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女優・中谷美紀さんの「オーストリア滞在記」

女優・中谷美紀さんの「オーストリア滞在記」

先日本屋さんで見つけた本をご紹介します。女優・中谷美紀さんの「オーストリア滞在記」(幻冬舎文庫)です。

 

ドイツ人のビオラ奏者と結婚した中谷さんがザルツブルクの緑に囲まれた一軒家での日常生活を日記風に綴ったエッセイです。

 

中谷美紀さんは昔から好きな女優さんでしたが、そんな彼女が「ドイツ人と結婚をして、一年の約半分をオーストリアで暮らしている」と知った時は、「中谷美紀さん」と「ドイツ語圏」の意外な結びつきに心が躍りました。

 

中谷さんがドイツ語を勉強する過程のエピソードが面白いです。コロナ禍のなか、彼女はドイツ語を学ぶため語学学校のオンラインレッスンを受講しますが、教科書には「会社で使うようなビジネス用語」が多く載っています。でも彼女は女優さんなので、先生に聞いてLampenfieber(和訳:上がり症、舞台負け)やselbsicher(和訳:自信がある)というドイツ語を教えてもらったりと、好奇心旺盛な性格が伝わってきます。

 

このオーストリア滞在記、けっこう分厚い本なのだけれど、読みながら「うんうん、そうそう」と何回も頷いてしまいました。というのも中谷さんは「日本とドイツ語圏の国の文化の違い」にもスポットを当てています。

 

たとえば【おもてなし】について。お客様を家に呼んでおもてなしする際に、日本人は「食事」を大事にするけれど、ドイツ人やオーストリア人はホームパーティーであたたかい食事を用意することはまれで、ケータリングを頼んだり、kaltes Buffet(パン、チーズやハムなどの冷たいもの)を用意するだけで大丈夫なため、ホスト側が食事面で無理をすることはありません。

 

それから【日焼け】について。日本の女性、特に中谷さんは女優さんなので日焼けをしないように気を使っていますが、「外でとにかく日に当たってスポーツをしたい」派のドイツ人のご主人は最初そのことをなかなか理解してくれなかったのだといいます。これはある意味日本人女性とドイツ人男性が結婚した時の「あるある」なので、「あ、中谷さんのところもそうなんだ!」と読んでいて面白かったです。

 

ちなみに今は妻が紫外線を避けていることについて理解を示してくれているのだそうで、ご主人が「こっちのほうが日陰だから席を交換しよう」と自ら提案してくれるのだとか。

 

この本ではドイツ語圏の文化の一つである【FKKの文化】にも触れています。「自由裸体主義」(6月18日の日記、244頁~、)では、サウナが男女混浴であること、ドイツ語圏ではFKK(Freikörperkultur)が盛んで、中谷さんもドナウ川沿いのあるエリアで「裸でバトミントンに講じる老夫婦」を目撃したのだそう。

 

日々の生活の中で日本との違いを発見したり驚いたりしながらも、現地で在留許可証の申請をした時の様子(232頁~)や、ようやく在留許可証を取得できた際の喜び(295頁)も書かれており、失礼ながら女優さんなのに地に足の着いた素敵な方だなと前よりもさらに好きになりました。

 

6月4日の日記(194頁~)には人種差別をされた時の描写があります。日本人の中には人種差別をされても「あら、私は気づかなかったわ~」とそういうことに鈍感だったり天然ボケを装ったりスルーしたりする人も少なくない中、中谷さんは差別をちゃんと差別として認識できる人なんだなと好感が持てます。

 

好感が持てるといえば・・・・中谷さんがHackepeter好きなのもなんだかうれしいです。ハッケペーターとは生の豚挽き肉を塩コショウとタマネギで味付けしたものですが、私も好きでドイツにいる時はよく食べています。

 

中谷さんは、日本で生活していた時は作品の役柄になり切るために、日常生活の中のいろんな楽しみをあえてセーブし、準備のために例えば一年ものあいだ能楽のお稽古だけをして過ごしたりと、ストイックな生活をしてきたと本のなかで自らを振り返っています。

でもドイツ人のご主人の口癖は”Life is too short”(「人生は短いから楽しまないと損だよ」という意味)なんだとか。彼は仕事にも全力投球をする一方で日々のプライベートな生活も思う存分楽しみます。オペラやコンサートの直前でも趣味のロードバイクツアーに出かける彼を見て、中谷さんも「もっと人生を楽しもう」と思い始めているのだとか。

 

「オーストリア滞在記」を読んで、まだまだ書きたい感想がたくさんあるので、来月5月もまた書きますね。「好きな女優さんがドイツ語やドイツ文化圏に興味を持ってくれている」のが本当にうれしいのです!

 

コロナ禍まだまだ収まりませんが、家で読書を・・・なんていうときは「オーストリア滞在記」がおすすめですよ。

 

 

サンドラ・ヘフェリン

サンドラ・ヘフェリン

ドイツ・ミュンヘン出身。日本歴19年、著書に「ハーフが美人なんて妄想ですから!!」(中公新書ラクレ) 、「ニッポン在住ハーフな私の切実で笑える100のモンダイ』(原作: サンドラ・ヘフェリン、漫画: ヒラマツオ/KADOKAWA)、「『小顔』ってニホンではホメ言葉なんだ!?~ドイツ人が驚く日本の「日常」~」(原作: サンドラ・ヘフェリン、漫画: 流水りんこ/KKベストセラーズ)」など計11冊。自身が日独ハーフであることから、≪ハーフはナニジン?≫、≪ハーフとバイリンガル教育≫、≪ハーフと日本のいじめ問題≫など「多文化共生」をテーマに執筆活動をしている。ホームページ 「ハーフを考えよう!」 を運営。趣味は時事トピックについてディベートすること、カラオケ、散歩。

サンドラ・ヘフェリン