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ウソも方便?!それとも、Lügen haben kurze Beine…?

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ウソも方便?!それとも、Lügen haben kurze Beine…?

日本とドイツには多くの違いがあるけれど、ちょっと大きな声で言いにくいような違いもあったりします。その一つに「嘘」(ウソ)に対する考え方の違いがあります。念のために最初に断っておくと、もちろんニッポンでも通常「ウソ」は「よろしくないこと」だとされています。でもでも、やっぱりドイツのほうが「ウソ」に対する「深刻度」が違うのです。

 

その証拠にドイツにはLügen haben kurze Beine(直訳すると「嘘は短い脚を持っている」。⇒要は「嘘はすぐバレる」という意味)という諺やWer einmal lügt, dem glaubt man nicht, auch wenn er dann die Wahrheit spricht.(和訳「一度嘘をついた人は、後に真実を話しても誰からも信用されなくなる」)という言い回しもあったりします。

「ウソ」に対してドイツの子供に教え込まれる深刻度はものすごくて、ドイツのカトリック教会の信者がフェンス越しに神父さんに罪の懺悔をするBeichteは、自分のついてきた嘘を正直に告白(懺悔)する場でもあったりします。

ちなみに私は小学生のころにドイツはミュンヘンのカトリックの授業の一環で近所の教会のBeichte(懺悔)に連れて行かれたことがありますが、私はマジメで善良な9歳児でしたので、懺悔する内容など無く、かといって懺悔はしなければいけないので、「赤信号だけど道路を渡ろうと思った」という内容のことを話した記憶があります。フェンスの向こうに響く神父の「神はあなたを許してくださります」の声が異様に深刻だし、あのBeichtstuhl告解室)の空間も狭いし、いってみれば軽くトラウマです。今、振り返ってみると、あんなこと(教会での懺悔)を子供にやらせるのは反対です!



さて、少々アツくなってしまいましたが、このようにドイツ人が「嘘」に厳しいのはやっぱりキリスト教の影響だと思うのです。十戒には"Du sollst nicht falsch gegen deinen Nächsten aussagen."という、Lügeという言葉こそ使われていないものの、「人に対して嘘はついてはいけません」という意味のものが含まれていますしね。

前述のBeichte(懺悔)の話のように、ドイツの社会では基本、「嘘は罪」、そして「嘘は告白しなければいけない」というような考え方が日本よりも強いです。特に女性に対しては、「女性は正直で金銭に無欲であるべき」というような感覚がドイツは日本よりも明らかに強いです。

さて、ニッポンはというと、嘘にまつわる諺というと真っ先に浮かぶのは「嘘も方便」!

そして、私はこの「嘘は方便」という考え方、嫌いじゃありません(笑)

特に女性は仕事の場などにおいて、相手に聞かれたことを何でもかんでも正直にペラペラ話していたら、結果的に損をすることが多いです。先日読んだドイツの本に「女性に高収入の夫がいるという事実を(女性の周りの)仕事関係者が知った場合、女性に対する報酬がより低く抑えられる傾向がある」と書かれていました。特に自営業やフリーの場合、この傾向は強いようで、そこには「旦那に金があれば、女性(なんか)に我々が高額な報酬を払う必要など無い」という(多くの場合無意識の)男性側のマチズモ的思考がはたらくというわけです。その本の中で女性は、上記の理由から、仕事の場では旦那の職業をあえて伏せていると語りました。もちろん、あくまでも一例なので、一概にはいえないのでしょうし、ケースバイケースなのでしょうが。

そんなこんなで、上記のようなシチュエーションの場合、仕事関係の人に「旦那さんはどんな仕事?」と聞かれたら、のらりくらりとかわし、「たいしたことないですよ~。あはははは」などと謙遜も含めたウソをつくのはまさに「ウソも方便」ですよね。

ところで、人と付き合っていく中で、人に対してつく「優しいウソ」ってけっこうあります。今、目の前にいる人の健康状態や精神状態を考慮した上での「優しいウソ」ですね。

いくらそう見えたとしても、相手に対して「あら、今日もあなた寝不足のような顔をしているわね。目の下が灰色になっているわよ。」な~んてことを言う必要はないわけです。

自分のことを謙遜したり、前述の通り相手に元気になってもらいたくて褒めるのは「優しいウソ」だと思いますし、今にも険悪な雰囲気になりそうなAさんとBさんがさらに険悪な関係ににならないように間を取り持ち、あえて本当のことを言わないのは「賢いウソ」でもあります。互いのことが嫌いな人にあえて「Aさんはあなたのこんな悪口を言ってたわよ」なんて正直にBさんに報告をしてケンカをけしかける必要など全くないですものね。そう考えると、これらも全部「ウソも方便」だと思います。ああウソって素晴らしい(笑)

ところで、日本には病気をあえて公表せずに仕事に勤しむ人がいます。役者さんにも癌を患っても、病気であることを公表せずに仕事を続け、その役者さんが亡くなってから初めて世間が「実は癌だった」という事実を知ることもあります。これなどまさに「自分の生き方を最後まで全うしたい」という切実な思いからの「ウソ」だと思います。

実際のところ、病気に限らないことですが、仕事とは関係のない自分の様々なことを公表してしまうと、その内容を聞いた人がvoreingenommen(先入観をもった)見方をしてしまい、それが原因で自分の仕事がやりにくくなることって確かにあるのです。

そうはいっても、ドイツだと「病気になったら仕事を休む」というのがあくまでも一般的な感覚ですので、こういったニッポン流の「仕事に生きるためのウソ」はドイツ人にとっては理解しづらいこともあります。

・・・なんだか深い話になってまいりました、すみません。最後に一言でまとめると、「ウソもいろいろ」といったところでしょうか。

サンドラ・へフェリン

サンドラ・ヘフェリン

ドイツ・ミュンヘン出身。日本歴19年、著書に「ハーフが美人なんて妄想ですから!!」(中公新書ラクレ) 、「ニッポン在住ハーフな私の切実で笑える100のモンダイ』(原作: サンドラ・ヘフェリン、漫画: ヒラマツオ/KADOKAWA)、「『小顔』ってニホンではホメ言葉なんだ!?~ドイツ人が驚く日本の「日常」~」(原作: サンドラ・ヘフェリン、漫画: 流水りんこ/KKベストセラーズ)」など計11冊。自身が日独ハーフであることから、≪ハーフはナニジン?≫、≪ハーフとバイリンガル教育≫、≪ハーフと日本のいじめ問題≫など「多文化共生」をテーマに執筆活動をしている。ホームページ 「ハーフを考えよう!」 を運営。趣味は時事トピックについてディベートすること、カラオケ、散歩。

サンドラ・ヘフェリン