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保険適用のありがたい存在「へバメ」とは? “赤ちゃんのプロ”が身近にいる安心感

「ヘバメ」なくして語れないドイツでの妊娠・出産。家庭訪問サポートは本当にありがたい Photo: Aki SCHULTE-KARASAWA

保険適用のありがたい存在「へバメ」とは? “赤ちゃんのプロ”が身近にいる安心感

連載「ハローBaby ~子育てABC」<4>

ドイツでの妊娠・出産、さらに子育て始めは「へバメ」(Hebamme)なくして語れません。ヘバメとは日本語の「助産師」に当たりますが、日本で助産師と聞いて思い描く内容とは全く違うと言っていいでしょう。最も特徴的なのが、新生児を迎えた各家庭での訪問サポート。おまけに同サポートは保険適用のため、わたしたちの自己負担はゼロなのです(※)。自宅でサポートしてもらえる上、それが無料って?! そんなヘバメの家庭訪問サポートについて紹介します。

※公的健康保険の場合。プライベート保険ではカバーされる範囲が異なる場合があります。

|生後10日間は日に2回の来訪もOK


はじめに、保険の適用範囲となる家庭訪問サポートの回数は次のとおりです。

 ■生後10日間: 日に1回、あるいは特別にサポートが必要な場合は日に2回
 ■生後8週間: 計16回、さらにその先数カ月間で授乳トラブルがある場合や離乳時に計4回

「もっと手助けが必要」「それほど頻繁に来てもらわなくても大丈夫そう」という場合も、心配無用。上記は保険の適用範囲というだけであって、実際の来訪はヘバメと直接相談の上状況に応じて設定できます。わたしの場合は、産前の顔合わせ1回のほか、息子が生後7週の間に計9回来てもらいました。息子の様子や親子の関係、母乳状態が安定していたので、規定数よりも少ない訪問数で済みました。そのかわり離乳食のサポートとして生後6カ月、10カ月の時点でそれぞれ1回ずつ来訪してもらうことにしました。

赤ちゃんとの新生活に、新米ママ・パパは奮闘する毎日。また産後体が回復をする「産褥期」には、女性は思うように動くことができません。そんな時に“赤ちゃんのプロ”が身近にいることの安心感といったらありません。特に初めての育児では多かれ少なかれ「これでいいのかなぁ」と不安になることがあるもの。わたし自身ヘバメに「心配ない」「完ぺきね!」と声をかけてもらえたことで、何度自信を授けてもらったことか! ヘバメは、フィジカルと共にメンタルケアの面でも大きな存在ですね。

簡単な検診業もヘバメの仕事。へその緒、おへその状態確認も来訪時に Photo: Aki SCHULTE-KARASAWA

簡単な検診業もヘバメの仕事。へその緒、おへその状態確認も来訪時に Photo: Aki SCHULTE-KARASAWA



なお職業としてのヘバメは、1985年に制定された助産師法などに基づき定められています。ヘバメが担う役割は幅広く出産後の家庭訪問サポートのほかに、病院・産院・自宅での出産立会い、妊娠期の身体的不安やパートナーとの関係構築といった相談、妊婦・産後女性を健康へ導くアクティビティーのインストラクター、赤ちゃん向けアクティビティー「ペーキップ」(※)の開催などが挙げられます。わたしが初めてヘバメの仕事ぶりを見たのは、出産準備両親学級でした(妊婦の両親学級参加は保険適用範囲)。その際バケツ風の入浴風景にたまげた思い出があります(笑)

※前回コラム「生後1カ月、はじめましての『ペーキップ』」参照。



|ヘバメ探しや相性問題をクリア


かくいうわたしも、出産前はヘバメの家庭訪問サポートをお願いするかどうか悩みました。「ヘバメとの相性が合わずにストレスだった」という体験談が少なからずあるからです。現在お世話になっているヘバメ、スザンネは25年の経験を持つベテランヘバメ。スザンネと初めて顔を合わせた際は「ちょっとうるさく喋りすぎなんじゃないだろうか」というのが気がかりでした。というのも、我が家ではイギリスの育児コンサルタント、ジーナ・フォード氏(1960年-)による育児メソッドを取り入れようとしていて、ドイツの伝統的な方法を採用することが多いヘバメとの意見の衝突を恐れたのです。

結局、ドイツ式育児を知りたいという好奇心もあってスザンネにお願いすることにしました。案の定ちょっとした意見の違いはポツポツありましたが、そこはドイツ。しっかりわたしの意思を伝え、議論を交えて問題を解消しました。となれば、他国籍の家庭を含めへバメ業をこなしてきた経験豊富なスザンネ。むしろ「こういう方法でもうまくいってるのね」という柔軟な思考でもって、我が家の例を彼女自信の“学び”としているようでした。

またヘバメのサポートをお願いすると決めたとしてへバメは自分たちで探さなければならず、これもなかなか大変な作業です。ウェブサイトを検索すると、探さずとも「ヘバメが見つからない!」という書き込みが日独語共にたくさん出てきます。

我が家でも、へバメ探しは難航。というのも、わたしはへバメを「助産師」のイメージで捉えていたので、「ヘバメは病院にいて、希望をすれば病院から派遣されるんだろう」などとあいまいに認識していたため積極的に探していませんでしたし、夫はドイツ人ながら、もっとすんなり見つかるものと楽観的に考えていたため着手していなかったのです。出産予定日まで2カ月を切ってから探し始め、容易に見つからないという現実に直面した時は愕然としました。通常、妊娠初期には探し始めるのだそうです…。

ヘバメが見つからない時の最終手段として書き込むウェブページを利用してもだめ、市の窓口に電話をして同課が運営するヘバメのネットワークにてリスト検索してもらってもだめ。病院からもらったヘバメのリストに掲載されていた宛先へ順に電話をかけても手応えはなく、リストも終わりに近づき半ばあきらめかけた時、ついにヒットしたのがスザンネだったのです。

|ベテランヘバメが夜間のSOSにも個別に対応


スザンネは、ベテランである以上にヘバメという職業を愛する“パッションの人”でした。スザンネはドルトムントを拠点にフリーランスとして活動しながら、わたしが出産時に利用した市の大病院内でも勤務。入院時病院で医師や他のヘバメから「(家庭訪問の)ヘバメは決まってる?」と聞かれスザンネが来てくれることを伝えるたび、「それはいい」「彼女はなら安心ね」とポジティブなコメントばかりが返ってきました。

とても助かったのは、何かあった時に夜遅くやスザンネの休暇中であっても携帯メッセージを通じ連絡をとりあうことができたこと。これだけ個別に対応してくれるのは、数あるヘバメの中でも稀。また友人らの話では離乳食時期までこまめにサポートをするヘバメはあまりいないそうですが、スザンネは「自分が世話をしてきた赤ちゃんたちがその後どうなっているか気になるし、会うのは楽しいもの。それに離乳食についても力になれれば幸いね」と笑顔で話していました。

生後2週間を過ぎた頃、夜になって息子がいつもとは違う様子で泣きわめき、それが止まらない時がありました。すがる思いで携帯メッセージでスザンネに助けを求めると、いくつか状態を確認した後に腹痛ではないかということがわかりました。理由が分かったことでまずは安心。さらにスザンネから「フェンネルティーを与えてみて」と教わりました。

ヘバメは体の問題を解決するハーブティーの知恵も豊富。顔合わせ時にもらったショッピングリストにもフェンネルティー、紅茶がありました Photo: Aki SCHULTE-KARASAWA

ヘバメは体の問題を解決するハーブティーの知恵も豊富。顔合わせ時にもらったショッピングリストにもフェンネルティー、紅茶がありました Photo: Aki SCHULTE-KARASAWA



数日間、哺乳瓶で冷ましたフェンネルティーを与えなだめつつ、どうやらゲップの量が足りていなかったために生じた腹痛だということが判明。その後ゲップもしっかり出させることで、同じような状態は起こらなくなりした。

通常の来訪時には、簡単な検診を行なうのもヘバメの仕事です。例えば、へその緒の状態を見たり、“マイ”スケールを持参して赤ちゃんの体重計測をしたり。帝王切開だったわたしの場合は、切開跡や子宮の戻り具合といった経過を、産後およそ1カ月の婦人科での最終チェックまで観察してくれていました。

|豊富なハーブティーの知識やとっておきの“万能薬”


ヘバメが用いる手法は、どちらかというと自然派。ハーブティーの知恵も豊富です。前出のフェンネルティーにはお腹の調子を整える効果がありますし、豊かな母乳のためにカモミールティーを勧められます。ある時わたしは母乳が多量で乳腺炎にかかりかけ、ミントティーを勧められました。ミントティーには、母乳の流れをスムーズにする効果があるそうです。なるほどと教わっているうちに、我が家のハーブティーのストックもすっかり増えました。

スキンケアに関しても、「ベビー用のクリームやオイルを最初から買い揃える必要はない」ときっぱり。「おしりのクリーニングは紅茶でOK。それから手足カピカピなのは皮膚が生まれ変わるから。気にしないようにね(オイル塗ったりしないこと)」。本やオンラインショップを見ては「あれもこれも準備しなきゃ」と浮ついていたわたしを、うまく鎮めてもらえたと思います。

入浴にあたってスザンネは「市販のベビー用品より安価だし、必要十分」と、牛乳コップ1杯とヒマワリ油ひと回しを投入。湯質をマイルドにし、赤ちゃんの肌の保湿に効果的でした。



極めつけはひっかき傷などのちょっとした肌トラブルへの“万能薬”。スザンネから「母乳を塗っておけばOKよ! ニキビにだって効いちゃうんだから」と聞いた時は、目からうろこでした。


わたしは、いつの間にか毎回のヘバメの来訪が楽しみになっていました。それは、どんな時も「大丈夫よ」とイージーゴーイングな態度で接してもらうことができたから。ガールズトークならぬちょっとしたおしゃべりも、いい息抜きになりました。次回会うのは数カ月後。玄関先でスザンネがわたしにかけてくれた別れのことばは、「赤ちゃんとの時間を楽しんで!」でしたよ。

シュルテ柄沢 亜希

Aki SCHULTE-KARASAWA ● 1982年生まれ、ドイツ・ドルトムント在住。フリージャーナリスト。執筆ジャンルは自転車・アウトドアアクティビティ、スポーツ、旅、食、アート、ライフスタイルなど文化全般。幼少期の5年間をハンブルクで過ごしたことがアイデンティティのベースにある。好きなものは、ビール、チーズ、タマゴ――ワイン、日本酒、ウイスキーも大好き。ランニング、ロードバイクライドにてカロリーを相殺する日々。ブログ「ドイツのにほんじん」に日記をつけ、産経デジタル「Cyclist」、三栄書房「GO OUT」などで執筆中。

シュルテ柄沢 亜希