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少数民族ソルブのイースターエッグマーケット

少数民族ソルブのイースターエッグマーケット

今年のイースターは何月何日でしょうか?

カレンダーを見ないで即答できる方がいたらすごい!イースターは「春分の日の後の最初の満月の次の日曜日」と決まっているのですが、そう言われても「え、それっていつだっけ?」となるのがふつうの人の反応だと思われます。というわけで、今年のイースターは4月12日です。

移動祝日なせいかクリスマスほど日本人にはなじみのないお祝いの日ですが、キリスト教圏では、十字架にかけられたイエス・キリストが死んで3日目によみがえったとされる日を記念する、クリスマスに匹敵する重要な祝日なのです。

さて、クリスマスといえばクリスマスツリーがシンボル的な存在ですが、イースターでそれに相当するものはイースターエッグ。そしてこのイースターエッグづくりに、ドイツ全国の中でもずば抜けて熱を入れている人々がいます。

ザクセン州バウツェンのイースターエッグマーケットから、その熱気をお伝えしたいと思います。

イースターの約1カ月前に行われるソルブ・イースターマーケット

イースターの約1カ月前に行われるソルブ・イースターマーケット



毎年イースターの約1カ月前に開催される、バウツェンのソルブ・イースターマーケット(Sorbischer Ostereiermarkt)。今年は3月7日~8日にかけて行われました。

ソルブ人(Sorben)とは、おもにザクセン州のバウツェン周辺や、ブランデンブルク州のシュプレーヴァルト周辺に居住している、西スラブ系の少数民族です。民族史的には古く7世紀頃にその存在が確認されており、独自の言語や文化を持ちながら地理的にはドイツの中で独立国家を持つことなく、ゆるやかに同化しつつ生き続けてきました。

そんなソルブ人の文化として知られているもののひとつがイースターエッグの絵付け。このマーケットでは、趣向を凝らした色とりどりのイースターエッグが制作展示販売されていました。

中でも訪れる人の目を特に引いたのが、このイースターエッグです。

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日本の藍染を思わせるような、美しい深い藍色のイースターエッグ。スクラッチ法(Kratztechnik)と呼ばれる手法で施された精緻な模様はすべて、彫刻刀を使った手仕事によるものです。これを作っているのは、ライナー・グローザさん。大柄な体躯から作り出される芸術品のようなエッグが、彼の手の中にあると小さく見えます。

「イースターエッグは、もともとどこの家でもイースター前に作るもので、私も6歳の時からやっていました」

グローザさんのイースターエッグの細やかなモチーフは、ソルブの伝統的な染物に描かれた太陽や草花の図柄を踏襲したもの。色を二層に染めた卵に彫刻刀で模様を描いていく作業で、イースターエッグひとつを完成させるのにかかる時間は2時間半!それに対するお値段は、1個14ユーロ(税込み!)。

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芸術品のような美しいイースターエッグを作り出す、ライナー・グローザさん

芸術品のような美しいイースターエッグを作り出す、ライナー・グローザさん



「イースターエッグづくりは仕事ではなく趣味」とグローザさんをはじめ、マーケットに集ったイースターエッグ職人たちは言い切ります。ちなみにグローザさんのご本業は電気技師で、すでに定年退職して悠々自適の日々を送っているとのことです。

そのような文化的豊かさから生み出されるイースターエッグ。そこには、お金に換算できない貴い価値が込められているのを感じずにはいられません。

このほかにも、イースターエッグマーケットで出会った、美しいイースターエッグの数々をご紹介しましょう。

 



これもスクラッチ法で模様を描いたイースターエッグ。まるで自然界の一部のように見える模様と、鮮やかな色彩…ファンタジーの世界の生き物の卵のように見えてきます。

 

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溶かした蝋で色塗りをしていく絵付け法(Wachsbossiertechnik)のイースターエッグ。

製作者の方がまとっているソルブの民族衣装も負けずに色鮮やかです。黒いボンネットは既婚女性を意味し、これが未婚女性の場合はボンネットの色が白になるのだそうです。

 

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同じ蝋を使った絵付け法でもこちらは蝋けつ染めの手法で、蝋を塗ってから卵全体を染色して染め抜く、バティック法(Wachsbatiktechnik)と呼ばれる手法。いずれにしても、繊細な手仕事のなせる業です。

またイースターエッグマーケットの会場、ソルブハウスでは、イースターエッグの絵付けワークショップも行われていました。ここでは蝋を使った絵付けができます。皆さんの真剣な表情をご覧ください。

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キリストの復活を記念する祝日、イースター。そのシンボルともいえるイースターエッグは、「新たな生命の誕生」と「春の訪れ」を象徴しています。イースターが近づくとドイツでは、彩色や絵付けされたこれらのイースターエッグを柳などの枝にかけたり、かごに入れたりして飾ります。

ソルブハウス内観。ステンドグラス中央に描かれた菩提樹の葉はソルブのシンボル

ソルブハウス内観。ステンドグラス中央に描かれた菩提樹の葉はソルブのシンボル。左手にはイースターエッグが枝にかけられています



ちなみに美しい模様を施したイースターエッグは、さすがに食べてしまうのはもったいない…ということで、昔は20分くらいゆでてカチカチにした卵を用いていたのだそうです。今では、生卵に小さな穴をあけて中身を抜き、殻だけになったところに絵付けを施すという手順になっています。

バウツェンの街にはこのほか、ソルブ人の歴史をたどれるソルブ・ミュージアムや、伝統的なソルブ料理を楽しめるレストランもあり、知る人ぞ知るソルブの文化に触れることができます。

また、バウツェンは駅名や通りの名前も2か国語表記(ドイツ語とソルブ語)になっており、子どもたちがソルブ語を学ぶ学校や、ソルブ語のラジオ放送局もあります。ここでは今も、小さな民族の文化が静かに生き続けているのです。

美しい民族衣装をまとったソルブ人たち。ソルブの民族衣装は、住む地域によって少しずつ異なるそうです。

民族衣装をまとったソルブ人たち。ソルブの民族衣装は、住む地域によって少しずつ異なるそうです



ソルブハウス外観。「ソルブ・イースターマーケット」がソルブ語とドイツ語で2か国語表記されている

ソルブハウス外観。「ソルブ・イースターマーケット」がソルブ語とドイツ語で2か国語表記されている



(in association with the GNTB/協賛:ドイツ観光局)

見市 知

みいち・とも。東京都出身。ライター、ドイツ在住。東西ドイツ統一の年に渡独、ベルリンの東側に1年住む。この時、統一直前の「東ドイツ」を体験した思い出をもとに旅エッセイ、『ベルリン 東ドイツをたどる旅』(産業編集センター)を執筆。このほか、『ドイツ クリスマスマーケットめぐり』『ドイツで100年続くもの』などの著書がある。 ドイツの中でも大好きなものは、北ドイツのバルト海の自然風景。しかし、なぜか南ドイツに住んでいます。
Twitter: @gutereise_

見市 知