世間体につまずくハーフ
先日「ハーフと就職活動」について書きました。就職活動の際、面接の合否については、ハーフに限らず誰でもそうであるように、残念ながら本人の能力のほかに「運」や「相性」などその他もろもろの条件がモノをいうこともあります。
私自身や知人、友人を見ていて感じるのは、企業や組織はやっぱり「世間体」を気にしている、ということです。ここでいう世間体とは、「お客様」だったり、「保護者」だったり「本社」だったり。
具体的にどういうことかというと…
●「お客様」という世間体@ガソリンスタンド
アフリカ某国×日本のハーフの男の子、田中一郎くん (仮名)。国籍は日本。車やバイクが小さい頃から大好きで、ガソリンスタンドのアルバイトに興味をもった。
さっそく電話をかけ、面接のアポイントを取り付けた。ところが電話で言われた日時に面接に行ってみたら…
担当者がドアを開け、アフリカ系ハーフの顔を見るなり一言。
「あ~、、、ダメダメ。ウチ外人はとらないの。ほら、黒人だとお客さんビックリしちゃうしね」と。…面接すら受けさせてもらえなかった。
泣きながら歩いて帰ったそうだ。
これは10年以上前の話で、彼はその経験から立ち直り、その後はアルバイトの面接の際には事前に電話で「わたし名前は日本人なんですが、顔は黒人なんです。それでもいいですか?」と確認するようにしているという。そこで「あ、それはちょっと… (お客様がですね、、、モニョモニョ…)」と断られてしまう事もあると言うが、「だいじょうぶですよ! 来てください。」と言われることもあるんだそうだ。
それにしても、外国人 (ふうの容姿) の人はダメって、悲しい考え方ですね。よくある話ではあるのですが…。担当者が「私はいいんですけどね、やはりお客様が…」というスタンスの事も多い。きっと、「お客様」イコール「世間の目」ということなのでしょうが、なんだか納得いきませんね。
●「本社」という世間体@欧州にある日系支社
これは、説明しないと少し分かりにくいかもしれませんが、ヨーロッパ各国にある日系企業のことです。日系企業という事は、当然「本社」は日本にあり、ヨーロッパにあるのはその日本企業の「支社」ということになるわけです。
日本語と英語、またはそれ以外の欧州の言語ができるバイリンガルやマルチリンガルのハーフは、海外在住である場合、そしてそこの海外現地にて就職活動をする場合、「日本語が使える仕事」、「日本との接点がある仕事」を重視し、日系企業をメインに就職活動をする人 (ハーフ) も少なくありません。
またそういった日系企業の海外支社は一部、「日本からの駐在員」とはまた別に、現地海外で「日本人」を募集しています。いわゆる「現地採用」ですね。
たとえば「秘書」のポジションであれば、「長期で海外滞在が可能な日本人の方。英語はビジネスレベル」というような応募広告 (そして応募条件) が出ていたりします。
そこで、日本語が母国語であるハーフは「やった! 日本語は母国語だし、英語もできるし (フランス語もできるし) 、私は日本人だし応募しよう!」と意気込むわけです。
ところがところが、応募書類を受け取った日系企業の一部は「ジュリアナ・スミスという名前を見た途端に、『あ、外人じゃん』と思ってしまう事が少なくありません。実際にはそのハーフが日本人であり、その旨書類に記載していても、書類を受け取ったほうは、横文字の名前を見て、「外国人名=外国人」と勘違いしてしまうのです。そして「外国人だと、日本語も心配だし、ちょっとね…」となるわけです。たとえ、そのハーフの日本語が母国語であっても、です。
欧州某国で就職活動をしているYさん (ハーフ。横文字の名前で顔は欧州人風) は日本語が母国語のバイリンガルなのですが、現地の日系企業に書類を送っても、面接にすら呼ばれない日々が続きました。Yさんは条件的に日系支社の応募広告に記載されている条件を満たしているので、間に立っているリクルーターさんも「条件ピッタリなのに、なぜ面接に呼ばれないんだろう?」と首を傾げていたと言います。
Yさんが思い当たるのは、自分の欧州風の容姿をした写真が履歴書に貼ってあること、そして自分の名前がいわゆる横文字ネームであるという点だったと言います。面接にすら呼ばれないのはそれぐらいしか理由が考えられないというのです。
実は日系の海外支社の人事担当者が気にするのは「本社の目」です。「日本人を雇う」と言ったのに、ヘタに外国人の顔をしていて名前もジュリアナ・スミスのような横文字の「外人さん」を雇ったのでは、本社の反応が心配だと考える支社もあるようです。
実際に、「日本人を雇えと言ったのに、なに外人を雇ってんだか…」という反応をする「本社」も少なくありません。なお企業によっては海外現地で人を雇う際に事前に本社へ報告していることもあるので、応募書類の審査の段階で、日本にある本社が「ちょっと…」と難色を示す事もあります。
日本企業の場合、やっぱり「本社」様が中心である以上、人事部といえども海外支社にいるスタッフ達は本社にはあまり強くモノを言えません。なので、海外にいながら、日本流のやり方(それは人事も含む)を通す、あるいは通さざるをえないことが多いのです。海外支社の人事担当者は「日本にある本社の意向」をもっとも大事に考えなければいけないのが実情です。
ハーフにとっては非常に悩ましい話です。日本人と認めてもらえるために、幼い頃から日本語をやってきて日本語が母国語レベルなのが自分でもバカらしくなってきたりします。な~んだ、けっきょく「横文字の名前」と「ガイジン風の顔をした容姿がうつっている応募写真」で引っかかってしまうのか…と。
ケースバイケースではあるけれど、「本社」にアレコレ言われる前に、「ちゃんとした日本人 (つまり純ジャパ) を雇ったほうが安心」となる場合もあるわけです。 (余談ですが、私はハーフ・純ジャパに関係なく、日本企業で働く場合は、「海外支社」で働くよりも「本社」で働くほうが仕事内容が面白いと思っています。「支社」と違い、「本社」だとイチイチ本社にお伺い立てする必要もないわけですから、物事や仕事が早く進みますね。)
さて、ハーフに限った事ではありませんが、そして繰り返しになりますが、就職活動で「受かる・受からない」というのは、どちらも自分の「能力」以外のファクター、つまり「運」や「相性」で決まる部分も大きいのです。こればかりは「運命」なのかもしれません(大げさかしら?)。
日系企業の海外支社の人事担当者の中には「個人レベルで言えば、『ハーフは大歓迎』だけれど、『本社』を考えるとちょっと…」と頭を抱えている人もいます。「個人」だと比較的簡単にいくことが、「会社」、「学校」や「組織」がかかわってくると、体裁や世間体(この場合、「世間体」とは「本社」ですね)を気にしなくなくてはならないのは、ある意味残念なことですね。
●「保護者」という世間体@私立の小学校や中学校
私立の学校というのは、やはり世間体を気にしています。その「世間体」とは文字通り「世間の評判」のことですが、では世間の評判を考える上で、誰に一番学校としては考慮しなければいけないかというと、ズバリ保護者です。よって学校は「保護者の目」を気にするわけです。
そのため、小学校の先生の資格や、国語の先生の資格をもっているハーフが、私立の学校で先生として働きたいとなると大変です。学校側が「ウチはインターナショナルスクールではないので、外国人の先生が担任だというと、ちょっと(子供の生活態度の事などを考えると)親御さんの反応が心配で…云々」と懸念をしめしたり、ましてや「国語の先生」にCatherine Williamsのような横文字ネームの先生が就任したら保護者から「あらま?! ガイジンさんが日本語を教えるなんて名門なのに、どういうことかしら?」なんて声がチラホラ出そうなのは目に見えています。
学校としても保護者からの苦情は、直「世間」からの評価につながりかねないので無視できないわけですね。
移民国家であるイギリスやドイツなどでは、子供の幼稚園の先生がボツワナからの元難民であったり、学校の同級生や、会社の同僚にも外国人または外国にルーツのある人が普通にいます。
日本のように、同級生にハーフや外国人が一人いるだけで大騒ぎになったり、同期入社の中にハーフが一人いるとたちまち噂になったり、学校の国語の先生がCatherine Williamsという横文字ネームであったならば保護者からのクレームを覚悟しなければいけない状況とはだいぶ違います。・・・とは言っても、欧州には欧州なりの深刻な問題がありますが…。
ただ、日本においては接客業で外国人をあまり見かけない(※)こと、そして日本の学校の先生に「外国風の容姿や名前の人」があまり居ない事が結果として悪循環になり、いつまでも「外国人が目立つ」「外国風の名前や外国風の容姿の人が目立つ」そして「ハーフが目立つ」という状況を作り出していることは否めません。
さて、話をこのコラムの題名である「世間体」にもどすと---
「(従業員がガイジンだと)お客様がビックリしちゃうので・・・」とか、「(担任の先生や国語の先生がガイジンだと)親御さんに説明がつかない」だとか、「(日本人を雇用する予定のところをハーフを雇用すると)本社に説明がつかない」といった類の「世間体」がネックになっているのは悲しいことです。
しかし「裏」の事情をある程度知ることは大事ですが、就職活動をするにあたって、こういった事にまどわされず全力を尽くすのがやっぱり一番大事ですよね。お互いにがんばりましょう!
※もっとも最近は、コンビニやスーパーのレジでよく外国人を見かけるようになりました。でも同じく接客業である新幹線のグリーンアテンダントやパーサーに外国風の人を見かけたことは (私は) ありません。誰か見かけたら教えてください。
サンドラ・ヘフェリン
ドイツ・ミュンヘン出身。日本歴15年、著書に「浪費が止まるドイツ節約生活の楽しみ」(光文社)、近著「ハーフが美人なんて妄想ですから!!」(中公新書ラクレ) など6冊。自らの日独ハーフとしての経験も含め「ハーフ」について執筆している。趣味は時事トピックについてディベートすること、カラオケ、執筆、散歩。目黒川沿いや碑文谷をよく散歩している。
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