3カ月ぶりのドイツ国内移動(後編)
ドイツで、コロナ対策の本格的な社会生活制限・移動制限が始まったのは3月中旬以降でした。それから3カ月が経過し段階的に制限の緩和が進んだ6月17日、バイエルンからベルリンへ、ドイツ鉄道に乗って3カ月ぶりの長距離移動をしてきました。前編に続いて、ベルリン到着後の様子をリポートします。
ベルリンへようこそ!
がらすきのICEが、予定時間通りにベルリン中央駅に到着しました。ソーシャルディスタンシングを気にする必要もないほど快適な車内。予想に反してストレスの少ない鉄道の旅を終えてベルリンに降り立った私の目に、最初に飛び込んできたのは次の光景でした。
手作りのウェルカムボードを抱えた高校生くらいの女の子たち数人が、ホームに駆け込んできたのです。そして電車で到着したばかりの友だちを見つけるなり、歓声を上げてハグし合っていました。ちなみに、彼らはだれもマスクをしていませんでした。
しかしそこはさすが自由とLove&Peaceの街ベルリン、近くに居合わせた人々は彼女たちに目もくれず、そそくさと階段を上っていきます。悲しいかな、上りのエスカレーターが壊れていました。
「あぁ、ベルリンに来たな」
同じドイツ国内とは思えない差異を感じて、バイエルンからベルリンに到着すると毎回こう思う瞬間が必ずあるのですが、今回は到着後数秒でその瞬間がやってきました。最短記録かも。
ここから市内交通の電車、Sバーンに乗り換えてホテルまで移動したのですが、Sバーンのホームでは次の光景に出会いました。
マスク着用義務はなぜ守られないのか?
ベルリン交通局(BVG)の簡易コーナーが設置され、マスクを着用したスタッフの皆さんが、消毒液とマスクを配布していたのです。スタッフは3人、しかしあまり積極的な気配も感じられません。聞けば、とりあえず今日だけのにわかキャンペーンで、電車内でのマスク着用率を上げるための啓もう活動だということでした。いくつか質問をしてみました。
私「ベルリンの人って、電車の中でマスクしない人が多いんですか」
BVGの人「多いですね」
私「電車内でマスクしていない人を見かけたら、交通局側としてはどうするんですか?」
BVGの人「そこのあなた、マスクしてくださいって言います」
私「罰金はないんですか?」
BVGの人「ないです」
ちなみに、バイエルン州では公共の場でのマスク着用義務規則に違反した場合、150ユーロ以上の罰金を徴収されるためか、アウクスブルク市内での交通機関の車内マスク着用率はほぼ100%です。一方で6月17日時点でのベルリンのように、マスク着用を義務付けてはいるけれど、罰金制度を導入していない州も結構あります(参照: 罰金カタログ)。ドイツ人は「義務(Pflicht)」と言われたときにどういう行動をとるのか、さらに罰金があるのとないのとでは「義務」の意味がどう違ってくるのか、興味深い社会学調査の実態を見ている気がしました。
*この後、6月27日からベルリンでもマスク着用義務違反に対して罰金が導入され、市内の公共交通機関利用の際に未着用の場合は、50ユーロ以上の罰金が科せられることになりました。
この日のベルリンの日中気温は29度まで上がりました。暑いとマスク着用がつらいものです。道を歩いている人のマスク着用率はさらに低く(注:一般道では着用義務なし)、マスクをせずに1mくらいの至近距離で話しかけてくる人もいて焦りました。なんというか、さすがベルリンだなぁと感慨深かったです。
ちなみに、ベルリンは累計感染者数が6月17日の時点で7402人。人口10万人に対して197人と、全国平均(225人)を下回ってはいましたが、過去7日間の新規感染者数は10万人に対して7.9人と、他州に比べて増加傾向を示していました(ロベルト・コッホ研究所調べ)。
MUJI旗艦店のオープニング
今回のベルリン行きの目的は、新しくクーダムにオープンするMUJI(無印良品)旗艦店のお手伝いでした。同旗艦店のオープンはもともと5月に予定されていたところ、コロナ禍で1カ月延期され、コロナ対策のための入店制限やマスク着用義務があることなどから、新店オープンのための宣伝も控えたとのこと。しかしそのわりには、まずまずの客入りだったようです。
MUJI店舗はすでにベルリン、ミュンヘン、デュッセルドルフなどドイツ国内6都市に展開していますが、コロナ危機をきっかけに売り上げが上がったものは、収納道具やスリッパなのだそうです。外出制限で人々の関心がインドアに向かっていることを伺わせます。これ以外にも人気商品のひとつが、室内にエッセンシャルオイルの香りを拡散させるアロマディフューザーだそうで、一方、当然ながら売り場面積が縮小気味でひっそりとしていたのは旅行グッズのコーナーでした。
ホテルの宿泊制限ルール
ベルリンのホテルでは、宿泊率100%まで宿泊客を受け入れてもよいけれど、チェックアウト後は48時間、その部屋を空室にして換気と消毒を行わなければいけないというルールが適用されていました。また、ホテルで朝食を出してもいいけれど、ビュッフェ形式は不可となっていました。
私はクーダムの近くにある小さなホテルに泊まったのですが、ここはフランス企業の系列だということで、フランスルールを一部入れた、通常のベルリンのホテルよりも厳しめのルールが適用されていました。
たとえば、チェックアウト後の48時間ルールは同じですが、宿泊率は50%以下に制限されていました。また、このホテルでは朝食は出していませんでした。
しかし旅行者や出張者が少ないため、手ごろなお値段で泊まることができ、ホテル周辺ではカフェやレストラン、スーパーがふつうに営業をしていたため、大きな不便はありませんでした。
今回の旅行は、コロナ危機によって多くの人の移動が止まったことが、どんな変化を社会にもたらしているのかを見聞する機会になりました。また一方で、コロナ対策の地域差も目の当たりにできて興味深かったです。
まだ予防薬も治療薬も開発されておらず、多くの人の命を奪っている新型コロナウイルス。命や生活を守る手段としての社会生活制限が経済に与えた打撃は大きいですが、人々が自由を制限されることによって社会に蔓延するストレスの影響が、決して小さいものではないことも感じました。
今まであたりまえのように享受できていたものが簡単に得られなくなるとき、人は改めてそのことの価値について考えてみるようになります。コロナ危機は、そのような貴重な機会にもなっているのだと実感しました。
*この旅行記は、2020年6月17日~19日にかけてのものです。ドイツにおいてもコロナ禍による状況は時々刻々と変化しており、対策においても同様です。その旨ご考慮いただき、お読みいただければ幸いです。