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子連れで肉屋へ行くと… 歯が生え始めた赤ちゃんを待つお食い初め的な“通過儀礼”

子連れで肉屋・肉売場へ行くと必ず「食べる?」と聞かれるものがある Photo: Aki SCHULTE-KARASAWA

子連れで肉屋・肉売場へ行くと必ず「食べる?」と聞かれるものがある Photo: Aki SCHULTE-KARASAWA

子連れで肉屋へ行くと… 歯が生え始めた赤ちゃんを待つお食い初め的な“通過儀礼”

連載「ハローBaby ~子育てABC」<14>

赤ちゃん連れでドルトムント市内の買物に出るたび、やらなければいけないことがありました。それは、ショッピングやカフェ中息子に何か食べ物をくれようとする店員さんに「まだ食べられないと思います」とお礼を言いながら断ること。離乳食などまだ考えてもいなかった生後6カ月頃から聞かれていたでしょうか… 断るたび決まって「あら残念!」という反応が返ってきたものです。

|子供といえばフライシュヴルスト


初めて聞かれた場所は、肉屋。「フライシュヴルスト(Fleischwurst)食べる?」と聞かれ、一瞬わたしに声をかけてきたのかと思ったくらい息子が小さい頃でした。「肉屋で赤ちゃんが肉食べるの?!」と目を丸くしたのはわたしだけで、子供自身を含め老若男女誰もが親しんでいる慣習となっているようです。行きつけの肉屋でだけでなく、どこの肉屋あるいは肉売場でも息子を連れていると必ず声をかけられます。

フライシュヴルストは、「肉ソーセージ」という意味。名前を聞いた時は、用途や食べ方、地域や具材を冠した“具体的”な名前が多いドイツのヴルストにしてはぼんやりとした名前だなと思ったのを覚えています。赤ちゃんに勧めるくらいなのだから柔らかくおとなしめの味かと思いきや、塩分は強めで弾力もしっかり。息子がもらったものを味見してみると、結構スパイスが効いていて驚きました。それと同時に、ポーランドの友人が生後8カ月頃の娘にスパイスと酸味の効いた自家製ピクルスを与えていた光景を思い出しました。郷に入りては郷に従え、ですね。

フライシュヴルストは、日本で「ハム」と言われて思い浮かべるような滑らかに挽かれたテクスチャー。結構スパイスが効いている Photo: Aki SCHULTE-KARASAWA

フライシュヴルストは、日本で「ハム」と言われて思い浮かべるような滑らかに挽かれたテクスチャー。結構スパイスが効いている Photo: Aki SCHULTE-KARASAWA



「ドイツ食品普及協会」のウェブサイトによれば、フライシュヴルストは「一般的には脂肪分の少ない豚肉と牛肉、そして脂身を細かく挽き、スパイスをさらに混ぜ合わせ人工あるいは天然のケーシングに詰め、茹でて作ります」とあります。日本で「ハム」と言われて思い浮かべるような滑らかに挽かれたテクスチャーで、味に癖がないためそのままスライスして食べる以外にも例えばわたしはチャーハンの具などとして万能に使っています。

|満を持して「フライシュヴルスト初め」


息子のフライシュヴルストデビューは、1歳1カ月の時でした。いつものように「食べる?」と聞いてきた店員さんに「きょうはいってみようかな」と答えると、「ようやく!」とその嬉しそうなこと。そう、慣習になっているからといっておざなりに作業をするのではなく、赤ちゃんや子供たちがパクパク食べる様子を見るのを彼ら自身が楽しみにしている感じがとても印象的なのです。

満を持して、店員さんが切ってくれたフライシュヴルストを息子自ら受け取りました。ぱくっ――のあとは「うえぇ〜」の顔でした。口に合わなかったかなと思っていると、「ちょっと冷たすぎなのかもね」と店員さん。少し温めてから小さなかけらをあげてみると、パクパクモグモグ完食しました。店員さんは、さすがよく分かってる。肉屋ではこんなシーンがきっと沢山繰り広げられてきたのだろうなと思うと、ほっこりした気分になりました。

歯が出るのが遅かった息子のフライシュヴルストデビューは、1歳1カ月。満を持してのデビューを喜ぶ店員さんと、フライシュヴルストを受け取る息子 Photo: Aki SCHULTE-KARASAWA

歯が出るのが遅かった息子のフライシュヴルストデビューは、1歳1カ月。満を持してのデビューを喜ぶ店員さんと、フライシュヴルストを受け取る息子 Photo: Aki SCHULTE-KARASAWA





我が家は何カ月も断り続けてきたけれど、ドイツではふつうどのくらいに食べさせるものなのでしょう? 尋ねてみると、「生後8カ月には食べてる子もいるわね。ちょうどこの子と同じように歯が生えてきた頃ね」――そう聞くと、なんだか日本の「お食い初め」のようです。

いまでは息子は、心配ご無用。フライシュヴルストが冷かろうが大きかろうが親の助けを借りずにバクバクと平らげるようになりました。

|子供も大好き 堅〜いツヴィーバック


こういった内容は、日本であればた直ちにサービス化・マニュアル化されそうな作業ですね。ドルトムントの肉屋で実際に経験した限りでは、聞かれるタイミングやその場でカットしてくれる量は店員さんによって様々です。ある時のフライシュヴルストは輪切りで1cm、別の時は買わなきゃ失礼なんじゃないかと思ってしまうくらいの特大の斜め切り3cmだったということもあります。

また肉屋にとどまらず、食を扱うあらゆるシーンで似たようなやりとりに遭遇します。チーズ売場でチーズをスライスしてもらっていると、1枚余分にスライスしてくれて「はいどうぞ」。カフェでリンゴを刻んでいた店員さんを熱く見つめていた息子に、リンゴを「はいどうぞ」。

肉屋にとどまらず、チーズ売場でもスライスしたてのチーズをいただきました Photo: Aki SCHULTE-KARASAWA

肉屋にとどまらず、チーズ売場でもスライスしたてのチーズをいただきました Photo: Aki SCHULTE-KARASAWA



はたまた別のカフェでは、ケーキとコーヒーをオーダーして席についていると、何やら息子用の小皿も運ばれてきました。老舗パン屋併設のカフェらしく、自家製のツヴィーバック(Zwieback)でした。すなわち、ラスクです。1848年創業のパン屋の本気が感じられる、クラシカルな堅焼きパンです。



日本でラスクといえばおしゃれなおやつのイメージが強いですが、ツヴィーバックは長期保管を目的としてドイツで生まれた食材です。ドイツの最も有名なツヴィーバックブランド「ブラント(Brandt)」によれば、ローマ時代より親しまれてきた「2度焼きしたパン」を家庭で美味しく食べられる食材として商品化されたのが、ツヴィーバック。というよりも「ツヴィーバック」自体がそもそも「2度焼き」を語源としています。

「赤ちゃんにこんな堅いものを?!」と驚いていると、子供のおやつにツヴィーバック、風邪をひいたらお腹に優しいセット「スープ&ツヴィーバック」というのが定番の登場場面なのだそうです。息子も手を伸ばし、食感や味を楽しみながら食べてたのでそのまま放っておくと、食後は見事に口周りのほっぺがツヴィーバックに削られ真っ赤になっていました(笑) その後もツヴィーバックはお気に入りのおやつのひとつですが、盛大に散らかるので家の中で食べる際は掃除機の後片付けがもれなく付いてきます…。

シュルテ柄沢 亜希

Aki SCHULTE-KARASAWA ● 1982年生まれ、ドイツ・ドルトムント在住。フリージャーナリスト。執筆ジャンルは自転車・アウトドアアクティビティ、スポーツ、旅、食、アート、ライフスタイルなど文化全般。幼少期の5年間をハンブルクで過ごしたことがアイデンティティのベースにある。好きなものは、ビール、チーズ、タマゴ――ワイン、日本酒、ウイスキーも大好き。ランニング、ロードバイクライドにてカロリーを相殺する日々。ブログ「ドイツのにほんじん」に日記をつけ、産経デジタル「Cyclist」、三栄書房「GO OUT」などで執筆中。

シュルテ柄沢 亜希