皮膚の下まで-ドイツ人とタトゥー
本当にどこを見ても目に入ってきた。サッカーW杯ドイツチーム祝勝会でベルリン・ブランデンブルク門に集まったファンを前に優勝カップを高々と掲げる選手たち。そのほぼ全員がタトゥーをしていた。大きさも様々、デザインも派手なものからシンプルなものまで様々だ。選手たちだけではない。ブラジル大会の勝利を祝う大勢のファンたちの中にも、タトゥーを入れた人が何万人もいた。どこを見ても、タトゥーだらけだ。
何もサッカーに限ったことではない。他の多くの国々と同様、ドイツでも入れ墨(タトゥー)が社会全体で受け容れられるようになってきている。美容師、弁護士、アナウンサー。すでに様々な職業の人々が入れ墨経験者だ。クリスティアン・ヴルフ前ドイツ大統領の夫人ベッティーナ・ヴルフも自慢のトライバル・タトゥーの入った二の腕を見せていた。
少し前まで入れ墨(タトゥー)は、チンピラ、囚人、犯罪組織構成員の代名詞のようなものだったが、今日では個性的な自己表現と見られるようになってきた。最初はタトゥーを入れるといっても、「ケツのツノ(Arschgeweih)」と馬鹿にするひともいた腰のトライバルタトゥーやイルカのタトゥーを肩に入れる程度の人がほとんどだった。次には、漢字を彫る人が出てきた。
しかし今では、自分ならではのタトゥーを彫るのが人気で、洋服や音楽を選ぶように、タトゥーも自分の個性を表現する手段になってきている。たとえば、自分の星座、我が子の名前、好きな歌の歌詞やお気に入りのコミックのキャラクターを彫るといった感じ。
ベルリンやハンブルクの繁華街では、タトゥーを入れていない人をさがすほうが大変なくらいだ。当然、タトゥーごときで大騒ぎにはならない。テレビのチャンネルを変えているとき、プールに行ったとき、スタジアムでサッカーを観戦するとき、何となく目に入ってくるという程度で気にならないし、いちいち腹を立てる人は少なくなってきている。
こう見てくると、仕事のとき、シャツの袖やズボンの裾で隠すことができないような場所でも、タトゥーを堂々と入れるドイツ人が出てきたのも不思議ではない。うなじや耳の後ろに入れる人、また時には結婚指輪はせずにかわりにタトゥーを指に入れる人もいる。タトゥーは常に見せるものになってきているのだ。
ひょっとしたら、新しい柄がまもなく流行るかもしれない。W杯優勝一回で星が一つ、今回のブラジル大会で四つなので、四つ星のタトゥーを入れるのが、骨の髄までならぬ皮膚の下までサッカーファンだと言われるようになるかもしれない。