度の概要や実際の統計をご紹介しました。

 

読者の皆さんは、「ドイツは育休が取りやすいんだなぁ」という印象を受けたかもしれません。

 

※ドイツの育児休業制度は「Elternzeit(親時間)」、育児休業給付金は「Elterngeld(親手当)」という名称ですが、日本との比較に際しては通称として「育休」と記します。

 

 

ドイツで男性の育休取得が進む理由:長期間休む従業員が一人や二人いてもなんとかなる職場環境

 

ドイツの従業員が「育休」を取りやすい環境にあるのは、「有給休暇取得率100%」という職場環境が下地にあるから!だと私は常々思っています。

 

年間30日の有給休暇、消化率ほぼ100%!ドイツの働き方を知るにはまず休み方から

という記事でもお伝えしたように、

 

●ドイツでは2〜3週間の長期休暇を取るのは当たり前

●会社は、法律で定められた労働者の権利を守るのが当たり前

●同僚も顧客も「休暇ならしょうがない」と妥協できる

 

と、この前提条件をクリアしていると「育休」に際しても、

 

出産を控えた女性従業員が望むなら「No」とは言えないし、9割の男性の育休申請期間が2カ月以内であることから、経営者も従業員も「なんとかなる」という肌感覚になるのだろうと思います。

 

2022年の女性の親手当の受給予定期間は、平均14.6カ月。一方、男性の受給予定期間は平均3.6カ月。やはり男性の方が大幅に短く、前年(3.7カ月)から若干減少しているほどで、男性の育児参加はドイツにおいてもまだまだ大きな課題です。

 

2023年3月29日に、ドイツ連邦統計局が発表した報告によると、

2022年にドイツで親手当を受け取った女性は約140万人、男性は約48万人でした。受給者の総数は約180万人に上ります。

 

最新(2021年)のドイツの出生率は1.58、出生数は79万5492人で先に発表された2022年の日本の出生数79万9728に迫る数字。つまり、ドイツでは出生数の倍以上の親が、育休を取得して手当を受給しているということになりますね。

 

両親が交互に、または同時に育休を取得しているケースの増加と、育休期間を最長24カ月に延長できる制度「親手当プラス(ElterngeldPlus)」の利用も広がっているからでしょう。

 

 

正社員としてBasisElterngeldを12カ月取得した時の体験談

 

さて、我が身を振り返りますと、私は会社員時代に一人目、フリーランスになって二人目を出産しました。

 

第一子出産時は「親手当プラス(ElterngeldPlus)」が導入される前だったのと、フルタイムで働く会社員だったので、母親である私が「親手当(Elterngeld)」、現在の「BasisElterngeld」を12カ月分取得し、父親である夫は育休を取得せずに産後の生活をスタートさせました。

 

フリーランスとして働きながら迎えた第二子出産時には、「親手当プラス(ElterngeldPlus)」も組み合わせて利用しました。

 

今回は、2種類ある育児休業制度のうち、まずはベーシックな育児休業についてお伝えします。

 

「親手当の申請は、会社を作る時の手続きより難解だ!」というタイトルの記事を見かけるくらい、制度が複雑で申請書類も難解だと評判。そのため、「親手当申請サポート」を専門にする民間のサービスもあるくらいです。

 

私も、一人目の時は、確定申告のサポートをお願いしていた税理士さんに手伝ってもらいました。

 

その当時、勤めていた日系の会社で初めて育休を取得する従業員になったということもあって、一歩一歩、確認しながら手続きをしていったことが思い出されます。

 

女性である私ですら、その会社での「育休パイオニア」になってしまったものですから、夫が育休を取れるか、取りたいか、取るべきかについては、夫の気持ちに任せました。

 

ドイツ企業に勤める夫は、帰宅が15時というワークスタイルだったので、出産直後に有給休暇を3週間取り、その後はフルタイムの労働を維持することになりました。

 

育休となると、手当があると言っても手取りの67%ですからね。キャリア的にも、家計的にもそちらにメリットがあるという判断で、私も合意しました。

 

もし、夫が残業が多くて深夜まで帰宅せず、出張が多い仕事についていたら……産後の母子の心身の健康は危機的状況になったと思います。

 

自分自身が出産をする側の性で、当事者であるにもかかわらず、初めての出産というのは本当に未知との遭遇の連続。事前に計画、予測できないことの連続でした。

 

 

さて、私が第一子出産前後に受け取った産前産後の育休中の各種手当は下記です。



①「Mutterschaftsgeld(母親手当)」=手取り100%

期間:出産予定日の6週間前から、産後8週間まで



②「Elterngeld(親手当)」=手取り67%

期間:産後12カ月まで


 

産後12カ月で再び正社員として職場復帰する予定にしていたので、子どもを預かってもらえる幼稚園・保育園が見つかるかが、一つ悩みの種でした。幸い、職場に近い幼稚園に申し込むことができましたが、安心するのはまだ早いというものでした。

 

育休後の職場復帰直後は、自分が仕事のペースを取り戻すのも大変なら、子どもが慣れない幼稚園生活で体調を崩しがちで、精神的にも体力的にもボロボロだったことを思い出します。

 

ドイツ人の友人夫婦の中には、きっちり7カ月づつ、合計14カ月(片親が取得できる最長の期間が12カ月だけど、両親が取得するとボーナス期間がある最長14カ月)親手当を取得した家庭もあります。

 

最初の7カ月を母親が、その後の7カ月は父親が担当するパターンが多く、「きっちりしてるなぁ」と思ったものです。

 

そのうちの一人、母親である友人が二人目の出産時には12カ月の育休を取得するつもりだという話を聞きました。

 

「本当は当時、一人目の時も12カ月の育休を取りたかったの。でも、その気持ちに気づいたのは、仕事に復帰する直前で、育休の申請をする時は、まさか自分が仕事に復帰する段になって、あんなに子どもと離れるのが辛くなるとは思わなかった……。」

 

そんな風に感じたことを話してくれました。

 

育児休暇のあり方は、どんな形が一番良いのか、当の本人たちにさえ分からないまま、育児に追われ、時間に迫られ、がむしゃらにその時その時を生きているということも多いと、改めて実感しました。

 

ロールモデルはあってないような世界です。産後の母体の健康状況、夫婦の仕事のスタイル、子どもの性格や特性によって、状況は千差万別。ロールモデルがあってないような世界です。

 

だからこそ、子育て世帯が制度に自分たちの家族のカタチを合わせるのではなく、安心して家族が暮らせるような、そんな社会を支える制度設計が求められます。

 

その結果、様々なボーナスやオプションが付いて、より複雑化したドイツの「親手当」申請に挑戦することになったのが第二子出産時ですが……。

 

 

 

次回は、フリーランスとして働きながら取得した育児休業制度「親手当プラス」についてご紹介しましょう。

高橋 萌

ドイツに興味を持ったきっかけは、ドイツで農業を学ぶ友人に誘われて父と母がドイツ旅行に行ったこと。家で留守番をしていた子どもの頃の私は、連れて行ってもらえなかった「ドイツ」という国に、いつか自分も行くと心に誓うのだった。そして2002年夏ボン大学、2003〜2004年ミュンスター大学への留学で念願を叶え、卒業後は実用書籍の出版社に勤める。しかし、あまりの激務に「人生ってなんだっけ?」と再びドイツに戻ってくる。2007〜2008年ドイツ国際平和村で住み込みボランティア、2008年〜2017年ドイツニュースダイジェスト編集部、2018年からはフリーの編集者/ライターとして活動している。 YouTube : https://www.youtube.com/channel/UCCsxuIIUnqpCpNY0v6EIi_w

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