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「育児休暇」と呼ぶのをやめたドイツ 女性98%、男性43%が育児休業制度を利用

©Megumi Takahashi

「育児休暇」と呼ぶのをやめたドイツ 女性98%、男性43%が育児休業制度を利用

皆さん、こんにちは!

 

ドイツ・ワークスタイル研究室の高橋です。

 

2023年に入り、日本では「異次元の少子化対策」が話題ですね。

 

ということで、ここではドイツの産休・育休事情について取り上げていこうと思います。

 

子育て世代が安心して育児に向き合うためには、家庭の状況や子どもの成長段階に応じたサポートや経済的な支援策が不可欠です。

 

ワークスタイルを大きく変えざるをえない「出産」「育児」という人生の分水嶺のようなライフイベントを前に、ドイツ社会とこの国に暮らす家族はどんな選択を重ねてきたのでしょうか。


 

少子化対策の優等生ではないけれど……コロナ禍にベビーブームが到来したドイツの子育て支援策の安定感

 

経済協力開発機構(OECD)の発表によると、2020年の合計特殊出生率はドイツが1.53、日本は1.34でした。

OECD加盟国の平均は1.59ですから、ドイツは少子化対策の優等生とは言えませんね。お隣のフランス(1.83)の出生率の方がよほど高く、またハンガリー(1.56)の少子化対策の方が「異次元」です。

 

でもドイツは、1995年に1.2台まで下がった出生率を、じわりじわりと上げてきました。

 

一度下がった出生率を上げるのがいかに難しいかは、日本が過去30年、出生率1.50の壁を突破できないでいることからも分かります。

 

ドイツの子育て支援策が、子どもを望む家庭に安心感を与えていることを実感したニュースの一つが、

 

「コロナのパンデミックがベビーブームをもたらした!」

 

というものです。

 

2021年は前年比で2万2000人も多く赤ちゃんが生まれ、その年のドイツの出生率は1.58に上昇したと、国内メディアは驚きを持って報じました。

 

日本や米国、フランスはじめ世界中で出生率の低下が見られたコロナ禍において、ドイツでは逆に出生数が上がったのです。

 

この数字は、社会的にも経済的にも先行きの見通せない不安定な情勢の中であっても、子どもを産み育てることに前向きな家庭が多かったことが、ドイツの子育て支援策及びセーフティーネットへの信頼と充実を物語っているようです。

 

我が家では、2013年に第一子、そしてベビーブームに乗じたつもりはなかったのですが、2021年に第二子と、ドイツで二人の子どもを授かりました。

 

ドイツ国内に頼れる親戚のいない共働きの移民世帯ですから、産後をどう乗り越えるかはまさに大問題。そんな中、産前産後、育児期間中の手当や税控除、児童手当など、ドイツの子育て支援策の恩恵を受けていることを日々実感しています。

 

もう「育児休暇」とは呼ばないで! 「親時間」は親と子のための時間

 

過去10年間でじわりとドイツの出生率が上昇した背景にあるのが、2000年代以降に打ち出された子育て支援策。

 

その筆頭に2001年、「育児休暇(Erziehungsurlaub)」から「親時間(Elternzeit)」に制度の名称変更があり、新たな家族政策に対するドイツの考え方が現れています。

 

つまり、「休暇」という言葉がつくことで、家庭内での育児労働が過小評価されることを避け、父親の育児・家事への参加促進と、産後の女性の労働参加率を上げることが狙いでした。

 

子育てを経験されたご家庭の皆さんはご存知の通り、出産直後の数カ月はもう記憶もおぼろげなほど、体力・精神力ともに限界の日々。「猫の手も借りたい」とはまさにこの時期のことで、「休暇」を楽しむ余裕など、少なくとも私には持てませんでした。

 

ドイツの育児休業を支える「親時間」と「親手当」の二つは、育児休業中の親が経済的な心配をせずに乳児の安全と健やかな成長に寄り添い、自分たちも「親」という新しい役割から学ぶ時間を提供しています。この時間は同時に、子どものいる家庭としてのワーク・ライフ・バランスの再構築、そして労働市場へ復帰するための準備期間です。

 

少子化に伴う労働人口の減少に歯止めをかけるためにも、平等政策の観点からも、母親の産後の労働参加率の上昇は急務。同時に、父親の積極的な家事・育児労働への参加が求められています。

 

【ドイツの産前・産後の制度】


産前産後休業手当

・産前6週

・産後8週(義務)

・給付金額は手取り額の100%


親時間(Elternzeit)

・ドイツで子どもを育てる男女が取得できる

・取得後は職場への復帰が法的に保障(解雇されない)

・最長3年

・1人当たり週32時間のパートタイム労働も認められる

・子どもが3〜8歳の間に24カ月分を繰り延べることも可能


ベーシック親手当(Basiselterngeld)

・給付金額は子どもが生まれる前の平均賃金(手取り)の67%

・給付金額は最低300ユーロ/月、最高1800ユーロ/月

・学生や失業者など出産前に所得がなかった人は300ユーロ/月

・最長14カ月間分、休業して養育する親に支給。期間は両親で自由に割り振れるが、一方の親が請求できるのは最長12カ月(ひとり親は一人で14カ月分受給)

・両親ともに2カ月以上の育児手当を受給している場合、さらに2カ月分延長

・兄弟ボーナス:3歳以下の子どもが1人、もしくは6歳以下の子どもが二人いる場合は10%(最低75ユーロ)加算される

・多胎児の場合、一人当たり300ユーロが加算される


親手当プラス(ElterngeldPlus)

・2015年7月1日から導入

・「ベーシック親手当」と同じ方法で定められた受給金額の半額を、2倍の期間受け取ることができる。

・週32時間の労働が認められる

・パートナーシップ・ボーナス:両親ともにパートタイム(それぞれ24〜32時間)で働く場合、さらに4カ月分追加


産前産後は「産前産後休業手当」を受給し、その後「親時間」に入り、「親手当」を受給するパターンが一般的だと思います。

 

「ベーシック親手当」と「親手当プラス」は自由に組み合わせることができ、父親と母親の受給期間も各家庭で自由に割り振ることができます。

 

出産前に産後の生活をイメージするのはとても難しいことですが、パートナーと事前に話し合い、職場に希望を出して、個々の家庭に合った育児休業のあり方を模索します。

 

育児休業期間をどのように過ごすかは、事前の根回しと、場合によっては職場やパートナーの意識改革が必要な壮大な計画になりますね。

 

導入から16年が経った「親手当(Elterngeld)」、男性の利用が4割超に

 

ドイツで現行の「親手当(Elterngeld)」が導入されたのは、2007 年1月1日。昨年、2022年に15周年を迎え、親手当の15年間の成果を振り返るレポートが発表されました。

 

それによると、

 

● 親手当の導入以来、3歳以下の子どもを持つ母親の労働参加率は43%から56%に上昇

● 父親が親手当を受給する割合が20%から現在では43%に倍増

● 父親の平均育児手当支給期間は約3.3カ月

● 2カ月以上、親手当を受給する父親は10人に1人程度

● 父親が単独で親手当を受給するケースはわずかで、父親が育児を一手に引き受けることは少ない

 

などです。

 

日本の父親の育休取得率が12.7%(2020年)で、平均取得期間は2週間未満が約7割(2018年)という数字と比較すると、日本の男性の育児参加の伸び代を感じますね。

 

次回は、正社員として働いていた時とフリーランスになってからの2回、育児休業制度「親時間」を利用した際の体験談をご紹介します。ドイツならではの育児事情と、そして、素晴らしい制度はあるけど、それをいざ利用する際の夫と妻の葛藤についても掘り下げてみようと思います。

 

そこに、日本にだって素晴らしい育児休業制度が整っているのに、あと一歩が踏み出せない。そんな日本の家族と社会が抱える課題の縮図を見た気がしました。

高橋 萌

ドイツに興味を持ったきっかけは、ドイツで農業を学ぶ友人に誘われて父と母がドイツ旅行に行ったこと。家で留守番をしていた子どもの頃の私は、連れて行ってもらえなかった「ドイツ」という国に、いつか自分も行くと心に誓うのだった。そして2002年夏ボン大学、2003〜2004年ミュンスター大学への留学で念願を叶え、卒業後は実用書籍の出版社に勤める。しかし、あまりの激務に「人生ってなんだっけ?」と再びドイツに戻ってくる。2007〜2008年ドイツ国際平和村で住み込みボランティア、2008年〜2017年ドイツニュースダイジェスト編集部、2018年からはフリーの編集者/ライターとして活動している。 YouTube : https://www.youtube.com/channel/UCCsxuIIUnqpCpNY0v6EIi_w

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