ドイツ情報満載 - YOUNG GERMANY by ドイツ大使館

新たな対応と共に歩み始めた音楽大学

ケルン音楽大学 ©2020 Saki Kubota

新たな対応と共に歩み始めた音楽大学

7月に入り、ドイツは夏休みが始まりました。レストランやカフェでは食事や会話を楽しむ人も増えてきて、街には少しずつ日常が戻ってきています。

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テラス席で食事や会話を楽しむ人々 ©2020 Saki Kubota



さて、前回に引き続き、今回は対面レッスンが再開したケルン音大に加えて、ドイツ各地にある他の音楽大学の様子もお届けしたいと思います。

 

新しい規程が加わったレッスン室


私がケルン音大を訪れたのは6月上旬でしたが、まだ殆どの授業やレッスンがオンラインで行われていたため、学生も含めてあまり人はいませんでした。

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静まり返った大学構内 ©2020 Saki Kubota



レッスン室へ向かうために使っていたエレベーターは一人だけしか乗ることができなくなっているなど、色々なところで新型コロナウイルスの影響による変化を感じさせられます。

『エレベーター内、1人のみ』と書かれた張り紙 ©2020 Saki Kubota



4月に新学期が始まってからオンラインでの授業やレッスンが続いていましたが、5月末から対面レッスンも徐々に再開していきました。

ドイツの場合、州政府によって感染症対策についてのガイドラインが細かく示されています。ケルン音大では対面レッスンを行う際に『次の人との間に10分程の換気する時間を取る。』という新たな規程が加わったため、毎レッスン後に必ず窓を開けて換気を行うようになりました。これによりレッスン時間は通常よりも10分短くなってしまいますが、次の生徒との接触を避けられる工夫がされています。

換気中のレッスン室 ©2020 Nenad Lečić



また、大学側はレッスン中もマスクの着用を推奨していますが、それが難しい声楽や管楽器のレッスンなどでは、マスク着用の代わりに5メートルの距離をとってレッスンをします。この時レッスン室に入れるのは先生、生徒、伴奏者を含む3人までと決められており、更に飛沫感染を防ぐためのパーテーションも置かれています。

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パーテーションがあるレッスン室 ©2020 Chie Ogata



このような新しい規程が加わった形で、今後もレッスンが行われるようです。

 

各音大が行う様々な対策


ドイツには全24校の国立(州立)音楽大学があります。今回はその中から各音大に在籍している私の友人たちから教えてもらった内容を基に、いくつかご紹介していきます。

 

ベルリン芸術大学


ドイツの首都で、国内最大の都市ベルリンに、音楽大学と美術大学が統合される形で、1975年に芸術大学(HdK)として設立されました。2001年からは、音楽、舞台芸術、デザイン、美術など、多様な専門コースを持つ総合芸術大学(UdK)になり、ヨーロッパ最大級の規模を誇る名門芸術大学として知られています。

ベルリン芸術大学 ©2020 Tomoyo Umemura



ベルリン芸大では、自宅にピアノが無く大学で練習が必要な学生を優先的に5月から練習室を使えるようにしました。

しかし、接触制限が始まる前は週末でも練習室は利用できましたが、規制が解除になった後は土日と祝祭日は大学施設全体が閉まってしまうため、練習が全くできない状況になっていました。

大学構内で感染するリスクを減らそうという大学側の計らいもあったようですが、自宅で練習ができない学生にとっては、この規程に順応するのは大変だったようです。

いつもよりも距離を取って置かれているピアノ ©2020 Tomoyo Umemura



ベルリン芸大では、対面でのレッスンができない間「APPASSIMO」という新しいビデオ通話アプリを導入して、オンラインレッスンが行われていました。

対面かオンラインレッスンのどちらかを選択するのは各先生方の判断に委ねられているため、6月から対面レッスンが再開した後でも様々な理由から、オンラインレッスンを続けている先生もいたようです。

 

ドレスデン音楽大学


正式名称はドレスデン・カール・マリア・ウェーバー音楽大学。ドイツ東部ザクセン州の州都ドレスデンに、オーケストラ奏者を育成する音楽教育機関として1856年に設立されました。

以前は高校として使用されていた校舎 ©2020 Mao Ito



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モダンなデザインの新校舎 ©2020 Mao Ito



ドレスデン音大では、まず最初に卒業を控えている生徒を5月初旬から、中旬頃からはその他全ての生徒たちも構内で授業やレッスンを受けられるようになりました。

大学構内でのマスク着用、ソーシャルディスタンスを保つこと、そして声楽や管楽器のレッスンではパーテーションを用いることなど、他の音大と同様に徹底されています。

パーテーション越しに行われているレッスン ©︎2020 HdM Dresden, Stefanie Pilz



ドイツの音大では、多くの学生が卒業するにあたり自身のソロコンサートを行いますが、今夏の卒業コンサートは中止や延期、または無観客で行われることが多くなっています。

ドレスデン音大では卒業コンサートは開催されていますが、会場内に入ることができるのは審査をする先生方、聴衆、演奏者等を含めた定員30人に限定されているそうです。

 

ハンブルク音楽大学


正式名称はハンブルク音楽演劇大学。ドイツ北部に位置する国内第二の都市ハンブルクに、私立演劇学校を前身として1950年に設立されました。世界的に有名なNDRエルプフィルハーモニー管弦楽団(旧北ドイツ放送交響楽団)が拠点を置いている街でも知られています。

ハンブルク音楽大学 ©2020 Ruri Utsuki



ハンブルク音大では、授業やレッスンは主にオンラインが中心でしたが、5月から大きい部屋でのレッスンや楽器の合わせなどが可能になりました。他の大学と同様に、レッスンの際には人との距離は最低でも2メートル以上、声楽や管楽器のレッスンでは5メートルの距離を空けて行うことが決められています。

中庭から見る校舎裏側 ©2020 Ruri Utsuki



3月半ばからドイツで始まった制限措置により大学では練習室等が閉まり、多くの学生たちは構内で練習ができない状況でした。そのような中、自宅に楽器がなく練習が困難な学生たちを対象に、サイレント機能が付いたピアノの貸し出しを無償で行ったようです。

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大学から貸し出されたアップライトピアノ ©2020 Megumi Kuroda



運搬費などを含む費用の全てを大学側が負担してくれたこの対応には「すごく助けられた!」という学生側からの称賛の声が多く、日々の練習が欠かせない彼らにとって大きな助けになったようです。

またハンブルク音大では、今学期卒業する学生のコンサートをインターネットでライブ配信を行っています。これはより多くの人に学生たちの演奏を聴いてもらいたい!という大学側の配慮によるものです。

最近では、国際コンクールなどで演奏動画をライブ配信される機会はありますが、この大学側の取り組みは新型コロナウイルスの影響によって自粛されていたコンサート活動を前向きに変えて、「会場にいる聴衆だけでなく、より多くの人々に聴いてもらえる」という希望を多くの学生たちに与えてくれているようです。

 

 

久保田早紀

東京都出身。2010年に招待された夏期国際音楽祭をきっかけに「ドイツでピアノを学びたい!」と強く思うようになる。翌年大学卒業後、ケルン音楽大学大学院に入学、ドイツ語もままならないまま初めての一人暮らしがスタート。異国の地ドイツで厳しい洗礼を受けながらも、多くの音楽仲間に支えられながら修士課程を修了する。その後、デトモルト音楽大学にて更なる研鑽を積み、ドイツ国家演奏家資格を取得。ドイツ各地で演奏をしていく中、聴衆からの暖かい言葉に心を打たれ、ドイツでの演奏活動を精力的に続ける。また、自分を大きく成長させてくれたドイツへの感謝の意も込めて、複数の音楽学校にて後進の指導にも力を入れている。突然のハプニングも笑って過ごせるようになってきたケルンひと筋、もうすぐ10年目。カフェとお散歩が大好きなフリーランスピアニスト。

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久保田早紀