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市の機関ファミリエンビュローが家庭訪問 ドイツ流“保活”のはじまり?

市の家族相談士がブンデスリーガチーム「ボルシア・ドルトムント」関連のお土産とと共にフォルダーいっぱいの書類を持ってやってきました Photo: Aki SCHULTE-KARASAWA

市の機関ファミリエンビュローが家庭訪問 ドイツ流“保活”のはじまり?

連載「ハローBaby ~子育てABC」<7>

赤ちゃんがドイツでどれほど歓迎されるかという内容だった連載「ハローBaby ~子育てABC」第2回で、ドルトムント市ファミリエンビュロー(Familienbüro)スタッフの担当者名・訪れるスケジュールをお知らせする通知があったと書きました。その後予告どおり来訪がありました――ブンデスリーガチーム「ボルシア・ドルトムント」デザインのベビーグッズなどお土産をたくさん携えて。さて、スタッフとはどんなことを話すのでしょうか?

|フォルダーいっぱいの書類


およそ1時間のスタッフ滞在では、ファミリエンビュローがどんなサービスを提供しているのかという説明からスタート。ファミリエンビュローは、日本語にするなら“家族課”というかんじでしょうか。子育てや教育、レジャー、文化・スポーツアクティビティーといった家族向けの地域情報を提供し、相談を受けている機関です。これから頻繁にお世話になっていく機関ですね。

ファミリエンビュローからもらった子供向けのお土産 Photo: Aki SCHULTE-KARASAWA

ファミリエンビュローからもらった子供向けのお土産 Photo: Aki SCHULTE-KARASAWA



スタッフからは、お土産だけでなくフォルダーいっぱいの書類を受け取りました。書類の内容は、この先の子供の発育の流れ、子育てティップス、子供を取り巻く家庭内の危険物、地域で開催されるワークショップ案内、子供向け医療・レジャー施設の連絡先リーフレット…などなど。スタッフはそれをひとつずつ見ながら簡単に説明し、同時に夫とわたしの反応を見ることで問題がなさそうか補足が必要かを確認していっているようでした。

夫のようにいかにドイツで生まれ育った人たちでも、親になってみなければわからないことだらけ。窓口にて待つ受動的、あるいは手紙を送るなど半能動的な姿勢でなく、初回だけとはいえアポイントを取ってファミリエンビュローのスタッフが家庭を訪れるという方法に納得です。市としては書面や窓口対応だけでは見えてこない家庭の様子を把握しやすいですし、家族としては安心材料となりますよね。

ファミリエンビュローのスタッフは、この先の子供の発育の流れなどをわたしたちの反応を見ながらひとつずつ説明しました Photo: Aki SCHULTE-KARASAWA

ファミリエンビュローのスタッフは、この先の子供の発育の流れなどをわたしたちの反応を見ながらひとつずつ説明しました Photo: Aki SCHULTE-KARASAWA



|託児・保育施設「キタ」の種類


受け取った書類のうち、とりわけ注目していたのが託児・保育施設のリスト。ドルトムントでは託児・保育施設は一般的に「キタ」(Kita=Kindertagesstätte)と呼ばれます。義務ではありませんが、就学前の3歳以上の子供にはキタ通いが推奨されています。

キタには幼稚園・保育園・保母さんによる預かり施設(含、保母さんの自宅)=ターゲスムッター(Tagesmutter)といった種類があり、さらにひとくくりに幼稚園・保育園といっても、カトリックかエバンゲリッシュなどのキリスト教系キタや、自然志向のキタ「ヴァルドルフ」(Waldorf)があるのは特にドイツらしい点でしょうか。

ヴァルドルフは、日本でも知られている「シュタイナー」のキタ。個人的にとても魅かれますが、ヴァルドルフの運営には親の参加が不可欠とされています。例えば、ガーデンのメンテナンスや各所の掃除など参加必須のスケジュールが立て込んでいて、現実的には難しそう…。またキリスト教系のキタは市が配布しているリストにも掲載されていますが、キリスト教に属していなければ通常利用できません。

「属している」というのは、キリスト教であることを役所へ申告し、所得税の9%(ノルトライン=ヴェストファーレン州の場合)の教会税(Kirchensteuer)を支払っている状態。最近は教会税を嫌って無宗教を選ぶドイツ人も増えている中、ある友人夫婦は娘をキタへ入れるために再度キリスト教へ“戻る”選択をしていました。別のドイツの友人とは、「市のリストの中にキリスト教系キタを並列するのって、おかしくない?」と一緒に首を傾げたのでした。

|各々リサーチし申込み


そんなわけで実質的にスタートした保育園探し“保活”ならぬ、“キタ活”。ドルトムントではキタへの申込みに一律方式はなく、リストなどをもとに自分たちで各キタへ問い合わせ、申込みが可能かどうかや、可能な場合は申込書類を取り寄せてそれぞれ記載・提出、進捗の確認が必要です。

保育園探し“保活”ならぬ、“キタ活”はリストなどをもとに各々リサーチし申込み Photo: Aki SCHULTE-KARASAWA

保育園探し“保活”ならぬ、“キタ活”はリストなどをもとに各々リサーチし申込み Photo: Aki SCHULTE-KARASAWA



子供が昨年12月〜今年1月に生まれた友人家庭の多くは、子供が1歳で通い始めるためキタ探しに奔走しています。教師をしている友人は、ターゲスムッターへの申込みを済ませ回答待ち。とはいえ「年明け以降に決まるといっていたけれど、連絡がなければこっちから連絡するわ」といった調子で、東京で見聞きした状況に比べればさほど切迫感はありませんでした。

ドルトムント市でもキタの待機児童数は東京ほどではないにしろそれなりに多く、ファミリエンビュローのスタッフによれば5000人。市としては申し訳なく思うとしつつも、「待機児童の問題はひとりひとりの子供の世話にかかる手間・時間が増えたから」と話していました。大家族・専業主婦文化が縮小したことにより、特別な保育資格が必要な1歳から子供を預ける家庭が増加したことも大きく影響していそうです。

我が家では、息子が3歳時にキタをスタート予定。現時点では、4つのキタへ申込みをすることにしました。1歳組より早くにキタ探しができる分、アドバンテージがありますね。2021年までに決まればよいので、気長に進めることとします。

シュルテ柄沢 亜希

Aki SCHULTE-KARASAWA ● 1982年生まれ、ドイツ・ドルトムント在住。フリージャーナリスト。執筆ジャンルは自転車・アウトドアアクティビティ、スポーツ、旅、食、アート、ライフスタイルなど文化全般。幼少期の5年間をハンブルクで過ごしたことがアイデンティティのベースにある。好きなものは、ビール、チーズ、タマゴ――ワイン、日本酒、ウイスキーも大好き。ランニング、ロードバイクライドにてカロリーを相殺する日々。ブログ「ドイツのにほんじん」に日記をつけ、産経デジタル「Cyclist」、三栄書房「GO OUT」などで執筆中。

シュルテ柄沢 亜希