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真に知性を触発するものとは何か??

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真に知性を触発するものとは何か??

ゲーテ・インスティトゥート東京にて行われた『ドイツエンターテインメントの夕べ フォルカー・クッチャーを読む』(2013/9/28)は、おかげさまで非常に盛り上がりました。ご来場いただいた皆様、どうもありがとうございました!

今回の目玉は、まさにクッチャーの小説の舞台、ワイマール期ベルリンの空気感を濃厚に伝えるビジュアル資料の紹介です。
傑作映画『伯林-大都会交響楽』 の上映や、酒寄さん秘蔵のベルリン建築物の図面資料、戦前ベルリン市内地図といった逸品をベースに話が進むのです。が、うう~む、やはりさすが酒寄さん、この手の講座で普通展開される情景とは、何かが根本的に違う!

普通、小説の背景史実紹介は、「はい、あの場面で主人公が勤務するのは、実際にはこういう建物なんですねぇ」「へぇ~…(トリビアの泉でいえば【5へぇ~】程度)」という感じに落ち着きがちです。まあそれでも良いといえば別に良いのだけど、酒寄さんの場合、なんというか、

ds_IMG_3501「翻訳のためにあれこれ調べていったら、すんごい面白いモノやエピソードをいろいろ見つけてしまった! 翻訳とは別に、この知的興奮と面白さをダイレクトに皆様にお伝えしないと私は気が済まない。だから皆様、できれば是非見てね!!!」

という感じで、そのスタンスが資料の魅力を倍加させていると思うのですよ。それは、資料から触発される想像力の提示になっているからという気がします。
生き生きとした思考は、それが触れる対象物をも活性化させるのだ!…ということを、アシスタントを勤めながら今回強く感じた次第です。

クッチャー作品の読者には、けっこう歴史好きの方が多い気がします。歴史好き読者がビジュアル史料に触れると、基本的に、「読中、想像していた通りだったか否か」という基準で印象や感想が語られるのだけど、今回の場合、そういう評価軸をそもそも数段超えたインパクトが脳に焼きついたのではないかと思います。
そう、それこそ真の知的刺激というものだ! っていうのは言い過ぎでしょうか? 言い過ぎかもしれないけど、間違っているとも思えない!(笑)

というわけで、2013/9/28はたいへん有意義で面白い展開でございました。

そして、ゲーテイベントの最後にも紹介がありましたが、翌週10/5には、翻訳ミステリ業界本流イベントである「海外ミステリ先読みスニークプレビュー@ミステリ酒場」が行われました。
「ドイツミステリを読んで面白いと思ったら、それをきっかけに英米ものに触れてみたほうが絶対おいしいですよ!」という趣旨からゲーテで紹介したところ、実際、ゲーテイベント参加者の方がスニークプレビューに来られていたのが嬉しかったですね~^^

ds_IMG_3611さて、スニークプレビューでは酒寄さんの新訳の紹介や、ドイツで劇的大人気なのに日本ではマイナーなまま埋もれていたジョー・ネスボの再起動といった話題で盛り上がったあと、後半のジャック・カーリイ特集が圧巻でした。「マッド編集者」永嶋俊一郎氏が登場するからにはただで済むまいと思っていたところ、やはり、

「ジャック・カーリイ作品は、通常の文芸評価基準で見るとバランスが悪いとかヘンだとか言われそうな部分がむしろ知性の奥底をくすぐってくれる感じで素晴らしい。これぞ悦楽。そして悦楽が加速する。悦楽バンザイ!」

みたいなことを力説していて、それだけで値千金でした。どう考えても読みたくなるじゃないですか! こういう言霊は前向きな議論を誘導するので、現場ではその後、「面白さ」の根拠とは何か? というコトバの定義をめぐるやりとりが展開してたいへん面白かったです。

以上、上記2つのイベントは直接的には無関係のはずですが、「既読の人を満足させ、未読の人を引き込む」ポジティブパワーがある点で共通します。
なぜそうなるのかというのは簡単には説明できないけれど、たとえば、知識を並べ立てる陣取り合戦みたいな「量的」な議論スタイルでは満たされない領域に向かって進んでいけば、流儀は違えど同様の理念を具体化できるのではないだろうか、と思ったりします。

著者の発想に対する読者の想像力の「質」が重要ということなのかもしれません。

【※1】
「ドイツエンターテインメントの夕べ」次回は1月開催予定です。ドイツの読書人口維持拡大のために重要な役割を果たしている「青春小説」を取り上げる予定です。乞うご期待!!

【※2】
「最速! 海外ミステリ先読みスニークプレビュー」は基本的に毎月開催しています。ミステリマガジン誌で活躍している第一線の書評家(若林踏・酒井貞道の両氏)が、出版社から送られる近刊書のゲラを読んだ中から「これは!」というのをチョイスして紹介する企画で、「未読の人にいかにネタバレせずに面白さを伝えるか」という表現チャレンジの場になっています。ナイスです。ちなみに、ドイツものが紹介されるときは私も出たりします。

それではまた、Tschüss!

(2013.10.19)

© マライ・メントライン

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マライ・メントライン

シュレースヴィヒ=ホルシュタイン州キール出身。NHK教育 『テレビでドイツ語』 出演。早川書房『ミステリマガジン』誌で「洋書案内」などコラム、エッセイを執筆。最初から日本語で書く、翻訳の手間がかからないお得な存在。しかし、いかにも日本語は話せなさそうな外見のため、お店では英語メニューが出されてしまうという宿命に。

まあ、それもなかなかオツなものですが。

マライ・メントライン

翻訳(日→独、独→日)・通訳・よろず物書き業 ドイツ最北部、Uボート基地の町キール出身。実家から半日で北欧ミステリの傑作『ヴァランダー警部』シリーズの舞台、イースタに行けるのに気づいたことをきっかけにミステリ業界に入る。ドイツミステリ案内人として紹介される場合が多いが、自国の身贔屓はしない主義。好きなもの:猫&犬。コーヒー。カメラ。昭和のあれこれ。牛。

Twitter : https://twitter.com/marei_de_pon

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