ドイツ情報満載 - YOUNG GERMANY by ドイツ大使館

ドイツ人はspontan?(シュポンターン)

ドイツ人はspontan?(シュポンターン)

ドイツでは全面的に「良いこと」だとされているけれど、

日本ではあまり良くないとされている(あまり歓迎されていない)性質の一つに

„spontan“(シュポンターン。形容詞。和訳: 「(その場の)ノリで」「衝動的な」「場当たり的な」)というのががあります。(ちなみに関連する名詞は„Spontaneität“(和訳:「偶然発生」)です。)

わかりやすく言うと、spontanとは、つまりあまり計画をせず、個人のその日の気分やノリ、機嫌で動くことを指します。日本だと、個人がこのように突発的に動くことは、時に周囲からあまり歓迎されないフシがありますが、ドイツではこの「spontanであること」はイコール「限りなく良い事」だとされています。

その証拠に“Ich bin ein spontaner Mensch.“(和訳:「私は衝動的な人間なんですよ」)などと言っては自らをアピールする人がドイツには多いです。

具体的に言うと、spontanとは、例えば「今、誰々さんに会いたいな」と思ったら、次の瞬間にはもう「今から会おうよ!」と相手に電話をしていて、相手もパッとオッケーをして、一時間後にはもうパッと会っていたりするようなことですね。

ドイツではspontanな人間、イコール明るくて創造性のある人間だとされているのです。そう、たしかにドイツ人の一部に限っては「計画好き」(つまりspontanではない)なのだけれど、全体的にはspontanに憧れているというかspontanが非常に良い事だと考えられているのですね。ドイツ人が昔からイタリアに対してなんとなく抱く憧れのような感情も、イタリア人が非常にspontanで明るくノリの良い人達だということが関係している気がします。

そんなこんなで、ドイツには日本よりも、spontan崇拝というかspontan万歳の雰囲気が漂っています。そして、そうでない人、つまりspontanが苦手で計画ばかりしているような人間を見下す風潮があります。私のような、2015年になろうとしているのに、アナログのスケジュール帳(写真をご覧ください)を広げては、「一ヶ月後の水曜日の予定は・・・」などとブツブツ言いながら手帳に計画を手書きで書き込んでいるような人間は間違いなくドイツのspontan系の人々からは軽蔑される傾向にあります。

しかし。

東京にいると、spontanな行動は中々むずかしいものです。なんたって、東京は広いですから。例えばA子さんが「今日、友達のBちゃんとアイスを食べに行きたい!」と思いたち(←spontan)、その友達Bちゃんに「今日アイス食べに行かない?」と聞いても、A子さんが台東区在住、そしてBさんが武蔵野市在住であれば、真ん中で会うにしても、二人とも片道1時間はかかってしまいます。そう、実はspontan大好きである人達は自覚していないことが多いのですが、spontanはドイツのように「街の規模が小さい」からこそ成り立つものでもあるのですね。「今日会おう!」となった時に、お互いに地下鉄で10分も移動すればサッと会えてしまうようなミュンヘンのような規模の街だったら、spontanも可能だけれど、東京においてはspontanを決行するには街の規模が少々大きすぎる、といったところでしょうか。

それに、なんといっても東京の人は平均して忙しいです。みんな、何曜日の夜は会社の飲み会、何曜日はお稽古事、何曜日は誰々さんと会って、何曜日は法事、などといった具合に何日も先、いや何週間も先の計画を立てているのが結構普通だったりします。残業だってドイツより多いですしね。「シュポンターン、spontan」を連発するドイツ人が多いけれど、一年に30日も有給休暇があったり(ちなみに病欠は有休から引かれません)、仕事は夕方(!)に早々と切り上げてお家に帰れるような人達(つまりはドイツ人)のほうがspontanに、つまり気が向いた時にパッと動きやすい、というのはあると思いますね。

先日、私はドイツから東京にやってきた人に「今日、会える?」と言われ、私もとても会いたかったのだけれど、予定が入っていたため、来週の何曜日の夜はどう?・・・と返事をしてしまったところ、“Du bist ja busy… musst Du Deine Fans treffen oder was?「サンドラ忙しいんだね、有名人だからファンに会わなきゃいけないわけ?」とドイツ流の嫌味を言われてしまいました。…まあ、ドイツの一般的な感覚だと、「何週間も先までスケジュールが埋まっている」なんてのは有名人、または会社の幹部クラス、といった認識なのですね。でもそれは「ドイツ」でのお話で、「東京」には上から下まで忙しい人がいっぱいいるのですよ、と教えてあげたいです。そんな私も下っ端で日々忙しい人間の一人(貧乏ヒマなし、ともいう)であります。

それにしてもドイツ人は本当にどこまでもspontanな人が多いのか、「サンドラ、明日から京都に行かない?」とか「明日からスノボに行こうよ」とかビックリするような自由で元気な、はい、まさにspontanなお誘いが大変多いのでございます(笑)

さて、ここまでお読みいただいて、私サンドラがあまりspontanな人間ではないことがお分かりいただけたかと思います・・・(笑)はい、ドイツにて“Ich bin ein spontaner Mensch!“(「私は衝動的な人間なんですよ」)と言っている人が何気にオレ様オーラやワタクシ様オーラ(←こんなの、ありましたっけ?)を発していたりすると、私は「あ、これは相手のペースに巻き込まれるぞ」と即警戒態勢に入ってしまったりします(苦笑)押しの強いキャラの人でspontanな人は実は苦手。だってその日の本人の気分で「今日、海行こう!」と言って、私が「今日は仕事なの・・・」と答えると、私を物凄くダサい人間みたいに言うんだもの。そしてお決まりの「そんなに仕事ばっかりして君は病気だ。日本人みたいだ」とかね。要はspontan万歳の人達って、自分が突飛な思いつきで今すぐ何かをやりたいと思った時に、相手が即「はいっ!」と飛んで来てくれる事を望む、ある意味調子のいいキャラだと私は思っていたりするのですが、こういう考え方をしてしまう私はやっぱりひねくれているんでしょうか。もしくは日本流の「忙しい、忙しい」に毒されているのでしょうか。もちろんダメ元で誘ってくれている場合は嬉しいんですけどね。でもオレの/私のspontanに合わせろ!みたいな、ドイツにありがちな「spontan至上主義」はどうも苦手な私です。人との予定は詳細をなるべく前日までには決めておきたい面倒くさいタイプの私とは合わないみたい。

・・・と、spontanについて散々書いてしまいましたが、「一人」の時のspontanは実は私も好きだったりします。「ちょっとそこまで散歩しよう♪」と目黒の家を出て、天気が良いからとそのまま歩き続け、気がついたら調布にいたこともあります。・・・あ、これはspontanとはちょっと違うのかしら?

ほんとうは朝起きた時に、「今日はなんだか・・・ハワイな気分だわ」なんて思い立ち、その日のうちに夜ハワイへと旅立ったら・・・それこそが上級系spontanだといえるでしょう。そういえば、ドイツには"Last minute Flüge"というのがあります。行き先が飛行機に搭乗する寸前にわかるというもので、要は航空会社や旅行会社にキャンセルが入ったぶんを、他の人が安く乗れるシステムなのですね。行き先は幅広く、Teneriffa(テネリフェ島)、Malediven(モルジブ)、Bahamas(バハマ)等々世界のあらゆる街や島なので、とりあえず休暇はとったけれど、行き先にはこだわらない人にとっては、この"Last minute Flüge"は楽しいサプライズなのですね。何せ直前にならないと行き先がわからないのですから。なんといっても安いですし。これも、かなりspontanな発想だと言えるでしょう。ただこれも「ドイツだからこそできること」だと思います。日本人の場合は、有休の日にちが少ないですし、その限られた有休を旅行に使う場合、やっぱりそのぶん「行き先」にはこだわりますし前々から計画をした上で旅行に出かけることが多いようですね。なので、ドイツの「その日に行き先が決まる」(上記の"Last minute Flüge")のようなシステムは日本だと流行らないわけです。

様々な面のおいて日本とドイツは「似ている」と言われている一方で、私はこのspontan一つをとっても、日本とドイツはかなり「違う」と感じています。個人の思いつきで、突飛なことをしても比較的歓迎されるドイツ、全体的にやっぱり「計画」が好きな日本。(もちろん、色んな人がいますから、あくまでも「傾向」ではありますが・・・)

日本の場合、特に仕事の面において、組織の中で個人(一社員)が思いつきのままで動くのは何かと「空気が読めない」と言われてしまいそうです。個人が突発的に動くのは歓迎されていない印象を受けます。これがドイツの場合、もちろん仕事の内容にもよりますがspontanが歓迎されるシチュエーションも多いように感じますね。schedule

Spontan/ Spontaneitätという現象(?)一つをとっても、こんなところにも日独の文化の「ちがい」があったのですね。

まだまだ色んな発見がありそうです。

※写真: 2015年のスケジュール帳を4冊買ってしまいました。予定を書き込む用、日記として使う「やったこと」を書き込む用、使ったお金を書き込む用、食べたものを書き込む用・・・です(笑)

サンドラ・ヘフェリン

ドイツ・ミュンヘン出身。日本歴19年、著書に「ハーフが美人なんて妄想ですから!!」(中公新書ラクレ) 、「ニッポン在住ハーフな私の切実で笑える100のモンダイ』(原作: サンドラ・ヘフェリン、漫画: ヒラマツオ/KADOKAWA)、「『小顔』ってニホンではホメ言葉なんだ!?~ドイツ人が驚く日本の「日常」~」(原作: サンドラ・ヘフェリン、漫画: 流水りんこ/KKベストセラーズ)」など計11冊。自身が日独ハーフであることから、≪ハーフはナニジン?≫、≪ハーフとバイリンガル教育≫、≪ハーフと日本のいじめ問題≫など「多文化共生」をテーマに執筆活動をしている。ホームページ 「ハーフを考えよう!」 を運営。趣味は時事トピックについてディベートすること、カラオケ、散歩。

サンドラ・ヘフェリン