女優・中谷美紀さんの「オーストリア滞在記」(サンドラの感想Part2)
前回に続いて今回も中谷美紀さんの「オーストリア滞在記」(幻冬舎文庫)について書きます。
いきなりですが、日本では欧米流の「共同親権」が疑問視されていたりしますが、「共同親権ってどうなの?」と思っている人にぜひ読んでもらいたいのがこの本。
というのも「オーストリア滞在記」ではタイトル通り中谷さんのオーストリアでの生活について書かれていますが、その中でも大きな割合をしめているのが「中谷さんと継娘との交流」のエピソードの数々です。
この継娘さんはドイツ人のご主人のかつての交際相手との間にできた子供で、Jちゃんは現在8歳です。Jちゃんは普段は本の中で「D」のイニシャルで登場する実母のもとで暮らしていますが、週に一度か二度は父親(中谷さんのご主人)の元にも来ており、パパと中谷さんの家にはJちゃん用の部屋もあります。
フルタイムで働くDさんに代わって、Oma(Dさんの母親、つまりはJちゃんのおばあちゃん)もよくJちゃんの面倒を見ており、Jちゃんが中谷さんも含め多くの大人の愛情を受けながら育っていることが伝わってきます。
つまり子供から見たら、両親は別れているものの、実のお母さんとおばあちゃんのほかにお父さんにも定期的に会えるし、お父さんの新しいパートナーである女性(中谷美紀さん)にも頻繁に会えるわけです。
本の中によく登場するのが娘Jちゃんと中谷さんの間で行われる遊び「コールセンターごっこ」。
昨年は娘さんがこの遊びにハマっていて、ことあるごとにドイツ語を勉強中の中谷さんを相手にこの「コールセンターごっこ」をします。笑ったのが、中谷さんが「もしもし、そちらコールセンターですか?ドイツ語を習いたいのですが、良い先生はいますでしょうか?」とドイツ語で質問をすると、コールセンターの従業員役の娘Jちゃんが「いますよ。●●さんです。」と名前を挙げ、中谷さんが「ドイツ語レッスンの料金はいくらですか?」と聞くと、娘さんが「ドイツ語レッスンは一か月で3千ユーロです!」と答えるくだり。中谷さんが「1か月に3千ユーロのドイツ語レッスンですか・・・。ちょっと高いですね。もっと安いドイツ語レッスンはないのでしょうか?」と聞くと、娘さんJちゃんはすかさず「特価キャンペーンはございません。さようなら」と電話を切ります(341頁)。そのやりとりがリアルで本を読みながら大笑いしました。
中谷さんと継娘Jちゃんとの「コールセンターごっこ」には中谷さんが架空のコールセンターに電話をして「もしもし、注文した商品が届かないのですが・・・」と相談をするバージョンもあります(笑)
中谷さんにとっては娘と交流できる上に、このコールセンターごっこは「ドイツ語の勉強」にも役に立っているのだそう。確かにリアルなドイツ語が覚えられそうですね。
そもそも中谷さんがドイツ語を習う大きなモチベーションとなっているのが娘Jちゃんの存在です。娘とコミュニケーションをとりたいからドイツ語の勉強を頑張っているのだそうです(17頁)。
なんでもドイツ人のご主人はせっかちな性格なため、中谷さんがドイツ語で話し始めても、文章を話し終える前に、ご主人がドイツ語で文章を完了させてしまったり、英語で答えてしまったりするので、ご主人よりも娘Jちゃんから「生きたドイツ語」を学んでいるそうです。
この「オーストリア滞在記」は自然なタッチで書かれていますが、女優という職業を持つ日本人女性が海外のパッチワークファミリーにすんなり入っていけるというのはやはり家族全員、そして何よりも中谷さんの器が大きいのでしょうね。
日本では欧米流の「離婚後も共同親権」というのが、一部からは支持されていません。でもこの本を読みながら、改めて「単独親権を持った親のことだけを家族とする」考え方は子供にとって酷だな、と思いました。同時に「血のつながりばかりが家族ではない」とも感じました。子供からすると、色んな大人と定期的にかかわることで「逃げ場」ができますし、多様な価値観を知ることができます。
「オーストリア滞在記」には娘Jちゃんとそのお友達の可愛らしい浴衣姿の写真が載っています。浴衣は中谷さんが二人に着せてあげたのだとか。外国の子供が日本の文化に触れているのを見ると嬉しくなります。
「オーストリア滞在記」は中谷美紀さんのファンはもちろん、オーストリアやドイツに興味のある人にとっても必見の書です!
サンドラ・ヘフェリン