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ドルトムントで「キャンセル待ち700人」の幼稚園を訪問 2021年は明るいか?

自宅から徒歩3分というベストアクセスなキタを訪問。キャンセル待ち700人とは…2021年は明るいか? Photo: Aki SCHULTE-KARASAWA

ドルトムントで「キャンセル待ち700人」の幼稚園を訪問 2021年は明るいか?

連載「ハローBaby ~子育てABC」<12>

連載第7回「ドイツ流“保活”のはじまり?」(2018年9月)の中で、ドルトムントでの託児・保育施設「キタ」(Kita=Kindertagesstätte)探しについての記事を書きました。あれからほそぼそと続けているキタ探し。希望するキタのリストアップ・申込みが完了したり、実際にキタを訪れてみたりしているうちに新たな情報が見えてきました。ドイツでのキタ探しはどんな風に大変なの? 幼稚園ってどんな雰囲気なのかしら? ――ドルトムントでの“保活”の様子を紹介します。

|3歳以下のキタ探しは難航


息子は只今1歳1カ月。3歳前後での入所(2021年)を予定しているので、マイペースに動いていますが、同月齢の子どもを持つ職場復帰組の友人たちはこの2月から働き始める場合が多く、「仕事開始日は決まっているのにキタがまだ決まらない」と大変そうです。

ある友人は、交代で夫が育休(Elternzeit)に入るのでひとまずは見つからなくても大丈夫と話していました。ドイツでは子どもが8歳になる誕生日まで、子どもひとりに対して合計3年間、すべての親が育休を取得できる権利があります。育休は、雇用主への事前申請の上で1カ月、数週間、あるいは数日間というような取得方法が可能で、特に公務員の家庭では友人のように夫婦でバトンタッチなどとフレキシブルに育休を取っていることが多いようです。

またほかの友人は、当面利用期間などで融通がきくターゲスムッター(Tagesmutter、保母さんによる預かり施設・自宅)になりそうと教えてくれました。ただしターゲスムッターの質にはかなりの上下があり、施設や自宅を訪れて自分の目で現状を確かめる必要があります。実際に候補のひとつだったターゲスムッター宅を訪れてみた友人は、「(ドイツ出身ではない)ターゲスムッターのドイツ語があまりにもブロークンだった。また他を探さないと…」と肩を落としていました。

|ベスポジ! 徒歩3分


先日、自宅から徒歩3分というベストアクセスなキタへ訪問する機会がありました(事前申込)。ドイツの大手電力会社「RWE」がサポートしているキタですが、社員とそうでない家庭の子どもの預かり比率は50/50といいます。施設内をツアーする形でおよそ30分、どんな特色があるのかスタッフが紹介してくれました。

質疑応答を含めおよそ30分、スタッフが施設内を案内しつつキタの特色を紹介してくれた Photo: Aki SCHULTE-KARASAWA

質疑応答を含めおよそ30分、スタッフが施設内を案内しつつキタの特色を紹介してくれた Photo: Aki SCHULTE-KARASAWA



預かり人数は0歳〜3歳クラスで12人、3歳〜6歳クラスで80人(う〜ん…3歳以下の人数がこれだけ少ないとは、友人たちのキタ探しが難航するわけですね)。0歳〜3歳のクラスは、「〜以下」を示す「Unter(ウンター)」の頭文字をつけて「U3」と呼ばれます。それに対して3歳〜6歳のクラスは、「〜以上」を示す「Über(ウーバー)」がついて…となるはずですが、会話では単に「Ü(ウー)」とだけ呼ぶ場合がよくあります。わたしが発音するとなると、ウとエの混じったUウムラウト(「エのくちでウと言う」と習うこと多)を的確に表すことができるかどうか。難易度の高い呼び方です。

全部で80人の3歳〜6歳クラスは4つのグループに分かれて行動するそうですが、1グループ20〜25人というのは、ほとんどのキタで採用されている人数配分です。午前預かり(昼食後ピックアップ)の子どもたちと夕方まで預かりの子どもたちを分ける際もこのグループ分けに反映されることが多いようで、合理的。さらに今回見学したキタでは、1グループのみ英語を話す先生が就いたバイリンガルのグループとして区分けされていました。英語家庭がそこまでいるのならアジア系もいるのかしらと試しに尋ねてみたところ、これまでアジア系の子どもの預かり経験はないとのことでした。

ここでの一日の基本的なスケジュールは次のようなかんじです。

7:00〜9:30 受入れ
9:30 遊び
12:00 RWE社食キッチンから届く食事
13:00 休息(仮眠も可)
14:00〜17:30 引取りor遊び(含、お出かけ)

0歳〜3歳クラスには食事部屋、ベビーベッド&おむつ交換台の部屋が併設された2階ロフト付きの大部屋が、3歳〜6歳クラスの各グループにはお絵かきなどの工作が楽しめる部屋兼お休み部屋が併設された2階ロフト付きの大部屋があてがわれていました。大部屋にはテーブルセットや本棚など子どもの施設に一般的な家具のほか、子ども用キッチンが備わっていたのが印象的でした。週一回、みんなで料理をする機会があるのだそうです。

さらにどの大部屋の出入口横にも専用お手洗いがあり、小さな洗面台やトイレの他に、一人ひとりのタオルハンガーと歯みがきセットが並んでいました。出入口を挟んでお手洗いと反対側のワードローブエリアには、子どもたちの写真が並んでいました。スタッフは、「この写真の後ろが扉になっています。個人のミニロッカーで、何を入れても良いことになっています。子どもたちは『侵してはいけない他の人の領域』があることを学びます」と力を込めて説明していました。

施設内はその他、違う年齢グループの子たちと朝ごはんを食べられるカフェスペースや、ミニ体育館のような室内アクティビティースペースなどがありました。そういった子どもたちの活動スペースがある1階は、どのエリアも市の公園に続く庭に面していて、大きなガラス窓から緑をいっぱい望むことができました。

|9つのキタに申込み


こうしてキタを訪れてみると、たくさんの気づきや納得、発見があります。現時点で我が家では、9つのキタに申込みをしました。母としては(好奇心もありますし)どんなキタなのかこうやってすべての門戸を叩きたい気持ちですが、なかなかそうもいきません。特色を理解する上で助けとなるのが、キタのバックグラウンドです。

今回訪れたキタは、大企業のサポートがあるという特色の他に、今年で設立100年目を迎えたドイツで最も古い慈善団体のひとつ「労働者福祉団体(AWO)」が運用しているというのがポイントです。AWOは特定非営利活動法人として障害者、高齢者、移民などあらゆる福祉活動を実施。中でもキタの事業は大きく、ドイツ全国で2300施設、ドルトムントには19施設があります。我が家が申し込んだキタのうち、2つがAWOによる施設でした。今回のキタで「園外活動も積極的に行なっている」と話していたのも、そんなバックグラウンドと関係があるかもしれません。



我が家で申込んだドルトムントのキタは、AWO以外には次に分類できます――シュタイナー教育の理念を反映させた「ヴァルドルフ」(Waldorf)。これは当然ながら自然志向で、子どもたちは裸足で駆け回っては木に登って遊び、インテリアも自然素材が中心です。それからカトリック系・プロテスタント系教会による運営ではキリスト教系イベントは工作やお祭りといった形で祝うことになります。もちろんクリスマスは一大イベントで、神父や牧師による説教なども執り行なわれます。子供たちの生活条件改善を目指す“シェルター”「SOS-Kinderdorf」が運営するキタでは、シェルターの子どもたちに加え一般の子どもも利用できる点がおもしろいと思います。


そもそもドルトムントでのキタ探しが大変な理由は、申込方法がバラバラだから。例えばミュンヘン在住の友人は、「こちらは一括申込みよ」と言っていました。ドルトムントでも来年には一括申込みの運用が始まるとかなんとか…。噂はあるものの、ないものねだりをしてもしょうがないので地道に郵送・電話・訪問による申込みを行なっています。そして、申込み後は入所まで毎年確認の電話をしていくのです…。

キタ当事者たちにとっても、少ないスタッフの中から申込受付や問合せに時間を割かなければならないのは負担が大きく非効率的ですし、今回訪問したキタのように「只今700人待ちです」と申し訳なさそうに答える様子を見るにつけ、毎度告げる側としてもいい気持ちはしないだろうなと察するのでした。状況が改善しますように。

シュルテ柄沢 亜希

Aki SCHULTE-KARASAWA ● 1982年生まれ、ドイツ・ドルトムント在住。フリージャーナリスト。執筆ジャンルは自転車・アウトドアアクティビティ、スポーツ、旅、食、アート、ライフスタイルなど文化全般。幼少期の5年間をハンブルクで過ごしたことがアイデンティティのベースにある。好きなものは、ビール、チーズ、タマゴ――ワイン、日本酒、ウイスキーも大好き。ランニング、ロードバイクライドにてカロリーを相殺する日々。ブログ「ドイツのにほんじん」に日記をつけ、産経デジタル「Cyclist」、三栄書房「GO OUT」などで執筆中。

シュルテ柄沢 亜希