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ドイツ本の紹介“Das Integrationsparadox”(Aladin EL-MAFAALANI, KiWi)

ドイツ本の紹介“Das Integrationsparadox”(Aladin EL-MAFAALANI, KiWi)

寒いときは、家で読書!(この原稿は1月上旬に書いています。)

 

最近またドイツ語の本をよく読むようになりました。私が好きな本は和訳がないことが多いのが残念ですが、、、それでも「ドイツ語で読んだ本の感想」を私がここに書くことで「ドイツではこんな本が読まれているのだな」ということが分かってもらえれば幸いです。

 

今回ご紹介する本はDAS INTEGRATIONSPARADOX – Warum gelungene Integration zu mehr Konflikten führt(Aladin EL-MAFAALANI, Kiepenheuer&Witsch)です。

 



 

ドイツでは1960年代から70年代にかけて、労働者不足を解消するために、トルコをはじめ、ギリシャ、イタリア、スペイン、旧ユーゴスラビア、モロッコ、チュニジアなどの国の人がGastarbeiterとしてドイツにやってきました。Gastarbeiter(和訳「外国人労働者」)という言葉にはGastという言葉が入っていますが、これは「お客さん」という意味です。彼らがドイツにやってきた当初、ドイツ人はトルコなどからの外国人労働者を「何年か経ったら自分の国に帰る人」として見ていましたし、トルコ人当事者も「何年かドイツでお金を稼いだら、トルコに帰る」と考えていたのです。だからドイツ側は彼らにじゅうぶんなドイツ語の語学コースも用意していませんでしたし、ドイツの文化や慣習を学ぶIntegrationskurs(統合コース)も用意していませんでした。

 

ところが「数年経ったら国に帰る」はずのGastarbeiterの多くはドイツに残り、母国に残してきた妻や子供をドイツに呼び寄せます。あれから何十年も経ち、今のドイツには二世、三世が多く住んでいます。

 

上に書いた通り、Gastarbeiterをドイツに呼んだ当時、国がじゅうぶんなドイツ語コースを用意しなかったがために、ドイツに何十年もドイツに住んでいるのにドイツ語があまり話せない人もいます。そういったことを国(ドイツ)も反省し、現在はドイツに移民したり難民申請が通った人に対して、ドイツ語のコースやIntegrationskurs(ドイツの歴史や文化、習慣について学ぶ統合コース)を用意しています。

 

ところで世の中には「多様な社会になり、Integration(和訳:インテグレーション、融合、統合)が進めば、対立が減り全員が幸せになる」と考える人が多いですが、この本を読むと「そうではない」ことに気づかされます。

 

社会学者である著者のAladin EL-MAFAALNANI氏は次のような見解を示しています。

 

50年前にGastarbeiterの人たちがドイツにやってきた時と違い、今は外国人や外国にルーツのある人に『自分もドイツ社会の一員である』という意識がある。また彼らが自らの考えや要望を堂々と主張できる雰囲気が現在のドイツの社会にはある。「自分はドイツ社会の一員だ」と考える外国人や外国にルーツのある人が「自分に向けられた『理不尽』に敏感」なのは当たり前。しかしマイノリティーである外国系の人がそういった『理不尽』についてオープンに語ることを、「家族に外国系の人がいないbiodeutschのドイツ人たち」の一部は快く思わない。双方に不満がたまり、議論が生まれ、時にケンカになることもある。だからIntegration(和訳:インテグレーション、融合、統合)が進んだからといって、全員がいきなり仲良くなれるわけではない。むしろ双方でKonflikt(葛藤)が生まれる。でも、外国人や外国にルーツのある人が声を上げ、それに対してまた反対意見が出て「議論ができること」自体が大きな進歩だし、それこそがドイツでIntegrationが成功した証である。

 

77頁で著者は“Immer mehr und immer unterschiedlichere Menschen sitzen mit am Tisch und wollen ein Stück vom Kuchen. Wie kommt man eigentlich auf die Idee, dass es ausgerechntet jetzt harmonisch werden soll? Das wäre Multikulti-Romantik.“(和訳「(外国人や外国系の人がドイツ社会の一員になることによって)沢山の人、そして様々なバックグラウンドを持った人が同じテーブルにつき、自分の主張をするわけです。なぜ、そんな時に「多様な人が集まることによって、雰囲気が和やかになるはずだ」と人は思いがちなのでしょうか?マルチ・カルチャーというものにロマンチックな幻想を抱きすぎというものです。」)と言い切っています。

 

Integration(和訳:インテグレーション、融合、統合)が進み、社会が多様になると、全員が即幸せになるはずだと幻想を抱く人が多いけれど、そうではなく、双方が不満を抱きながらも対等に意見を言い合っている状況こそが既にIntegrationが成功しつつある証だということをこの本を読んで分かった気がします。

 


 

ちなみに著者のEL-MAFAALANI氏は、57頁から「日本」のことも詳細に取り上げていて、大変興味深かったです。

 

ドイツ語ができる方で、現在のドイツ社会に興味のある方、ぜひ読んでみてはいかがでしょうか。

 

サンドラ・ヘフェリン

 

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サンドラ・ヘフェリン

ドイツ・ミュンヘン出身。日本歴19年、著書に「ハーフが美人なんて妄想ですから!!」(中公新書ラクレ) 、「ニッポン在住ハーフな私の切実で笑える100のモンダイ』(原作: サンドラ・ヘフェリン、漫画: ヒラマツオ/KADOKAWA)、「『小顔』ってニホンではホメ言葉なんだ!?~ドイツ人が驚く日本の「日常」~」(原作: サンドラ・ヘフェリン、漫画: 流水りんこ/KKベストセラーズ)」など計11冊。自身が日独ハーフであることから、≪ハーフはナニジン?≫、≪ハーフとバイリンガル教育≫、≪ハーフと日本のいじめ問題≫など「多文化共生」をテーマに執筆活動をしている。ホームページ 「ハーフを考えよう!」 を運営。趣味は時事トピックについてディベートすること、カラオケ、散歩。

サンドラ・ヘフェリン