ドイツと日本、今までと、これからと
「日独交流150周年記念」の年が終わろうとしている。日本とドイツのハーフである私は、昨年秋に「日独交流150周年記念」の年がスタートした時、ワクワクした。イベントも沢山あるし今年は日本とドイツにとって特別な年、記念すべき年になるにちがいない、と。
実際に今年は特別な年となった。でも、それは私たちの期待とは違う意味での「特別」。地震、津波、そして原発事故により、日本人にとってもドイツ人にとっても、今年は忘れられない1年になってしまった。
3月の震災の直後、私は複雑な気持ちでいっぱいだった。地震と津波により全てを失ってしまった人たち。また、原発事故により故郷を離れざるを得なくなった人たち。彼らの事を考えると胸が痛んだ。同時に、日独ハーフとして、日本人とドイツ人の関係を考えると更に複雑な気持ちになった。
それというのも、日本人とドイツ人とでは原発事故に対する考え方や対応がかなり違い、3月末や4月の段階ではその溝がだんだん深くなってきているように感じたからだ。在日ドイツ人の多くが日本を離れ母国へ帰るなか、その行動が日本に留まった多くの日本人を傷つけた。それを見て、もしかしたらこれからずっと埋められない溝が日本人とドイツ人との間にできてしまったのかもしれない、とさえ思った。
来日を予定していたドイツ人のキャンセルが相次いだ。東北や関東に滞在予定だったドイツ人はもちろん、関西など被災地とはだいぶ離れた地域にホームステイをする予定だったドイツ人も日本滞在を取りやめ、残念がる日本人ホストファミリーに胸が痛んだ。日本全体が見放されてしまった。そう感じた。でも、しばらくして考え方が変わった。今年は日本人とドイツ人の友好が試される時なんだ。今、状況は大変だけれど、きっと長い目では上手くいくのだと。
政治ではなく民間レベルの話だが、今までは特にこれといった対話をしなくても、自分の思いを言葉にし相手に伝えなくても、なんとなく日本とドイツは上手くやってきていたように思う。でもこれからの日独の友好においては、自分が今どういう状況でどんな気持ちでいるのか、相手に何をしてほしいのか、何を言ってほしくないのか、等をハッキリと意思表明し会話をしていく事こそが、これからも良い関係を築ける鍵だと思う。
私もこれから機会があればドイツ人に日本の今を伝え、日本人にドイツ人の考えていることを伝えていきたい。今お互いがお互いの国をどのような目で見ているのか、という点にスポットをあて、そこから対話をし誤解を解いていきたい。
今、日本では経済の発展のために海外旅行よりも国内旅行をしよう、という動きが強いと感じるが、日独ハーフの私としてはやっぱり多くの日本人にドイツを訪れてほしいと思っている。そしてドイツ人にもまた日本に来てほしい。日本を自分で見て、感じて、そして自分なりの日本のイメージを持ってドイツへ帰ってほしい。その印象は現地のメディアを通した日本像とは異なるはずだ。
今こそ日本人とドイツ人、お互いに交流をしよう。どんどん意見を言い、どんどん会話をし、どんどん交流をすること。
日独交流150周年記念の年に災害に見舞われたことには何か意味があるはずだ。それはきっとお互いにもっと対話をしろという事なのだ。これからも良い関係が築ける。そう私は信じている。
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サンドラ・ヘフェリン
ドイツ・ミュンヘン出身。日本歴 13年、著書に「浪費が止まるドイツ節約生活の楽しみ」(光文社) など 5冊。自らが日独ハーフであることから「ハーフ」について詳しい。ちなみにハーフに関する連載は月刊誌に続き今回が 2回目である。趣味は執筆と散歩。目黒川沿いや碑文谷をよく散歩している。