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プレゼントにサービス…産前・産後にウェルカムの嵐 社会全体で祝う赤ちゃん誕生

プレゼントはソックスが一番人気。贈り手としてはデザインが豊富にあり手頃なのが魅力だとか Photo: Aki SCHULTE-KARASAWA

プレゼントにサービス…産前・産後にウェルカムの嵐 社会全体で祝う赤ちゃん誕生

連載「ハローBaby ~子育てABC」<2>

実際に赤ちゃんを産んで子育てを始める前から薄々気付いていましたが、ドイツでは赤ちゃんの誕生に関して歓迎度合いがすごい。友人たちからはもちろん、ご近所から医療施設、行政機関、小売店まで。プレゼントやクーポン、サービスの山、そしてたくさんの笑顔に迎えられ、新しい生活をスタートすることができます。産前・産後をつうじてわたしが体験したウェルカムあれこれを紹介します。

|医長ら“オールスター”が大歓迎


最初に驚いたのは、産前に病院の事前説明会・ツアーに参加した時のウェルカムっぷり。ドルトムントおよび周辺地域で一番大きい病院の説明会では、わたしが参加した夜、看護師、助産師だけでなく産科医長、麻酔医までが説明会場に勢揃いしていました。ここでの病院側からのメッセージは、「どうぞ我が病院で産んでください」ということで一貫していました。

出産場所を選ぶため産前に開催される病院の事前説明会・ツアー案内看板 Photo: Aki SCHULTE-KARASAWA

出産場所を選ぶため産前に開催される病院の事前説明会・ツアー案内看板 Photo: Aki SCHULTE-KARASAWA



そもそも事前説明会は何かというと、出産場所選びをしている妊婦とそのパートナーや家族のために病院が開催する任意参加の催し。仕事のあとにも参加しやすいように、大抵は平日夜に設定されています。この夜は、わたしのように夫と共に、あるいはパートナー、子連れなど40〜50組の参加者で盛況でした。

ドイツでは医療圏の区分がはっきりしているため、出産までに通う妊婦健診と病院・産院といった出産場所は、妊娠状況に特に問題がない限り別々。つまり出産場所となる病院と妊婦のタッチポイントは、この説明会が最初となります。そこで医長ら“オールスター”が登場して全力でPRしていたわけです。なお出産場所への連絡は出産予定日の1週間前でよいとされているので、こうやって説明会に参加したりしながらゆっくりと検討することができます。

説明会での内容は、設備、実績、年間出生数など重要な項目はもちろん、駐車場については医長が念入りに説明していました。「出産のために来院する際、お父さんは慌てていてパーキングもままならない状況のことがよくありますが、落ち着いてくださいね。辛そうにしていてもお母さんは大丈夫(とっても強い)ですし、駐車場はたくさんありますから」

その後2グループに別れて、産科施設をツアー。わたしのグループは医長が同伴して自ら出産ポジションなどを熱く説明していました。ツアー途中で、夫の英訳を聞いているわたしに気付いた医長は、わたしの両肩をポンッ。「いざという時はやっぱりまだドイツ語は不安…」とわたしの顔に出ていたのでしょうか、「医者はみんな英語ができるから大丈夫だよ」と最高のPRをしてくれたのでした。

また他の病院では、説明会に参加するだけでプレゼントが盛りだくさん。赤ちゃん用ソックスやドイツのコスメブランド「WELEDA」(ヴェレダ)のサンプル、ベビーグッズやフォトサービスのクーポンなどが惜しみなく配られました――わたしが出産したのは、結局“医長肩ポン”の病院でしたが。

病院の説明会に参加するだけでこの量のプレゼントがもらえます Photo: Aki SCHULTE-KARASAWA

病院の説明会に参加するだけでこの量のプレゼントがもらえます Photo: Aki SCHULTE-KARASAWA



|贈り手のセンスが光るプレゼント


妊婦とその友人たちで行なう出産前祝い「ベビーシャワー」は最近日本でもちらほら聞きますね。ドイツでは、やはり赤ちゃんの誕生を祝すパーティーとして伝統的に「Pinkelparty」(Babypinkelnなど他の呼称あり)なるものがあるそうです。直訳すると“おしっこパーティー”。誕生の“お知らせ”としての意味合いが強く、母親の出産入院中に父親が音頭を取り自宅へ友人たちを招いて行なうのだといいます。パーティー来訪者はその際にプレゼントを持参します。

我が家でも赤ちゃん誕生前に、友人たちからの「性別は?」「名前は?」に次ぐ質問としてパーティー開催に関する問い合わせが続出。夫は「プレゼント回収できるし」とパーティーをしたがっている様子でしたが、「留守中にずるい!」とお祭り好きのわたしからの不平でおおっぴらに話をしなくなりました。おそらくこっそり開催する予定だったはず。結局、出産予定日が1週間早まった上に緊急帝王切開となったため開催されずじまいに終わりました。

代わりに、産後2週間を過ぎるとこんどは「いつ行っていい?」という友人たちからの問い合わせ。数々のプレゼントを用意して我が家を訪ねてくれました。プレゼントはソックスが断トツ人気で、次いで服。それからもちろんドイツブランド「Steiff」(シュタイフ)の大きなぬいぐるみ、木製おもちゃ、赤ちゃん向け写真アルバムなど、贈り手のセンスが生きるものをたくさんいただきました。日本で赤ちゃん誕生のお祝いとして定番なのはオムツやタオルといった実用系ですが、1件ウェットティッシュ(それも服と共にサブで)をもらったほかには実用系がなかったのは意外でした。

シュタイフのぬいぐるみ、木製おもちゃ、赤ちゃん向け写真アルバムなど贈り手のセンスが生かれたプレゼント。写真はプレゼントの一部 Photo: Aki SCHULTE-KARASAWA

シュタイフのぬいぐるみ、木製おもちゃ、赤ちゃん向け写真アルバムなど贈り手のセンスが生かれたプレゼント。写真はプレゼントの一部 Photo: Aki SCHULTE-KARASAWA





また特徴的なプレゼントは、ベビーオンラインショップのクーポンでしょうか。製品ではありませんが、本当の意味で実用的ですね。実は赤ちゃん誕生のお祝いに限らず、ドイツでのプレゼントのトレンドはバウチャーやクーポン(ドイツ語では「グーチャイン(Gutschein)」)。「クリスマスプレゼントに何を贈るか」という調査(※)でも、本や服、おもちゃ、スイーツといったプレゼントの代表選手たちを押しのけて、現金と共に堂々のトップでした。

※「Deutschland.de」による調査(2017年12月)。

|ドルトムント市のお祝いはブラック&イエロー


息子の初めての買い物はdm。おむつなどドラッグストアにはお世話になりっぱなし Photo: Aki SCHULTE-KARASAWA

息子の初めての買い物はdm。おむつなどドラッグストアにはお世話になりっぱなし Photo: Aki SCHULTE-KARASAWA



ショッピングに際しお祝い気分を盛り上げてくれたのは、ドラッグストア「dm」(デーエム)の子育てプログラム「glückskind」(グリュックスキント)。グリュックスキントは、アプリやニュースレターを介した定期的なクーポン配信や子供の誕生日プレゼントなど子育て世帯にありがたい無料サービスで、なんといっても入会ギフトが豪華です。旅行バッグ型のかわいらしい箱の中には、哺乳瓶やおしゃぶり、母乳パッド、ウェットティッシュ、おむつ、保湿クリーム(顔用と全身用)、髪・体洗いローション、汚れ落とし洗剤など最低限必要なグッズ、あると嬉しいグッズがぎゅうぎゅうに詰まっていました。


dmの子育てプログラム「glückskind」の入会ギフト。ありがたグッズがぎゅうぎゅう満載 Photo: Aki SCHULTE-KARASAWA

dmの子育てプログラム「glückskind」の入会ギフト。ありがたグッズがぎゅうぎゅう満載 Photo: Aki SCHULTE-KARASAWA



わたしが住む街、ドルトムントらしいお祝いはやっぱりブンデスリーガチーム「ボルシア・ドルトムント(BVB)」関連でしょう。市から届いたお祝いのカードは、主にFamilienbüroのスタッフ(家族相談士)の担当者名・訪れるスケジュールをお知らせするものでしたが、それに加えて「(BVBのチームカラー)ブラック&イエローの街へようこそ」と息子の名前入でBVBのカードが封入されていました。そこには、スタッフ来訪の際にBVBおしゃぶりやガラガラ、スタイ(よだれかけ)がプレゼントとして贈られる旨と、BVBのマスコット「エマ」がプライベートに訪れる抽選企画の参加呼びかけがお祝いメッセージとして記載されていました。

ドルトムント市から届いたお祝いのカード Photo: Aki SCHULTE-KARASAWA

ドルトムント市から届いたお祝いのカード Photo: Aki SCHULTE-KARASAWA



産まれた時からファンとして巻き込む作戦に、感心と驚きと呆れが入り混じった気持ちです…。そういえば、病院からのギフトセットにもBVBのエマがプリントされた黄色いスリーパーがありましたっけ(値札がつきっぱなしというところはなんともドイツらしい)。残念ながらブラック&イエローの贈り物は、夫がBVBでないチーム―ー「ボルシア・メンヘングラードバッハ(MG)」のファンという我が家では出番がなさそう。その代わりに、“正規の”チームのグッズもしっかりプレゼントされているんですけどね。




こういった歓迎のどれもが嬉しいものですが、一番温かい気持ちになったのは誕生の挨拶をした際に隣人たちからもらったことばの数々です。高齢の方々からは「若返った」「家があるべき姿になった」と手放しで喜ばれ、また階下に住む同年代のカップルからは「赤ちゃんの泣き声はすてきな音楽」というとびきりのメッセージをもらいました。親子共に、幸せですね。

シュルテ柄沢 亜希

Aki SCHULTE-KARASAWA ● 1982年生まれ、ドイツ・ドルトムント在住。フリージャーナリスト。執筆ジャンルは自転車・アウトドアアクティビティ、スポーツ、旅、食、アート、ライフスタイルなど文化全般。幼少期の5年間をハンブルクで過ごしたことがアイデンティティのベースにある。好きなものは、ビール、チーズ、タマゴ――ワイン、日本酒、ウイスキーも大好き。ランニング、ロードバイクライドにてカロリーを相殺する日々。ブログ「ドイツのにほんじん」に日記をつけ、産経デジタル「Cyclist」、三栄書房「GO OUT」などで執筆中。

シュルテ柄沢 亜希