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なんと堂々たる二番煎じ!だがそれがいい!『帰ってきたムッソリーニ』

©2017 INDIANA PRODUCTION S.P.A., 3 MARYS ENTERTAINMENT S.R.L.

なんと堂々たる二番煎じ!だがそれがいい!『帰ってきたムッソリーニ』

『帰ってきたヒトラー』が評判になったとき、「これでイタリアが、柳の下のドジョウ狙いで『帰ってきたムッソリーニ』とかつくったらウケるよねー、でもまあ、やらないだろうねー」と、知人が軽口を叩いていたのですが、
それが現実化してしまった。
すごいぞイタリア映画界。どういうつもりなんだ?

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ということで『帰ってきたムッソリーニ』、ドイツ趣味業界、近現代史業界的に、内容が気になる方も多いことと思います。そこで実際に観てきました。まさに来た見た勝った! 実際に観ると予想を遥かに超えてスゴかった。まあその、『帰ってきたヒトラー』のストーリーラインをある程度活かしながら、次第にあれこれ独自性を打ち出して差別化を図ってゆくのかと思いきや、
およそ95%、小ネタまでもろ完コピです。
なんということだ。それでいいのかイタリア映画界!
そう、たとえば過剰なドッグ愛文化をあてこすった例の件など、『帰ってきたヒトラー』の明らかにドイツ国内向けと思われるネタも含め、マスコミ業界内のえげつない暗闘話その他などなど、呆れたことに驚くべきことにほぼ全篇そのまんまです。
違いといえば、流石イタリアというべきか、ギャルの露出度とお色気シーンの含有率の高さ、あとムッソリーニは女を口説く言霊術の天才なんだよ的な挿話、そして…
そう。
物語のクライマックス、テレビのトークショーを(ヒトラーと同様に)支配したムッソリーニが、決定的な瞬間に放つ決定的なひと言!
これが違う。
これがなかなか凄い。
これが見事にナチズムとファシズムの違い、そして、今後の右派トレンドのカギとなるかもしれない何かをあぶり出す!

©2017 INDIANA PRODUCTION S.P.A., 3 MARYS ENTERTAINMENT S.R.L.

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…いやぁ、お見事です。
それまでの「もう完全にドイツ映画の二番煎じでっせ~」っぽい脱力演出の数々は、この必殺の一撃の威力をマックスに高めるための「敢えての」仕掛けだったのか! と痛感せずにいられません。
そう考えると、俳優の演技やカメラワーク、編集の手際など随所に窺える一流作品っぽさが腑に落ちるのです。
表面的に志の低い映画に見せかけまくって、実はかなり志の高いメタフィクション映画ですね
というのが私の所見です。
あ、あと、ぶっちゃけ、『帰ってきたヒトラー』との比較を抜きに、そもそも「映画」としての出来が丁寧なのもナイスです。

©2017 INDIANA PRODUCTION S.P.A., 3 MARYS ENTERTAINMENT S.R.L.

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さて、ときに。
ベニート・ムッソリーニという人物を今日的な観点から改めて見つめなおすと、やはり色々な点で興味深いです。
たとえばヒトラーが最後の最後まで、伝統的な教養や権威性を敵視する非リア充的なマインドに満ちていたのに対し、ムッソリーニは伝統文化を愛して同時代性との融合を図っていたとか、いわゆる労働者vs資本家的な階級闘争を否定して「生産者vs非生産者」という比較基準を持ち込んだとか、いま世界に渦巻いている非リア充的なアンチ教養主義が飽和したあと、右派が文化的価値を再発見しそうなネタやアイディアをいろいろ持っていた人物だったりします。あなどれないぞドゥーチェ。使用上の注意をよくお読みの上でご使用ください!

と、以上、そもそもムッソリーニという人物にはどういうポテンシャルがあったのか、史的展開にてなぜナチスドイツに圧されてしまう運命だったのか、などなど、深い知的好奇心の起爆剤として、『帰ってきたヒトラー』を踏まえながらこの『帰ってきたムッソリーニ』を観るのも、なかなかオツといえるかもしれません。

ということで、『帰ってきたムッソリーニ』公開情報は以下のとおりです。
特に「後援:イタリア大使館、イタリア文化会館」というのが凄い! とても某国では考えられな(以下略)

監督:ルカ・ミニエーロ
出演:マッシモ・ポポリツィオ、フランク・マターノ、ステファニア・ロッカ
2018/イタリア/カラー/イタリア語/96分
原題:SONO TORNATO 英題:I'm Back
後援:イタリア大使館、イタリア文化会館
配給:ファインフィルムズ

新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町他にて、2019年9月20日(金)より公開!
おおっと増税直前だ! 割と急いで観よう!

◇公式HP http://www.finefilms.co.jp/imback/

ということで、今回はこれにて Tschüß!
(2019.08.29)

マライ・メントライン

翻訳(日→独、独→日)・通訳・よろず物書き業 ドイツ最北部、Uボート基地の町キール出身。実家から半日で北欧ミステリの傑作『ヴァランダー警部』シリーズの舞台、イースタに行けるのに気づいたことをきっかけにミステリ業界に入る。ドイツミステリ案内人として紹介される場合が多いが、自国の身贔屓はしない主義。好きなもの:猫&犬。コーヒー。カメラ。昭和のあれこれ。牛。

Twitter : https://twitter.com/marei_de_pon

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