夫婦で移住。ベルリンで日本の仕事をリモートワーク 小松﨑拓郎さん・荻原ゆかさん
編集者・フォトグラファーの小松﨑拓郎さんと、グラフィックデザイナー・アートディレクターの荻原ゆかさんご夫妻は、ワーキングホリデービザで二人そろって2018年12月にベルリンへ移住。日本の仕事をリモートワークで行っています。移住のきっかけ、ベルリン暮らしのメリット・デメリット、日本との仕事についてうかがいました。
ベルリンのわが家での出会い
じつはお二人が移住される前に、私は一度ベルリンでお目にかかっているのです。きっかけは小松﨑さんからいただいたメールでした。ベルリンの暮らしに興味を持ち、私の本を読んだとのことで連絡をいただいたのです。ベルリンを旅行するとのメールに、それならば私の家にいらっしゃいませんかとお返事をしました。普通はそんなことは書かないのですが、お二人が発信している情報や仕事内容に共感できたので、お話をうかがいたいと思ったのです。
後になって知りましたが、このときわが家に招いたことが一つのきっかけとなり、お二人はベルリン移住を決めたのだとか(この件については小松﨑さんのブログに書かれています)。
なんだか責任を感じますが、今回のインタビューで充実した毎日を送られていることを知り、ホッとしました。
貯金とリモートワーク体制づくり。移住前に準備したこと
「小学校の文集で、特に理由もなく『海外に住む』と書いていたんです。でも大人になって日々忙しく過ごすうちに、すっかり忘れていました」という荻原さん。一方で小松﨑さんは、仕事で知り合う人から『ベルリンがいいよ』という話をちらほらと聞き、「なんだか呼ばれている気がしました」と言います。そこで2017年4月、ベルリンの雰囲気を確かめたいと1週間滞在することに。私がお二人と出会ったのはこのときでした。
そんな「お試し滞在」を経て、移住を明確な目標にした小松﨑さんと荻原さん。移住資金として各自が150万円貯めることを目標に、それまでの同棲生活を解消して家賃の支出をなくし、お互いに実家に戻って貯金をしました。
本格的な移住の前に、こうした「お試し短期滞在」や「貯金」をすることを私もおすすめします。海外暮らしには、準備にも生活にも多大なエネルギーを費やすもの。だからこそ移住前に実際に自分の目で現地を見て、移住できそうかを判断してほしいです。
そのほか、移住後も日本の仕事をそのまま続けるために体制を整えました。
小松﨑さんは当時勤務していた会社から独立し、フリーランスに。移住後の働き方は取引先の理解があり、チームで仕事を進められるような体制をつくりました。
荻原さんは既にフリーランス3年目で、日本での仕事をそのままベルリンで続行することに。
「日本国内でリモートワークをしている人は、海外でもできると思いますよ」と、お二人。もちろん職種や滞在期間にもよるでしょうが、海外でのリモートワークは私も既に何例か見ています。
ワーホリビザ申請のために、急いで家さがし
現在ワーキングホリデー・ビザ(以下ワーホリビザと記載)は、日本での申請のほか、ドイツに入国後でも可能です。ベルリンで申請しようと必要書類を準備していたお二人は、ドイツ語の大使館ホームページを確認したところ、日本語ページには載っていなかった住所登録の証明書が必要だと知り、慌てて家探しを行うことになりました。それまで知人宅に一時的に住んでいたため、賃貸契約を結んでいた家がまだなかったのです。
ベルリンの家さがしは、現在とても大変です。家賃は高騰し、空き物件自体がとても少なく、空き部屋の内見会には100人以上が集まると言われています。日本のように先着順で家が借りられるわけではなく、希望者の中から大家が誰に貸すかを決めるので、日本人にはなおさら大変です。
お二人はヨーロッパにある日系の不動産会社を通して、すぐに入居できる住まいを探し、現在の家具付きアパートに決めました。家が決まったことで無事にワーホリビザも取得できました。入居したアパートは1Kの間取りで家賃はやはり高いので、引き続き家さがしを行う予定です。
そのほか荻原さんが急病で病院と歯科医に行くことになり、通訳の人に付き添ってもらったり、高額な歯科治療代がかかったりと、移住して半年の間で予想外の困難も経験しました。これまで慌ただしく過ぎてしまった分、ようやくこれから本格的な活動ができると、いろいろなプランを立てているところです。
都市と自然のバランスがいいから、ベルリンは住みやすい
お二人がベルリンに移住したのは、2018年12月のこと。半年暮らしてみて、この街の住みやすさを実感しているそうです。
「なんで住みやすいのかと考えたら、自然と都市のバランスがいいのだと気がつきました。郊外に広いショッピングセンターがあったりして、適度に田舎っぽいところがいいんだと思います」(荻原さん)
「ベルリンでは小鳥のさえずりで目が覚めますし、街の中でリスやウサギを見かけることもあります。小学校高学年のときには、地元にはまだ緑が多かったので、ベルリンで幼少時を思い出しましたね。自分にとって、自然は大切です」(小松﨑さん)
ほどよく都市で自然も身近にあってリラックスできる、とはベルリンに越してきた人たちの多くが口にすることです。私も同感です。
そうした環境から、パンと水筒、それに布1枚を持って公園にピクニックにでかけたりと、遊び方のバリエーションが日本にいた頃よりも広がったそうです。
「選択が未来を造る」。もの選びの基準が明確に
お二人は東京で暮らしていた頃、京都の野菜提案企業・坂ノ途中の定期宅配を利用していたそうです。環境負荷の小さな農業に取り組む人たちを増やし、100年先も続く農業のかたちをつくりたいという想いへ共感したことと、純粋に野菜がおいしかったから、隔週の定期宅配を楽しみにしていました。
野菜が切れた時にスーパーに行くと、無農薬や有機栽培による野菜は一部のスーパーでしか取り扱っていなかったり、在庫はあっても高価であったり、まだまだ気軽に買えるものではなかったそう。
ベルリンではBIOマークのついたオーガニックの野菜をどこでも気軽に買えることに、衝撃を受けたそうです。
「マイノリティだったことが、こっちではマジョリティだなあと。ベルリンの人たちは食の安全性や将来への安心を重視しているのだと思います。目先の都合の良さだけでなく、それを選ぶことでどんな影響を与えるのか、あるいは受けるのかというところまでを想像して、モノを選んでいるのだとわかりました」と、荻原さん。
日本では荻原さんも小松﨑さんも、次の世代のことまで考えて暮らす人々と会ってきましたが、それに共感する一方で自分たちの暮らしにどう生かせるかわからなかったそうです。しかしベルリンに来て、自然に負荷のかかりにくい都市生活を実感できるように。
「選択が未来を造るのだとわかりました。基準を明確にして選ぶだけでもいいのだと思います」
そう荻原さんは話します。
私はよく「買い物は選挙のようなもの」と書いています。言葉は違いますが、考え方は同じです。
これからも続けたい暮らしを伝えていきたい
小松﨑さんが現在編集長を務め、荻原さんがアートディレクターを務める「灯台もと暮らし」は、“問いを立てて探求する実践者“が集まるメディアとなるよう、リニューアル公開に向けて準備中です。
その他にもせっかく二人でベルリンに来たこともあり、現在は自分にも、他者にも、地球にも無理を強いない暮らしをテーマに、共同で映像制作をしているところです。荻原さんは「伝えたいことが溜まってきたので、近々ウェブマガジン化するつもりです」とのこと。
今後のプロジェクトとして、ベルリンの暮らしを疑似体験できる場の提供など、数々のアイデアを持っているお二人。興味のある方はホームページをチェックしてみてください。
◎ 白梟
magazine : https://note.mu/ogiyk/m/m74e71fc6b586
youtube : https://www.youtube.com/channel/UCjN-_CRzrDOmadb1V7RpKLg
灯台もと暮らし:http://motokurashi.com/
◎ 小松﨑拓郎
Twitter : https://twitter.com/takurokoma
Instagram : https://www.instagram.com/takuro.komatsuzaki/
web site : http://takurokoma.net/
◎ 荻原ゆか
Twitter:https://twitter.com/ogiyk_
Instagram : https://www.instagram.com/ogiyk/
web site : http://ogiyk.com/