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Migrationshintergrundか、それともMigrationsvordergrund か?言葉は大事 文脈も大事

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Migrationshintergrundか、それともMigrationsvordergrund か?言葉は大事 文脈も大事

ドイツの連邦統計局(Statistisches Bundesamt)は2005年からMigrationshintergrundという言葉を使ってきました。Er/Sie hat einen Migrationshintergrund.という文章を日本語に訳すと「彼・彼女には移民の背景がある」となります。

 

この「移民の背景」(Migrationshintergrund)の定義は次のようなものとなっています。両親の両方が生まれた時からドイツの国籍(パスポート)を持っていれば、その人は「移民の背景のある人」ではありません。つまり両親のどちらかが生まれた時に外国籍だった場合、子供にMigrationshintergrund(移民の背景)があることになります。

 

当初は学術の世界でこのMigrationshintergrundという言葉が使われていました。その後、一般の人も気軽にこの言葉を使うようになってからは、その際の「使い方」に問題があることが少なくありません。

 

私自身、数年前、あまり私に対して好意的ではないと感じていた人に突然“Du bist ja Deutsche mit Migrationshintergrund. “と言われ大変嫌な気持ちになりました。そう、このMigrationshintergrundという言葉が使われるとき「あなたは私たちとは違うから」「あなたは仲間ではなく、外の人」というニュアンスが含まれていることが少なくありません。言葉そのものがそうであるというよりも、この言葉がそういった文脈で使われることが多い、ということです。

 

上に書いたケースでは私に「あなたには移民の背景がある」と言った人は「移民の背景のないドイツ人」でした。自らに移民の背景のないドイツ人が突然、移民の背景のある人に対して" Du bist Deutsche mit Migrationshintergrund"または“Du hast ja einen Migrationshintergrund.“と言う場合、そこに好意的な気持ちはなく、言われた側はやはり「見下されている」と感じます。

 

ちなみに私は父がドイツ人(生まれた時からドイツ国籍)ですが、母は日本人(生まれた時は日本国籍。つまり生まれた時点でドイツ国籍ではなかった)ですので、私にMigrationshintergrundがあるというのは正しいです。しかし、それをあえて「言葉に出して言う」のはやはり悪意を感じます。

 

先月ご紹介した本Das Integrationsparadoxの著者であるAladin EL-MAFAALANI氏も同書のなかで、ドイツでMigrationshintergrundという言葉が使われるとき、それはまるで病理診断(Krankheitsdiagnose)であるかのような使われ方がされていると書いています。当然、言われた側もそのように受け取るので不愉快な思いをすることにつながるのです。

 

Aladin EL-MALAAFI氏は、ドイツの学校で教えていた際に、試しに授業でMigrationshintergrundという言葉ではなく、Schüler*innen mit internationaler Geschichte(和訳「国際的な背景がある生徒」)という言葉を使うようにしてみました。すると、Schüler*innen mit nationaler Geschichte(国際的な背景がなく、ドイツのみにルーツのある生徒)が「国際的な背景のある生徒」のことを羨ましく思うという現象が起きました。「自らの家系にどこかインターナショナルなバックグラウンドはないものか」と探るようになったとのことです。

 

こうやって見てみると、やはり「言葉は大事だな」と思うのです。それと同時に「人が物事をポジティブにとらえるか、それともネガティブにとらえるか」ということについて、文脈も大事だなと思うのでした。

 

ドイツに住んでいる人の約5分の1(正確には22%)の人にMigrationshintergrund、いやinternationale Geschichteがあります。あ、最近はMigrationshintergrundではなく、Migrationsvordergrundと言うべき、との声もあります。Vordergrundは「近景」「前景」「前面」という意味なので、確かにポジティブな印象です。

 

色んな言葉があるなかで、私が好きなのはdeutschplusという言い方。これは「ドイツ人であるけれど、ドイツ以外にも外国の要素がその人にあること」をいい感じに表していると思います。

 

ちなみにdeutschplusの逆はbiodeutschと言うのだそうな。。。

 

ドイツ語もどんどん進化していって、面白いですね。

 

サンドラ・ヘフェリン

サンドラ・ヘフェリン

ドイツ・ミュンヘン出身。日本歴19年、著書に「ハーフが美人なんて妄想ですから!!」(中公新書ラクレ) 、「ニッポン在住ハーフな私の切実で笑える100のモンダイ』(原作: サンドラ・ヘフェリン、漫画: ヒラマツオ/KADOKAWA)、「『小顔』ってニホンではホメ言葉なんだ!?~ドイツ人が驚く日本の「日常」~」(原作: サンドラ・ヘフェリン、漫画: 流水りんこ/KKベストセラーズ)」など計11冊。自身が日独ハーフであることから、≪ハーフはナニジン?≫、≪ハーフとバイリンガル教育≫、≪ハーフと日本のいじめ問題≫など「多文化共生」をテーマに執筆活動をしている。ホームページ 「ハーフを考えよう!」 を運営。趣味は時事トピックについてディベートすること、カラオケ、散歩。

サンドラ・ヘフェリン