風邪で休んでも有給休暇は減りません!ドイツの会社の病欠事情
皆さん、こんにちは!
ドイツ・ワークスタイル研究室の高橋です。
ドイツに行ったことのある皆さんに質問です。
「ドイツで一番のカルチャー・ショックは何でしたか?」
―ビールが安くて美味いこと?
―ドイツ料理の一人前のボリュームの多さ?
それもありますが、私にとってはやっぱり「日本とドイツの働き方の違い!」
厳密に言うと、休み方の違いです。
年間30日の有給休暇、消化率ほぼ100%!って、社会人がそんなに休んで大丈夫なの?!
そんな衝撃から始まったドイツ・ワークスタイル研究室、前回に引き続き「休み方」からドイツの労働環境に迫ってみましょう。
今回は、病欠について!
有給休暇と病気休暇は分けて考えます
朝、目が覚めるとなんだか体調が思わしくない。熱もあるようだ……。
さて、どうしよう?
新型コロナウイルスが流行する今は、体調不良や咳などの諸症状が出たら問答無用で「会社を休む」一択ですね。
ドイツで働く被雇用者(法定健康保険に加入)は、年間最長6週間の「病気休暇(Lohnfortzahlung im Krankheitsfall)」を取得できます。この間の給与は雇用主が全額支払います。
さらに病欠が6週間以上に及ぶ場合は78週まで法定健康保険が「傷病手当(Krankengeld)」として額面給与の70%(手取り給与の90%が上限)支払います。
これは、リフレッシュのための「有給休暇(Urlaub)」とは別のものです。
ここ、大事なところなのでもう一度。
ドイツでは、病気やケガの療養のために「有給休暇」は使いません。
つまり、「もしも」の体調不良に備えて有給休暇を残しておく必要はないのです。
有給休暇を取得したけど、休暇中にケガや病気に見舞われて寝て過ごさないといけない、しっかり療養する必要があるという場合には、その期間は有給休暇にカウントされず、病気休暇として休むことができます(医師の診断書は必須)。
完治してから、改めて別の日に有給休暇を申請・取得します。
有給と病欠を混同して考える必要がないので、労働者は心置きなく有給休暇の使い切ることができます。
ドイツの有給休暇消化率がほぼ100%である理由は、「病気休暇」のおかげとも言えるようですね。
子どもの看病には「子ども看護手当」。コロナ禍でも大活躍しました!
「でも、子どもがまだ小さいから、体調を崩しやすい子どもの看病のために有給を残しておかないと!」と、心配しなくても大丈夫です。子育て世代には、子どもの看病の際に利用できる「子ども看護手当(Kinderkrankengeld)」があります。
これは、法定健康保険が額面給与の70%(手取り給与の90%が上限)を支払います。
これは、法定健康保険が額面給与の70%(手取り給与の90%が上限)を支払います。
子ども(12歳まで)の看護のための病気休暇の日数は、新型コロナウイルスのパンデミック前は、二人親家庭の片親の場合は年間10日まで、一人親家庭では年間20日まででした。
学校閉鎖を伴うロックダウンや、クラスに陽性者が確認された後の隔離期間中、親は仕事を休まざるを得ません。こういった子育て家庭にとって負担の大きい感染予防策が立てられたことに対応するように、この「子ども病気休暇」の日数が拡充されました。
2021年8月現在、二人親家庭の場合は片親が取得できる日数の上限が年間30日間に、一人親なら60日間です。
もちろん、子ども自身の看病が必要なときのほか、子どもの通う学校や幼稚園の閉鎖中または隔離期間中に仕事を休む場合にも申請できます。
我が家も小学校に通う子どもの休校を経験し、つい最近も同じクラスに「陽性」の生徒が確認されたため、PCR検査の再検査を受けるためにまた数日間は学級閉鎖でした。
現在、ドイツの学校に通う生徒は週2回、新型コロナウイルスの検査をしています。次はいつ、誰が「陽性」という結果を引き当てるか分かりません。いくら休業補償が一世帯当たり年間60日あったとしても、現実は厳しいです。共働きをしている子育て世帯や一人親家庭にとって困難な状況が続いています。
「病気休暇」の取得方法
さて、病気休暇の取得は被雇用者の権利ですが、もちろん無断欠勤はだめです。最悪の場合、解雇されてしまいます。
労働者の権利を行使するためには、雇用者へ正しく病欠を届け出ないといけません。
①「今日は体調が悪いので会社をお休みします」
ドイツで会社を病欠する際はまず、日本と同じように会社に(上司に)連絡します。「病欠届け(Krankmeldung)」は、出社予定時刻より前に行いましょう。②「◯日、お休みする予定です」
会社を病欠する期間を伝えます。朝一の段階ではまず見通しで大丈夫です。③「医師から就労不能証明書を発行してもらいました。◯日まで休みます」
病欠が3日以上になる場合は、かかりつけの医師に「Arbeitsunfähigkeitsbescheinigung(就労不能証明書)」を書いてもらい、会社に提出する義務があります。そのため、多くの人は病欠する初日にかかりつけ医を受診します。医師の診断と助言をもとに「就労不能証明書」を発行してもらい、会社に病欠日数を伝えて証明書を送付します。
それでも体調が回復しなかったら再度受診し、改めて「就労不能証明書」を書いてもらいます。
病欠を伝える際に、病名を会社に伝える義務はありません。
会社に提出する「就労不能証明書」には病名を明記する欄もなく、病名や病状などプライベートな事柄を聞き出す権利は会社にはありません。
病気やケガ、うつ病などの精神疾患など病欠の理由は様々。
会社に病名を知られたくないという労働者の権利は守られます。
さて、そんなドイツの労働者は、どのくらい病欠しているのでしょう?
ドイツ連邦統計局の発表によると、ドイツでは、平均病欠日数は年間10.9日(2019年)でした。
【グラフ】ドイツの労働者一人当たりの平均病欠日数(年間)
興味深いのは、この平均病欠日数の推移。景気の悪い年には少なく、景気が上向きだと多くなる傾向にあるそうです。今回のコロナ禍では、当てはまらないかもしれませんが。
健康第一!がワーク・ライフ・バランスへの第一歩
日本でも、新型コロナの流行以前は、多少体調が悪くても出社するのが当たり前……という意識の人が多かったのではないかと思います。「熱が39度あれば休むけれど、37度5分は微熱だし、頑張って出社しよう」
「仕事が気になるから、とりあえず行こう」
実際、私自身がそう言う考え方で仕事をしていました。
「体調管理も仕事のうち」とはよく聞く言葉ですが、所詮は人間。体調が悪くなることだってあります。
心身の健康があってこそ、仕事ができ、プライベートも充実されられるというものです。
自分の健康を第一に考えることが、働き方改革の第一歩!
ちなみに、日本にも似たような制度があるんですね!
病気の時は、「傷病手当金」(病欠4日目から)
子どもが病気のときは、「子の看護休暇」
コロナ禍における学校休校には、「新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応助成金」
調べれば調べるほど、有給休暇も育児休暇も世界的に見てトップレベルの制度が日本にはあります。
あとは、使うだけ。
その一歩が、難しい。
だからこそ、勇気ある一歩を踏み出した社員がいたら、部下がいたら、同僚がいたら、
それぞれの立場で応援してみませんか?
困った時には誰もが当たり前に制度を利用できて、本当の意味での安心・安全を確保できる。
そんなセーフティーネットの機能する社会を目指して。