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ハーフの名前のつけ方について

ハーフの名前のつけ方について

ドイツwith ジャパン 絵画コンテスト2010「わたしのドイツ」中学生の部・ドイツ大使賞

ハーフの名前のつけ方について

ハーフはよく「ミドルネームはあるの?」と聞かれる。



「榑松オリビア裕美」のような漢字の苗字&名前の間に横文字の名前が入っている名前を「素敵」「カッコイイ」と見る向きもあるようだ。(もっとも、この「横文字の名前」に関しては、「ハーフだと不便なこと Part2」の「ローン審査でミドルネームが仇となるハーフ」に書かれているように、思わぬ被害をもたらすことも実際にはあるわけですが…)



私の場合はAlexandra Haefelin (サンドラは愛称) というドイツ名のほかに、渡○○美という日本名がある。私は親の方針でこのドイツ名である Alexandra Haefelin と日本名の渡○○美を子供の頃から完全に使い分けていた。つまりドイツの学校へはドイツ名である Alexandra Haefelin で通い、日本人学校には日本名である渡○○美で通っていた。名前が2つあると、なんだかその時の名前によってキャラクターも違ってきてしまいそうだが、実際にキャラクターは多少違っていたように思う。簡単に言ってしまうと、Sandra という名前の時は、多少ハメをはずしてもよさそう(?) な感じだし、ドイツ風のキツイ口調で話すのもアリかな、と。でも、渡○○美だと、丁寧に話さなくては、日本の規則をちゃんと守らなくっちゃ、という気持ちにさせられる。変かしら?



むかし母親に「なぜ名前を使い分けさせていたのか」と聞いたことがあった。母親はこう答えた。「あら、だって、あなただけ日本人学校でテスト用紙にカタカナの名前を書くの嫌でしょ。子供は『みんなと一緒』が好きだから周りの日本人の子と同じ漢字にしたのよ」と。考えてみれば確かにこれはありがたかった。周りの日本人の子が「田中久美」「伊藤佳代」などという名前の中、テスト用紙に自分だけ「ヘフェリン アレキサンドラ」と書かなければいけなかったとしたら、確かに子供の私は親を恨んでいただろうな。「カタカナは嫌だ! 名前が長過ぎる! みんなと同じ漢字がいい!」って。



私のドイツ名の Alexandra や愛称の Sandra はドイツではどこにでもあるような「ごく普通」の名前だ。だから子供のころ、初めて人と会う時でもドイツ人に「これはどこの国の名前 ?」とは聞かれなかった。もし「○美」の日本名をドイツの学校などで使っていたら、必ず初対面でドイツ人に「どこの国の名前? あなたはどこの国の人? 」と聞かれていたであろう。



親はせめて名前だけでも「自分は地元の人」だという感覚を私に持ってほしかったみたい。



完全に日本人風(渡○○美)、そして同時に完全にドイツ人風 (Alexandra Haefelin) の名前をつけ、周りに違和感なく受け入れてもらえるように、と配慮してくれた親には感謝している。



しかし親が「配慮」してくれたはいいが、私はハーフなので、実際はもちろん「日本では渡○○美を使えば周りは日本人として見てくれる」、「ドイツではAlexandra Haefelinを使いさえすれば周りはドイツ人として見てくれる」というほど現実は甘くない。母親は「日本名をつければみんなと同じで問題ないはず」と考えていたのだが、かといって母親の想像通りになったかというとそうでもないわけで、そこは名前と顔が一致しないため、笑えるエピソードがかなりあるわけです。



たとえばレストランの順番待ちの際に「渡○○美」と順番待ちシートに記入しても、イザ順番が来ると店員さんが私の前を素通りして他の人の前で一生懸命「渡○○美さん、渡○○美さーん」と叫んでいたり(笑) 。そこで、私が「はい! 私です! 」と申し出ると、店員さんと周りのお客さんが一瞬凍りつき、全員「…?!!…」という表情になったりする。病院や銀行でも名前 (渡○○美) を呼ばれ、私が席を立つと、周りが「んんん?」ってなるのが分かるし、これはもう私が慣れるしかないですね。これらのエピソードは笑えるというよりも、自分がそれを面白がって笑っていないとやってられない、という部分も大きいです、はい。



「渡○○美」という日本名がちゃんとあっても、前々回の「ハーフだと不便なこと」にも書いたように、容姿と名前の「イメージ」が一致しないことで、区役所やインターネットカフェで一悶着なのですから、人生わからないものです。



自分の例を見て思うのは「名前」というものはその名前を持つ人の「容姿」とある意味「セット」であることによって初めて周りの人に違和感なく認めてもらえる、ということだ。つまり日本的な名前を持つ人は日本風の容姿であることが必須のようだ。そういう意味で「名前と容姿」はワンセットなのだ。逆に私のように欧米風の容姿の場合、いくら日本っぽい日本名を使ったところで、周りに違和感を持たれるか、不思議がられることになる。変に目立ってしまうのだ。



周りの日独ハーフを見ていると、やはり日本語とドイツ語の両方の苗字と名前(下の名前)を持つ人が多い。ただ、「ドイツ人学校ではドイツ語名」「日本学校では日本語名」というふうに「名前の完全な使い分け作戦」をしている家庭はかなり稀なようだ(そういう意味では、子供に名前を完全に使い分けさせていたウチの親はやはり変わっているようだ)。通常は、日独ハーフは「名前は一応4つあるけれど、1つの名前でどこでも(日本人学校でもドイツの学校でも)通す」という人が多いようだ。例えばフルネームが Yuriko Andrea Schmidt Shimizu だとしても、実際に使うのはYuriko Schmidtといった感じだ。



上にも書いたように名前がキャラクターを作っている部分もあって、本人も周りの人も「名前」でイメージを描いている部分がたしかにある。私も、”Sandra~~~!” と呼ばれる時と、「○美ちゃん!」と呼ばれるのとでは、気持ちが全くちがう。



そういう意味でいうと、上記のYuriko Schmidtのように、日本語とドイツ語を「混ぜた」名前が日独ハーフはやはり一番しっくりくるのかな、なんて思います。パッと見ても、あ、ハーフなのかな? と分かる名前だし、初対面の際に名前の由来についてイチイチ説明しなくてはならない面倒くささはついてまわるものの、それはハーフの場合、避けては通れない道なわけで。(仮に名前で説明を求められなくても、他の件で説明を求められたりするので。)



私の年代の日独ハーフだと、親は Naomi や Megumi など「日本的ではあるけれど、ドイツ人にも発音がしやすい」ことを基準に名前をつけた親が多いようだ。



面白いな、と思うのは、私が子供のころは、ハーフに典型的なドイツ名 (SabineやAlexandraなど) とともに典型的な日本名(昌子、佳子など)を子供につける親が多かったけれど、もっと年齢が下の最近のハーフの子供の場合は親が「どちらの国でも違和感のない名前」をつける事が多くなってきているということだ。最近は日本とドイツ、両方の国で聞いて「しっくりくる」名前をつける傾向があるようだ。ザッと挙げると、Lisa, Maya, Anna, Elena, Erikaかな。Lisa という名前は発音しやすいし、漢字にしても理紗、莉沙など色々な書き方があって、いい感じ。Maya (ドイツの場合、綴りがMajaの場合も) という名前も、麻矢、真耶など色々な書き方ができるし発音もしやすい。Anna だって昔ながらのドイツの名前でありながら漢字にしても杏奈、安奈とかわいい感じ。Elena も恵麗那、依玲奈など、色々な書き方がある。Erika に関しては、私はこの名前のハーフの友達が3人いる。横文字は全員 Erika で同じだけれど、日本語の書き方は絵里香、英理香、エリカ、と皆それぞれ違う。



男の子の場合で日本とドイツの両方で違和感のない名前と言うと、Ken (漢字は、健、賢、謙など)や Kai (海、魁など)、Leon (玲音、令音など) などがある。これらの名前はアルファベットにしても、漢字にしても違和感のない名前である上に、日本語でもドイツ語でも発音しやすい。



ちなみに日独ハーフのピアニストである Alice-Sara Ottの場合は2つの名前をダッシュで繋げていてセンスがいいな、と思う。AliceもSaraも日本でもドイツでも発音しやすいですよね。面白いと思ったのは実はこの場合、Sara が日本名だったのですね。アリス=紗良・オットというふうに。



…今回は名前について書いてみました。あなたはどんな名前が好きですか…?




サンドラのテレビ出演のお知らせ



3月23日(水)の23:45時から放送のTBSの番組『おもろゲ動画SHOW投稿!1000000000ビュー 』に出ます。デーブ・スペクターさん、周来友さんと一緒にドイツ、中国、アメリカのテレビ番組について話しますので、皆さんぜひ見てみてくださいね!




YG_JA_1460[1]サンドラ・ヘフェリン



ドイツ・ミュンヘン出身。日本歴 13年、著書に「浪費が止まるドイツ節約生活の楽しみ」(光文社) など 5冊。自らが日独ハーフであることから「ハーフ」について詳しい。ちなみにハーフに関する連載は月刊誌に続き今回が 2回目である。趣味は執筆と散歩。目黒川沿いや碑文谷をよく散歩している。

サンドラ・ヘフェリン

ドイツ・ミュンヘン出身。日本歴19年、著書に「ハーフが美人なんて妄想ですから!!」(中公新書ラクレ) 、「ニッポン在住ハーフな私の切実で笑える100のモンダイ』(原作: サンドラ・ヘフェリン、漫画: ヒラマツオ/KADOKAWA)、「『小顔』ってニホンではホメ言葉なんだ!?~ドイツ人が驚く日本の「日常」~」(原作: サンドラ・ヘフェリン、漫画: 流水りんこ/KKベストセラーズ)」など計11冊。自身が日独ハーフであることから、≪ハーフはナニジン?≫、≪ハーフとバイリンガル教育≫、≪ハーフと日本のいじめ問題≫など「多文化共生」をテーマに執筆活動をしている。ホームページ 「ハーフを考えよう!」 を運営。趣味は時事トピックについてディベートすること、カラオケ、散歩。

サンドラ・ヘフェリン