オーダーベルガー・シュトラーセで歴史とカフェさんぽ
プレンツラウアー・ベルク地区の魅力のひとつは「散歩して楽しい」ことだと思っています。1世紀以上の歴史を経てきたアパートや公共施設、センスのいいものがそろう個人店やカフェ。ただ歩くだけで思わず写真に撮りたくなるスポットがたくさんあります。
私が自分の中で勝手に「カフェ通り」と呼んでいるストリートがあります。それは「オーダーベルガー・シュトラーセ」(Oderberger Str.=オーダベルク通り)という名のストリート。今日はここを端から端まで歩いてみましょう。
昔の公衆プールが今はホテルのプールに
ベルリンの住所はストリートごとに1、2、3……と番地が振られています。今日はオーダーベルガー・シュトラーセの1番地から歩きはじめましょう。1番地はコリーナー・シュトラーセ(Choriner Str.=コリーン通り)との角から始まります。
歩きはじめるとすぐに、進行方向左手にこんな建物が見えてきました。これ、なんでしょう?
じつはこれ、公衆プールだったのです。周囲のアパートが建てれられたのは19世紀後半から20世紀初頭にかけてで、当時は世帯ごとにバスルームはなく、トイレも普通は共同でした。特にプレンツラウアー・ベルクは労働者が多く住んでいた地区だったので、豪華な住まいではありませんでした。ですから公衆プールは、日本の銭湯に似た役割も果たしていたのです。
この公衆プールは1902年に完成しましたが、1986年にいったんはその役割を終えて閉鎖され、ときおりイベントスペースとして使われていたものの、ほとんど廃墟状態でした。室内の写真は、いまからちょうど10年前の2009年に撮ったものです。
その場所を語学学校が買い取り、4年の月日をかけた大がかりな改装を経て、プール付きホテル 「ホテル・オーダーベルガー・ベルリン」(Hotel Oderberger Berlin)としてオープンしたのが2016年のこと。以前の雰囲気を壊さぬように改装されて蘇りました。私は、こうした形で古い建築が生き続けているのが好きです。最初はただ単に建物に惹かれ、そこから過去への興味が芽生えるのです。
いよいよカフェ地帯へ
さらに進み、カスターニエンアレー(Kastanienallee)という通りを横切ると、ここからはカフェが多く賑やかな雰囲気になります。
歩道が広いですよね。5月頃には街路樹のロートドルン(Rotdorn)がピンク色の花を咲かせています。日本語ではセイヨウサンザシというようです。
周囲のアパートは「アルトバウ」と呼ばれる19世紀後半から20世紀初頭にかけて造られたもの。ユーゲントシュティール様式(ドイツにおけるアール・ヌーヴォー)の美しい装飾が施されていることが多く、私は大好きです。もちろんこれらの建築も、改装が続けられています。1世紀以上もの建築がいまも現役でいられるのは、絶え間ない手入れがあってこそできること。ここでは新築よりも、手入れの行き届いた古い建築のほうに価値を見出す人が多いのです。
道の両側にはカフェやレストラン、ブティックが連なります。どうぞ気になるところに入ってみてください。気後れすることはないですよ。
ちょっと歩き疲れたので、カフェで休みましょう。進行方向左手にある「ボナンザ・コーヒー・ヒーローズ」(Bonanza Coffee Heroes)に入りましょうか。
2007年にこの店がオープンしたときは、高価なエスプレッソマシンが話題になったものでした。この店によって、ベルリンのコーヒー(エスプレッソ)のレベルがグッと上がったと思います。その後サードウェーブコーヒー(コーヒー豆の品質、産地や焙煎にこだわった、味を追求する流れ)がベルリンにも訪れましたが、ここはそれを牽引した店のひとつと言えるでしょう。現在は自家焙煎を行っていて、クロイツベルク地区に大きなロースタリー兼カフェがあります。コーヒー豆も買えますよ。
さて、お店を出て先へと進むと、すぐに突き当ります。ここで「オーダーベルガー・シュトラーセ」は終わりです。その先は、1989年の壁崩壊前までは行き止まりでした。なぜならその先にベルリンの壁があったからです。現在は「マウアーパーク」(Mauerpark=壁公園)へとつながっていて、行く手を遮るものはありません。いま、私たちは、どこにでも自由に行かれます。
さぁ、このへんで今回はおしまい。みなさま、お楽しみいただけたでしょうか。ご案内は、ベルリン在住ライターの久保田由希でした。