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「ベジタリアン」や「ヴィーガン」、ドイツ人の多様化する食生活

「ドイツと言えばお肉!」・・・というのはもう昔の話です。確かに「昔ながらのドイツ料理」には肉料理が多く、私が出身のミュンヘンでバイエルン料理店に入れば、メニューに多くの肉料理が並んでいます。でも最近はそんな「昔ながらの典型的なバイエルン料理のお店」にもベジタリアンメニューやヴィーガンメニューがあります。

 

ベジタリアンやヴィーガンというと「サラダ」や「野菜料理」をイメージしがちですが、面白いのは「肉の見た目をしているけれど実は肉ではない」ものをよく見かけること。バイエルンはWeißwurst(白ソーセージ)が有名ですが「見た目がホンモノのWeißwurstにそっくりな代替え肉のWeißwurst」が近年じわじわと人気を集めているのです。この「豆を使ったWeißwurst」は本来のWeißwurstよりも脂肪が76%少なく、カロリーも62%少ないです。

 

ちなみに毎年9月から10月にかけて行われる世界最大級のビール祭りであるミュンヘンのOktoberfest(※新型コロナウイルスのため2020年と2021年は開催されませんでした)では毎年多くの人が色んな酒造元のテントでビールを飲みながらWeißwurstを食べます。一昨年2022年のミュンヘンのOktoberfestでは初めて「豆を使ったヴィーガン向けのWeißwurst」がメニューに登場しました。ちなみにHofbräuhausのテントでは「Weißwurstを注文した人の5人に1人」がこの「豆を使用した代替肉のWeißwurst」を注文しました。「伝統」を重視する地元の祭りで、これはなかなか画期的な数字であり、ドイツの社会でそれだけベジタリアンやヴィーガンを支持する人が増えている証です。

 

では、なぜここ数年で急激にベジタリアンやヴィーガンという生き方がドイツで支持を集めているのかというと、それは「自分の健康を考えてのこと」という理由もありますが、それ以上にインターネットを通じて「劣悪な環境で飼育されている動物のこと」が世間に広く知られるようになったためです。例えば一昨年、食肉処理の規定を守らず、残虐な方法で牛を屠畜したというLandschlachterei Hornの処理場の動画がインターネットで出回りドイツの世間に衝撃を与えました。動物飼育について残虐な内容の報道がされると、「自分が当たり前のように口にしている「肉」は、劣悪な環境のもと飼育されている動物のものかもしれない」と考える人が増えます。そして居ても立っても居られなくなり、「ベジタリアンになること」を即決するドイツ人は多いのです。

 

だからドイツでベジタリアンやヴィーガンの人に「なぜベジタリアン・ヴィーガンになったのか」と聞くと“Weil mir die Tiere leid tun.”(「動物がかわいそうだから」)という答えが返ってくることが多いです。「動物を食べることで動物が命を落とす」のも「かわいそう」ですが、何よりも「劣悪な環境のもと飼育されている動物たち」のことを「かわいそう」だと考える人が多いようです。

 

このあたりの考え方は、元来より「(動物の)命をいただく」という感覚のある日本人とはだいぶ違うように感じます。現に食事の際、ドイツでは一緒にいる人に対して「Guten Appetit!」と挨拶をすることがマナーであり、「人とのコミュニケーション」を大事にしている側面が強いですが、日本の場合は、大勢で食事をする際も、一人で食事をする際も「いただきます」と言います。社交やコミュニケーションを重んじるドイツなどの欧米圏の文化とは違い、日本では「(生き物の)命をいただく」という意味での「いただきます」なのです。ドイツ語の「Guten Appetit.」は一人で食事をする時には使えませんが(・・・もしも使ったら、きっと「寂しい人」と認定されてしまうことでしょう)、日本語の「いただきます」は人と一緒にいる時も、一人でいる時も使えるのですね。

 

このように日本とドイツ(を含む欧米)では「感覚」がだいぶ違うことから、「ベジタリアンやヴィーガンのドイツ人が(そうではない)日本人と一緒に日本で一緒に食事をする」というシチュエーションが生じると・・・・何かと人間関係の摩擦が起きがちです。その話はまた次回!

サンドラ・ヘフェリン

著者紹介

サンドラ・ヘフェリン

ドイツ・ミュンヘン出身。日本歴19年、著書に「ハーフが美人なんて妄想ですから!!」(中公新書ラクレ) 、「ニッポン在住ハーフな私の切実で笑える100のモンダイ』(原作: サンドラ・ヘフェリン、漫画: ヒラマツオ/KADOKAWA)、「『小顔』ってニホンではホメ言葉なんだ!?~ドイツ人が驚く日本の「日常」~」(原作: サンドラ・ヘフェリン、漫画: 流水りんこ/KKベストセラーズ)」など計11冊。自身が日独ハーフであることから、≪ハーフはナニジン?≫、≪ハーフとバイリンガル教育≫、≪ハーフと日本のいじめ問題≫など「多文化共生」をテーマに執筆活動をしている。ホームページ 「ハーフを考えよう!」 を運営。趣味は時事トピックについてディベートすること、カラオケ、散歩。

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