ベテランも新入社員も、本気で賃上げ交渉に挑むドイツの給与事情
皆さん、こんにちは!
ドイツ・ワークスタイル研究室の高橋です。
物価の上昇やエネルギー価格の高騰という逆風の中、そこはかとなく懐の寒さを感じるドイツの冬です。
冷え込んでいるのは我が家の家計だけではないようで、今年のクリスマス・プレゼントの平均予算は252ユーロ(約3万5000円)と、昨年より21ユーロ(7.6%)減少したそうです※。
※コンサルティング会社EYが2022年11月にドイツに住む消費者1000人を対象に調査
それでも、会社員は11月末〜12月初旬にクリスマス・ボーナス「Weihnachtsgeld」をもらって、12月は景況感も回復。3年ぶりに本格開催されたクリスマス・マーケットは人々の笑顔を明るく照らしました!
さて、今回のテーマは「ドイツの給与事情」についてです。
ドイツで働く人の収入は、コロナ禍の影響を多大に受けた2020年こそ下がったものの上昇傾向にあります。
1991年に1832ユーロだったドイツの平均月収(税引き前、賞与等は含まず)が、2021年には4100ユーロ(2022年12月28日のレートで約58万円)となり、過去30年で2倍以上に増えました(リンク)。
給与交渉に積極的なドイツの労働者
ドイツの会社で働いたり、ドイツ人と一緒に働いたとき、休暇事情の次に驚いたのが「給与交渉」の場面です。
私自身、日本では給与額について交渉をする機会がありませんでした。新卒で採用され、与えられた部署での仕事を覚えていけば、勤務年数によって自動的に昇給する仕組みがまだあったからでしょう。
新卒一括採用の文化のないドイツは、ジョブ型雇用が主流です。雇用主と被雇用者が個別に雇用契約を結ぶため、同じ部署で同じ仕事をしているとしても、契約内容や給与額に違いがあることも珍しくありません。
平均月収が右肩上がりを続ける国で、労働者も市場における自分たちの価値が年々上がっていることを実感しながら給与交渉に臨みます。もちろん、ベテラン社員だけでなく、新入社員も給与交渉をしますよ。
ドイツ人上司の前では、日本的な感覚で会社に判断を委ねたり、自己評価も謙虚な姿勢でいると、美徳ではなく逆に「自分の仕事のパフォーマンスに自信がないのかな?」「キャリア・アップを目指していないのかな?」と、意図せぬ評価をされてしまうかもしれません。
「この会社での仕事から何を得られるのか?」「自分の望むキャリアアップが可能か」と前のめりの社員を繋ぎ止めるため、上司側も交渉のカードを持っていなければいけません。
ちなみに、賃金アップだけが交渉のテーマとは限らず、有給休暇の追加、キャリアアップのためのセミナー・研修への参加、勤務時間の短縮などが求められる場合もあります。
貪欲に理想のワーク・ライフ・バランスを求め、給与額や社内での昇進について真剣に会社と交渉するドイツ人からは、「自分の労働力を安売りしないぞ!」という並々ならぬ気概を感じます。
お給料が上がったのに……インフレにより実質賃金は低下中
さて、お給料の額は上がっているドイツですが、30年前と比べて何倍も家計が潤っているかというと、もちろんそうはいきません。物価も同時に上昇しているからです。
まさに今、ドイツのインフレ率は70年ぶりの高水準!2022年9月のインフレ率はなんと10%に達しました!
下のグラフをご覧ください。
【実質賃金、名目賃金、消費者物価の推移】
2020年以降のグラフの乱れに、激動の時代を生きているんだなという実感が湧いてきます。
連邦統計局の発表によると、2022年第3四半期の名目賃金は前年同期比で2.3%上昇していますが、同期間の消費者物価は8.4%の上昇。その結果、実質賃金は5.7%も低下しています。労働者の実質賃金は、2008年以降で最も強い減少率を記録しました。
高水準のインフレもエネルギー問題も楽観視はできず、問題の長期化が見込まれています。
これに対して、それぞれの労働者ができる対策は限られています。ドイツ連邦政府は、ガスや電気の価格にブレーキをかける救済措置や、インフレに合わせて税負担を軽減する「インフレ補償法(Inflationsausgleichsgesetz)」を導入して、生活者を守ろうとしています。
それまでの日常が一変したコロナ禍がドイツに暮らす人の人生観に与えた影響は大きいものがありましたが、その後も次々に押し寄せる危機によって、労働観やワークスタイルの変化にますます拍車がかかりそうです。
心配事は尽きませんが、そんな時代だからこそ自分にとて本当に大事なものを再確認する日々でもあるように思います。
2023年も、読者の皆様にとって良い年となりますように!