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ドイツ映画ALTER WEISSER MANN

先日ドイツに帰った時、映画ALTER WEISSER MANNを観てきました。

 

 

主人公はHeinz (俳優Jan Josef Liefers)というタイトル通りのALTER WEISSER MANN(日本語への直訳「年老いた白人男」)です。「年老いた白人男」と書きましたが、これは必ずしも「実際に年齢を重ねている」ということではなく、「中身がアップデートできていない男性」のことを指す意味合いが強いです。

Alter weißer Mann

 

 

ドイツを含むヨーロッパでは長年当たり前のように「昔ながらの考え方」「昔ながらのセンス」がまかり通ってきました。それは「男性中心」であり「白人中心」であり、「多様性」からは遠いところにある価値観でした。従来の感覚を引きずったALTER WEISSER MANNらは「性的マイノリティー、黒人、障がい者」などを無意識のうちに自分の思考から除外してしまっていました。

 

さて、主人公Heinzは会社で長年「広告」を担当しています。今まで従来のやり方で仕事をしてきたHeinzですが、ある日とうとう「やらかして」しまいました。それは数人が食事をしている写真の広告だったのですが、写真では「食事をしている人達は全員白人」「ウエイターは黒人」でした。そしてこの広告が炎上してしまうのです。

 

Heinzは同業者や家族など各方面から「価値観をアップデートするように」迫られ、自分でもそうしようと努力をしようとしますが、ことごとく空回りしてしまいます。Heinzが仕事がらみのパーティーに参加したところ、隣にスレンダーなアジア系の女性が立っていました。Heinzは彼女を会場のウエイトレスだと勘違いし、「飲み物をお願い」と言ってしまいました。でも後にこのアジア系女性が取引先の重要人物だということが判明し、Heinzは慌てふためきます。つまりは、またまた「やってしまった」わけです。

 

我が家でのディナーで「多様性」をアピール

 

映画を観ていて「ああ、ドイツだな」と感じる部分もたくさん。日本では取引先などをプライベートの自宅に招待することはまれだと思います。でもドイツでは人を自宅に招くことは割と普通のことです。映画の中でHeinzは「自分が多様性を理解している」とアピールするために取引先なども含めた仕事関係者を自宅に呼んでディナーを開催します。

 

このディナーの準備がまたコミカルなのです。ディナーには、アジア系の女性、黒人女性など多様なバックグラウンドの人が来ることになっています。しかしHeinzの自宅リビングの壁にはMonet、KleeやToulouse-Lautrecといった「白人男性の画家・アーティスト」の絵画がいくつも飾られているため・・・・Heinzはパーティ―の前にそれらの絵画を全て撤去しました。すごい徹底ぶりです。ただ・・・Heinzはやっぱりちょっとズレているのです。思春期の子供達、Leni(俳優Momo Beier)とLinus(俳優Juri Winkler)に「パパの仕事のディナーのために、君たちのLGBTQの友達、黒人の友達を呼べ!」と命令します。Heinzは一生懸命ではあるのだけれど、やっぱり限りなくトンチンカンなのです。

 

ちなみにこの家の「おじいちゃん」は年齢的なこともあり、「多様性」に疎いです。家族もそのことを分かっているため、例のディナーには「おじいちゃんは呼ばないこと」になっています。でもそこはやっぱりコメディー・・・・おじいちゃんはやっぱりパーティーに来てしまいます。このおじいちゃんは黒人を見ると即難民だと勘違いしてしまう古いタイプの人間です。

近年は世界的にLGBTQの問題にスポットが当たっており、ドイツではトイレも性自認のほうを使用して良いことになっています。これを受けて「昔の人間」であるおじいちゃんは「そんなことを言ったら、自認が「猫」の人間は「猫のトイレ」を使うのか?!そんなことになったら、色んなところで猫トイレを用意しなければいけない!!」となぜか怒っています。

 

Heinzしかり、おじいちゃんしかり、この映画では「価値観のアップデートができていない人達」が日常生活の中でどのようなふるまいをするのか、周囲にどういう印象をあたえるのか、そして様々な人と触れ合うなかで、どうアップデートしていくのか・・・といった過程が描かれています。「多様性」というものに対してアレルギー反応を見せる「おじいちゃん」のような人は単に「新しいことが怖い」と感じている人達だということも伝わってきます。

 

ALTER WEISSER MANN(「年老いた白人男」)のジェンダー観

 

この映画では所謂ALTER WEISSER MANN(「年老いた白人男」)のジェンダー観も露わになります。

 

ある時、Heinzは家族みんなでテーブルを囲んで食事がしたいと思い、時間をかけて手料理を作ります。が、子供達は「予定がある」「(パパの料理は)テイクアウトにして外出先に持って行っていい?」とそっけないです。「せっかく作ったのに!!」とHeinzが怒ると、妻Clara(俳優Nadja Uhl)は「ふ~ん、アナタ(男)が何年かに一度料理を作ると、家族は飛び跳ねて喜ばないといけないわけ?」と白けた感じで言います。これぞまさに日本の夫婦の場合も「あるある」な話なのではないかと思いました。

 

コメディーなので、「笑っちゃう場面」はいくつもありますが、私が個人的に大笑いしたのは、金髪の白人の子供が映った広告について、Heinzが「こんな広告じゃダメだ!これじゃ1983年のZwiebackの宣伝広告みたいじゃないか!」と言う場面。

 

Zwiebackとは昔からあるドイツのクラッカーです。そしてこのZwiebackの「広告の子」は何十年間も「同じまま」でした。私が子供だった80年代でも既に古い感じの写真でした。こちらです。

 

 

・・・かわいいのですが、確かに「ステレオタイプ」な感じはしますね。

 

ちなみにZwiebackは塩も砂糖も入っておらず胃腸に優しいクラッカーです。だから元気な時に食べるのも良し、子供が風邪をひいたり具合が悪い時に食べるのもこのZwiebackなのです。

 

今の時代は広告というものにあまりに金髪の白人ばかりを使うと「昔のZwiebackの広告みたいじゃないか!」なんて言われる時代になりました。

 

いろいろ書きましたが、まとめると、映画ALTER WEISSER MANN(「年老いた白人男」)は「時代についていけていない人」が「がんばって、ついていこうとする」社会派コメディーです。

 

監督は何年か前にここYoung Germanyで紹介したドイツ映画 WILLKOMMEN BEI DEN HARTMANNSと同じSimon Verhoevenです。

 

※1 映画ALTER WEISSER MANNに関するこの記事を2024年11月に書いています。ALTER WEISSER MANNを日本でも早く見られるようになるといいですね!

Alter weißer Mann

※2 私はこの映画をミュンヘンのFilmtheater Sendlinger Torで観ました。

 

 

サンドラ・ヘフェリン

著者紹介

サンドラ・ヘフェリン

ドイツ・ミュンヘン出身。日本歴19年、著書に「ハーフが美人なんて妄想ですから!!」(中公新書ラクレ) 、「ニッポン在住ハーフな私の切実で笑える100のモンダイ』(原作: サンドラ・ヘフェリン、漫画: ヒラマツオ/KADOKAWA)、「『小顔』ってニホンではホメ言葉なんだ!?~ドイツ人が驚く日本の「日常」~」(原作: サンドラ・ヘフェリン、漫画: 流水りんこ/KKベストセラーズ)」など計11冊。自身が日独ハーフであることから、≪ハーフはナニジン?≫、≪ハーフとバイリンガル教育≫、≪ハーフと日本のいじめ問題≫など「多文化共生」をテーマに執筆活動をしている。ホームページ 「ハーフを考えよう!」 を運営。趣味は時事トピックについてディベートすること、カラオケ、散歩。

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