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日本の大学新卒で、いきなりベルリンのスタートアップに就職 中本菜摘さん

日本の大学卒業後、ベルリンのスタートアップに就職した中本菜摘さん。

日本の大学新卒で、いきなりベルリンのスタートアップに就職 中本菜摘さん

数多くのスタートアップが存在することでも知られているベルリン。市のサイトによると、新規事業設立の届け出は年間約4万件に上るそうです。

今回登場してくださる中本菜摘さんは、2017年3月に日本の大学を卒業後、日本で働いた経験が一切ないまま、その年の11月にベルリンのスタートアップにいきなり入社しました。これまでこのシリーズで多くの方にインタビューをしてきましたが、日本の学部新卒でそのままドイツで働くというケースは初めてです。詳しいお話をうかがいました。

仕事中の様子。

仕事中の様子。



「大学卒業後は海外」と決めていた

「厳しい校則などに違和感を抱いていて、将来は海外に行きたいと考えていました」と話す中本さん。大学は、名古屋外国語大学のグローバルビジネス学科へ進学。その学科を選んだのは、高校の先生から勧められたからということと、雑貨のオンラインショップを立ち上げたことで中本さん自身がビジネスに興味を持ったからでした。

大学で学んだ内容は、マーケティングやアカウントマネジメントなどで、授業は日本語。英語は必修でほぼ毎日授業があり、そのほか第二外国語としてイタリア語を勉強したそうです。大学3年生になる頃から進路を聞かれるようになり、「海外で勉強をしたいわけではないから、働くしかないのでは?」と考え始めたそうです。

競争相手が少ない非英語圏を志望してドイツへ

海外と言っても、選択肢はいろいろ。なぜドイツに決めたのでしょうか。
中本さんが就職先の国として考えたのは、非英語圏のヨーロッパでした。
「英語圏は日本人が多そうなので、日本人の私が現地で就職するのは競争率が高くて難しい気がしたんです。ヨーロッパは前から好きで住みたいと思っていました」

そこでビザについて調べたところ、ドイツがワーキングホリデービザ(以下「ワーホリ」と記載)があることがわかり、ドイツで働くことを目標に。それまで旅行で訪れたこともあり、よい印象を持っていました。日本での就職活動はせずに、大学卒業後から日本で求人サイト(Indeed)で探してドイツ全国の会社に応募をし始めました。

「スキルもなかったし、日本人を募集している会社も少なかったですが、たとえ募集要項に当てはまらなくてもアプライしました

応募した数は100から200件ほど。応募しても何の返事も来なかったり、返事が来るまでに数週間かかることは珍しくありませんでした。ですから中本さんは、「ドイツ企業で働きたいなら、日本にいるときからアプライしたほうがいい」と言います。

スタートアップのメリットとデメリット

そんななかで、ベルリンのあるスタートアップが出していた条件がすべて当てはまり、入社が決まりました。入社までには面接が5回ほど。最初の4回はスカイプで、最後は現地でCEOと行いました。

中本さんは日本からの応募後、就活のためにワーホリでドイツに滞在していました。就職が決まってからは、その会社で就労できるビザに切り替えました。入社が決まったスタートアップはインターナショナルなので、外国人へのビザサポート体制もあり、会社が紹介した代理店を通じてスムーズにビザの切り替えができたそうです。

入社したスタートアップの事業は、デジタルマーケティング・アドバタイジングテクノロジー。中本さんはそこでアカウントマネージャーとして、日本のクライアントに対して、日本語で業務を行っていました。社内スタッフはインターナショナルなので、英語が共通言語です。

2017年11月からベルリンで働き始めた中本さんでしたが、じつは2019年10月現在、3社目のスタートアップで働いています。それは、スタートアップそのものの変化が大きいから。
1社目では次々と社員が辞めていくので不安になっていたところに、別のスタートアップから同じ職種でのオファーが来たために10ヵ月で転職。しかし転職先で4ヵ月働いたところで、ある日突然に中本さんが担当していた日本のマーケットを閉鎖すると言われて次の就職先を探さなければならないことに。
「さすがにその日は落ち込みました」
と言いますが、気持ちを切り替えて翌日からまた就職活動。4〜5ヵ月の求職期間を経て、現在3社目のスタートアップで働いています。

こう書くと不安定でデメリットが大きいように思えますが、スタートアップならではのメリットもたくさんあると中本さん。
仕事を任せてもらえるから、やりがいがあって責任感が生まれます。プレッシャーもありますが、自分のがんばり次第で、給与もどんどんアップします。いまは仕事が楽しいです」

言葉とコミュニケーションに慣れる

これまでのスタートアップで、日本人社員は常に中本さんただ一人。初めての就職、しかもインターナショナルな職場で戸惑うことも多かったそうです。 「1社目のときは会社の事業内容も理解できず、英語力も低かったです。専門用語もわからず、同僚に毎日同じことを聞いていました」

帰宅後に勉強し、業務を続けるうちに慣れてきて、2社目・3社目に移ったときには苦労しなくなったそうですから、やはり一歩一歩の努力が大切だと思います。

カンファレンスで同僚たちと。

カンファレンスで同僚たちと。



同僚とのコミュニケーションにも戸惑うことの連続でした。たとえば週明けに出社した朝には「週末はどうしてた?」といった挨拶から始まります。仕事中も何かあればおしゃべりをするのに、同僚たちは仕事をちゃんと終えているとか。黙って仕事をしていると、「なんで静かなの?」と言われるそうです。

そうした経験を経て、自分から話しかけるように。
「本当は人見知りなんですが、積極的に話しかけるようになっていまはもう慣れました。理解している内容でも、敢えて質問してみたりとか。そうやってふだんから良好なコミュニケーションを交わしていれば、何かトラブルが起きたときにも周りに助けを求めやすいです」

スタートアップでは社員が若いこともあってか、同僚同士で一緒に行動することも多いと聞きます。中本さんが現在働く職場でもみんなで一緒にランチに行ったり、月に1回のチームイベントでご飯やボウリングを楽しむそうです。

現在の会社では、ビジネスディベロップメントマネージャーとして、これまでの仕事に加えて事業開発も担当しています。 勤務時間は9時から18時で、午前中はメールチェックや電話ミーティング。午後は新規クライアントを開拓する毎日です。週に1回は業界のミートアップに参加。これには残業代は出ませんが、新規クライアントに出会えるし、自分のためになるという考えから顔を出しています。そして月に最低1回は出張が入ります。

海外就職の経験を伝えるためにYouTubeを開始

動画の撮影の様子。

動画の撮影の様子。



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中本さんは現在YouTubeで、海外就職の経験談を伝えています。それは、日本で海外就職について調べたときに、情報がほとんどなかったからでした。 「日本で『新卒』『海外』『就職』というキーワードで検索しても、情報が出てこなかったんです。それなら自分で発信しようと、YouTubeを始めました」

「大学を卒業して、海外で1〜2年過ごして帰国しても、日本でまたスタートできます。海外へ行きたいのなら、まずは行動することだと思います」
中本さんYouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/channel/UClZevObic0_01d1rnnPY29g

久保田 由希

東京都出身。小学6年生のとき、父親の仕事の関係で1年間だけルール地方のボーフムに滞在。ドイツ語がまったくできないにもかかわらず現地の学校に通い、カルチャーショックを受け帰国。大学卒業後、出版社で編集の仕事をしたのち、フリーライターとなる。ただ単に住んでみたいと、2002年にベルリンへ渡り、そのまま在住。書籍や雑誌を通じて、日本にベルリン・ドイツの魅力を伝えている。『ベルリンの大人の部屋』(辰巳出版)、『歩いてまわる小さなベルリン』『心がラクになる ドイツのシンプル家事』(大和書房)、『かわいいドイツに、会いに行く』(清流出版)、『きらめくドイツ クリスマスマーケットの旅』(マイナビ出版)ほか著書多数。新刊『ドイツ人が教えてくれたストレスを溜めない生き方』(産業編集センター)。散歩、写真、ビールが大好き。

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久保田 由希