「しゅっぱああつしんこうー!(出発進行!)」
ニッポンの電車に乗っていると、
車掌さんが、それはそれは大きな声で
「出発進行!」
と叫んでいるのを聞くことがあります。とっても「通る」声、というか、大きい声で「しゅっぱああああつしんこうー!!!!」(←というふうに私には聞こえる)と叫んでいるのを、皆さんも聞いたことがあるのではないでしょうか。
ちなみに、このように声を出して確認することを、小田急線では「称呼」、JRでは「喚呼」と言うそうです。
車掌さんは20メートル、つまり「車両一両分」ではっきり聞こえるように声を出さなければいけないのだとか。
「なんとまあ体育会系的なやり方・・・」と私は長らくあまりポジティブな印象を持っていなかったのですが(それというのも私、「体育会系 日本を蝕む病」(光文社新書)という本を出しておりまして、、、体育会系はちょっぴり、いえ、かなり苦手だったりします)、最近ちょっとばかり考えが変わりました。
電車の車掌さんなど、いわば人の命を預かる職業の人が「自分と周囲にハッキリとわかる形で確認をすること」で怠慢が防げますしミスも防げます。
確認事項を周りや自分に対して「声に出して言う」ことで「忘れない」わけです。
ドイツを含む欧米文化圏では「相手と会話をするわけではないのに声を出すこと」を躊躇する人が多いです。
考えてみれば、日本の「いただきます」は一人で食事をする時も声に出して言えますが、南ドイツで食事時に言う「Mahlzeit!」に関しては、「相手がいてこそ、声に出して言える」わけです。
そういえばかつて私が日本の会社に勤めていたとき、大部屋で10人ぐらいで仕事をしていたのですが、周りはいつもシーンとしていて、基本的に会話は口頭ではなく全部メールでした。
そんなシーンとした大部屋に書類を届けるために別の部署のそれはそれは元気な女性が定期的に訪ねてきていました。シーンとした部屋に足を踏み入れた瞬間に彼女はそれは大きな声で「失礼しまあーす!」と挨拶し、部屋を出る際には「失礼しましたああああ!」とまた大きな声で挨拶をして部屋を後にするのでした。シーンとしているなか、あの体育会系の明るい挨拶は新鮮でした。
さて、日本に長く住んでいる私も、実は最近、大きな声を出すことがあります。
それは、自宅を出るとき。
気が付けばキッチンのコンロの前で、「コンロ、良し!」(←火が消えている、という意味)
部屋の前に立って「デンキ~、良し!」(←電気が消えているという意味)
そして、最後はエアコンに目をやって、「エアコン、良し!」(←エアコンが消えている、という意味)
と大きな声を出しながら一連の儀式をやっている私です。
そして、家の外に出てドアの鍵をかけた後は、「施錠、良し!」・・・・とは叫びません。人の目が気になるので。
でも玄関の施錠の時こそ声を出せたらよいのにな・・・と思うことも。だって、ドアの施錠って大事なことじゃないですか。もし声に出して、「ドア~、良し!」と言ったら、後になって、「あれ?さっき本当にドアの鍵をかけたっけ?」なんて展開は避けられるんじゃないかなあ。
何はともあれ、ご近所の方に危ない人だと思われても困るので、玄関の施錠の際、声は出しておりません(笑)
でも今後どこかで一人で声を出している私を見かけましたら・・・きっと大事なことを確認している場面に違いありません。暖かく見守ってやってください。
ニッポンに来た欧米人であれば、誰もが不思議に思うあの電車の車掌さんによる「しゅっぱあああつしんこうー!(出発進行!)」。しかしドイツではやらないからといって、「指さし確認」は悪いことではありません。
・・・今から出かけるので、一連の儀式をすることとします。
サンドラ・ヘフェリン