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ドイツの育児休暇制度「親時間」を利用したときの体験談 ―その2 フリーランスとして取得―

ⒸMegumi Tanahashi

ドイツの育児休暇制度「親時間」を利用したときの体験談 ―その2 フリーランスとして取得―

皆さん、こんにちは!

 

ドイツ・ワークスタイル研究室の高橋です。

 

前回は、私が正社員としてフルタイムで働いていた時、勤続年数は5年というタイミングで第一子を出産した際に体験した、ドイツの育休中の各種手当を紹介しました。

 

ドイツの育児休暇制度「親時間」を利用したときの体験談 ―その1 正社員として取得―

 

 

そこから、時は流れて第二子の出産は2021年。私はフリーランス3年目を迎えていました。

 

皆様お察しの通り、世はコロナ禍まっただ中。小学生になっていた第一子は学校に登校せずホームスクーリング、感染症対策のため行動が制限され、家族以外の人との接触が制限されていた状況に、「今回はあなたにも育休をとってほしい!」と夫に懇願したのでした。

 

そんなこんなで、私も夫も第二子にして初めての試みの多い育休期間となりました。

 

※ドイツの育児休業制度は「Elternzeit(親時間)」、育児休業給付金は「Elterngeld(親手当)」という名称ですが、日本との比較に際しては通称として「育休」と記します。

 

 

フリーランスとして働きながら育休手当を21カ月取得したケース

 

日本の読者の皆さんの中には

 

「そもそも、フリーランスって育休取れるの?」

 

という疑問を持たれた方もいるかもしれません。

 

「取れるんです」

 

日本でもようやく自営業者や非正規雇用者への手当拡充についての議論が始まりましたが、今はまだフリーランスや正規雇用、自営業者に対して産休・育休中の手当がありません。

 

出産のために仕事を休み、休んでいる間は収入が途切れてしまう人もいるでしょう。ライフスタイルもワークスタイルも大きく変化する産前・産後に経済的な支えがないというのは、本当に大変なことです。

 

私自身、子育てしながら毎日定時に出勤して働くことに困難を感じたことが、フリーランスとして独立しようと思った理由の一つなので、働き方の違いで受けられる出産・育児の支援制度に差がある状態は一刻も早く解消されてほしい!と願っています。

 

 

さて、話をドイツに戻しましょう。

 

自営業者が産前産後に受け取れる手当は、加入している保険の種類によって多少の違いはあります。

 

私自身は任意で公的保険に加入しているので、正社員時代と同様にまずは産前産後の母親手当を申請しました。

 

正社員なら、「Mutterschaftsgeld(母親手当)」は産休前の手取り100%、親手当は手取りの67%を受給できるので自営業の方が条件は厳しいです。

 

でも、育休中もフリーランスの活動を完全には止めず、育児をしながら可能な限り活動を続けたいと考えているなら便利な制度があるんです。

 

それが、「親手当プラス(Elterngeld Plus)」。2015年に新設されたこの制度を利用しました。

 

親手当プラスは、ベーシックな親手当の半分の金額を、2倍の期間受け取れます。そして、その間に週32時間まで働くことができ、自分の収入も全額受け取れます。

 

【私が第二子出産前後に受け取った産前産後の育休中の各種手当】

①「Mutterschaftsgeld(母親手当)」

金額:産休開始前、保険料の計算のもととなった所得金額の70%

期間:出産予定日の6週間前から、産後8週間まで


②「Elterngeld Plus(親手当プラス)」

金額:基準期間の所得金額の65%〜100%として算出されるベーシックな親手当(Basis-Elterngeld)の半額

期間:Mutterschaftsgeld(母親手当)期間は3カ月分のBasis-Elterngeldとして相殺されたので、残り9カ月分を「Elterngeld Plus」に切り替え、産後21カ月まで受給。


 

育休中に完全に休むのではなく、子育てをしながら仕事も続けたい母親や父親が損をしないよう、支援の形を選べるのがドイツの育休手当の良さ。

 

親手当の受給は、途中で中断したり再開したりもできますし、ベーシック親手当から親手当プラスに変更も可能。各家庭の働き方や経済状況に合わせて、柔軟に対応できるようになっています。

 

デメリットをあげるとしたら手続きの煩雑さで、「親手当の申請は、会社を立ち上げるときの申請より難しい」なんて言われているくらいです。

 

ドイツの病院での入院食。産後の祝膳などのサービスはなかった。。。
©︎Megumi Takahashi



 

 

夫はベーシックな親手当を2カ月取得

 

親手当の受給期間は最長14カ月。ただし、片方の親が申請できる期間は最長12カ月です。

 

私が12カ月分の親時間を申請することにしていたので、夫はベーシックな親時間を2カ月と有給休暇を申請して約3カ月の育休を取得しました。

 

第一子の時と同じように、長めの休暇を取れば産後は何とかなるだろうと考えていた夫にとって、「育休とって!」という妻からのリクエストは寝耳に水だったようです。

 

それでも、「労働者の権利だ!」と、次の日には職場に育休取得を相談してくれました。

 

その結果、昭和生まれの日本人男子、ドイツ企業で男性の育休取得一番乗り!

 

 

そうして取得した育休明け、職場に復帰した夫が上司から「おめでとう」の次に聞いた言葉が、

 

「三人目は、ないよね?(笑)」

 

でした。

 

そんなこと会社に言われる筋合いはない!とご立腹で帰ってきた夫、マタハラに悩む女性の気持ちが少し分かるようになりました。

 

その後、夫に続いて若い男性社員が育休を取得。二人、三人と続くと、もう若い男性が育休を取るのは珍しいことではなくなっています。

 

育休は、働く人の権利です。一方で、誰かの穴を埋める仕事をしている人の大変さや気持ちも、もちろんよく分かります。

 

でも、他の人が取得した育休や有給などの休暇に対して批判的になったり、あの人だけいつも残業しない……なんて帰宅時間が気になることは、結果的にみんなの首を締めることになりますよね。

 

まずは老若男女、既婚・未婚、子持ちの人もそうでない人も、全ての人の労働環境が改善されることが、少子化対策や育休取得率の上昇につながるんだろうと思います。

 

高橋 萌

ドイツに興味を持ったきっかけは、ドイツで農業を学ぶ友人に誘われて父と母がドイツ旅行に行ったこと。家で留守番をしていた子どもの頃の私は、連れて行ってもらえなかった「ドイツ」という国に、いつか自分も行くと心に誓うのだった。そして2002年夏ボン大学、2003〜2004年ミュンスター大学への留学で念願を叶え、卒業後は実用書籍の出版社に勤める。しかし、あまりの激務に「人生ってなんだっけ?」と再びドイツに戻ってくる。2007〜2008年ドイツ国際平和村で住み込みボランティア、2008年〜2017年ドイツニュースダイジェスト編集部、2018年からはフリーの編集者/ライターとして活動している。 YouTube : https://www.youtube.com/channel/UCCsxuIIUnqpCpNY0v6EIi_w

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