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ベルリンで、森のようちえんの先生に 五十嵐由紀さん

ベルリンで、森のようちえんの先生に 五十嵐由紀さん

ドイツでは、自然豊かな場所で保育をする幼稚園や保育園を総称して、「森のようちえん」と呼んでいます。五十嵐由紀さんが働く、ベルリンのKita am Jägerhofも、こうした「森のようちえん」の一つ。子どもたちは、1日のほとんどを森で過ごすそうです。いったいどんな様子なのでしょう。

自然の中で自由に遊ぶ子どもたち
Kita am Jägerhofがあるのは、ベルリン西部にあるヴァンゼー湖の湖畔。周りは、うっそうとした森です。私は地図を片手に園を目指して、ハイキング気分で森の小径を十数分歩き、着いた頃には軽く息が上がっていました。
五十嵐さんは、この園に2013年から研修生として入り、2014年6月から正社員として働いています。園では1歳から5歳までの子どもたちを3つのグループに分けて預かっており、五十嵐さんが担任しているのは1歳から3歳弱までの子どもたち7名がいるグループです。残りの2グループは3歳から5歳までの子どもたちで、グループ内の年齢はまちまちです。

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園の保育時間は、月曜から金曜までの毎朝8時半から14時半まで。これは五十嵐さんが担任している3歳弱までの子どもたちの場合で、3歳から5歳の子どもたちのグループは17時まで保育するそうです。
登園した子どもたちはまずごはんを食べ、それから外で遊びます。11時半頃にいったん室内に戻り、お昼ご飯を食べたらお昼寝。14時半に親が迎えに来るというのが1日の流れです。
「朝は、子どもたちのエネルギーがすごいんです」と話す五十嵐さん。ご自身は朝6時半に起床し、毎朝1時間以上かけて登園。それからエネルギーに満ちあふれた子どもたちを迎えるのですから、五十嵐さんも相当なパワーの持ち主なのでしょう。

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子どもたちの遊び場は、園の周りに広がる森。五十嵐さんの担任の子どもたちはまだ小さいので園の敷地内で過ごしますが、3歳以上になると先生と一緒に森の奥へと入っていきます。
子どもたちは先生に指示されることなく、自分たちの興味の趣くままに自由に遊びます。先生が「みんなで歌いましょう」、「次はお遊戯」などと言うことはありません。

「子どもたちの自主性を重んじるのが、この園の教育方針なんです。子どもたちが遊ぶ様子を見守るのが大切なので、よほどのことが起きない限り、止めることはしません」
五十嵐さんは、ほかの先生から以前「自分がヒマだと思ったら、それが正しい」と言われたそうです。
その代わり、子どもたちが遊ぶ前には毎日朝会を行います。「暴力は止める」、「汚い言葉は使わない」、「砂や石を投げない」などのルールをみんなで確認してから遊びます。

大切な「慣らし保育」期間
Kita am Jägerhofの子どもたちはあまりに自由に見えるので、従来の幼稚園教育に慣れた人には不安かもしれません。
しかし五十嵐さんのお話から、子どもの自主性を重んじるということは、ただの放任主義とは違うのだと思いました。

「自主性を生かすためには、先生と子どもとの信頼関係が重要なんです。子どもが船なら、先生は港。いつでも先生の元に帰ってこられるという安心感が、子どもに必要なんです」

そのために、新しい子どもが入園してくると、必ず最初に慣らし保育の期間を設けています。慣らし保育とは、先生と子どもが1対1で過ごすこと。ほかの子どもたちが森で遊ぶ間、慣らし保育期間中の子どもは、ずっと先生のそばにいます。
やがて子どもたちは、次第に自分から進んでほかの子どもたちと遊ぶようになるそうです。子どもが園でお昼寝できるようになれば、信頼関係ができたと見なされ、慣らし保育期間は終了します。

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日本で就職後、一念発起してドイツへ留学
五十嵐さんがこの仕事に就いたのは、じつはドイツに来てからのこと。日本の大学ではドイツ文学を学んでいましたが、卒業後はメーカーで働いていました。
しかし就職後に、「このまま人生が過ぎてしまうのか」という想いがわき起こり、ドイツへ留学しようと決心。2008年9月にドイツへ移住し、猛勉強して1年後にドイツの大学に入学しました。
福祉分野に興味があったことから、ドイツの大学では社会的弱者・障害児のための教育学を専攻。在学中には別の保育園で研修を行い、そこで知り合った人から、このKita am Jägerhofを紹介してもらいました。在学中から研修生として働き始め、大学を卒業してからは正社員になり今に至っています。

勇気を出して留学したことで、まったく新たな世界に飛び込んだ五十嵐さん。日本にいた頃は、まさか森のようちえんの先生になるとは思ってもいなかったそうです。遠い将来のことはまだわからないそうですが、しばらくは自然の中で子どもたちと過ごす時間が続きそうです。

文・写真/ベルリン在住ライター 久保田由希
2002年よりベルリン在住。ドイツ・ベルリンのライフスタイル分野に関する著書多数。主な著書に『ベルリンの大人の部屋』(辰巳出版)、『ベルリンのカフェスタイル』(河出書房新社)、『レトロミックス・ライフ』(グラフィック社)など。近著に『歩いてまわる小さなベルリン』(大和書房)。http://www.kubomaga.com/

久保田 由希

東京都出身。小学6年生のとき、父親の仕事の関係で1年間だけルール地方のボーフムに滞在。ドイツ語がまったくできないにもかかわらず現地の学校に通い、カルチャーショックを受け帰国。大学卒業後、出版社で編集の仕事をしたのち、フリーライターとなる。ただ単に住んでみたいと、2002年にベルリンへ渡り、そのまま在住。書籍や雑誌を通じて、日本にベルリン・ドイツの魅力を伝えている。『ベルリンの大人の部屋』(辰巳出版)、『歩いてまわる小さなベルリン』『心がラクになる ドイツのシンプル家事』(大和書房)、『かわいいドイツに、会いに行く』(清流出版)、『きらめくドイツ クリスマスマーケットの旅』(マイナビ出版)ほか著書多数。新刊『ドイツ人が教えてくれたストレスを溜めない生き方』(産業編集センター)。散歩、写真、ビールが大好き。

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久保田 由希