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【読書の秋】JAPAN - FETTNÄPFCHENFÜHRER

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【読書の秋】JAPAN - FETTNÄPFCHENFÜHRER

先日ドイツへ行った時、本屋さんHugendubelに行ってきました。レジに並んでいたら、近くの本棚のJAPANの文字が目に入りました。

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観光関係の棚だったので、日本のお寺や観光名所を紹介する本かな?と思いきや、パラパラと読んでみると(いわゆる「立ち読み」ですね…)、日独の文化の違いの深いところまで説明していて、さらにそれがとてもユーモラスな書き方だったので、本の中にすーっと引き込まれてしまいました。それで、もちろん買ったわけですけど、本の最初の半分は、日本に戻る飛行機の中で読み、残りの半分は、日本に戻ってから、電車での移動中に読みました。表紙の写真は完全に「ニッポンに初めてやってきた観光客」が読むような感じのものです。気のせいだか、山手線で周りからの視線(「あ、あの観光客、日本に関する本を読んでる!」というような視線)を感じました(笑)

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さて、前置きが少々長くなりましたが、この"JAPAN - Die Axt im Chrysanthemenwald - FETTNÄPFCHENFÜHRER"はいわば「ドイツ人が日本に行くときのための準備本」です。そう、この本、「ニッポンでドジを踏まないためのガイド本」なのでした。「ホフマンさんというドイツ人男性が日本へ長期出張をする」という設定になっていて、その日本滞在中にホフマンさんが踏んでしまう「ドジの数々」が次から次へと登場します。

目次はザッとこちらです。





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本の目的は「異文化理解」、そう「日本への理解」です。この本はいわば「ドイツ人に日本を理解してもらうための本」なのですね。

この本の良いところは、ドイツ人がお箸を使う時の失敗や、名刺交換の時に起きてしまうハプニングなどを紹介しながらも、「お箸」「名刺交換」「お風呂」などといった既にひろく知られている「あるある」に留まらず、日本とドイツの考え方の違いの「深い部分」にまで触れているところです。

特に面白かった章を何点かご紹介します。

●Herr Hoffmann ist spontan(157頁)

私が好きな(?)ドイツ人のSpontaneität(日本語での解説: その場の気分や思いつきで動く様のことを指す名詞。ドイツにおいてSpontaneitätはポジティブなこととしてとらえられているが、日本では単に「計画ができず、その場の突飛な発想で動く人」ととらえられてしまいます。)に関して書かれていて、ちょっと感激。

笑ったのは、"Während in Deutschland kaum eine Kontaktanzeige ohne das schmückende Attribut "spontan" auskommt, könnte man in Japan auf diese Weise vermutlich lange auf Partnersuche gehen. Denn Spontaneität bedeutet Chaos und somit eine Störung der Harmonie." (158頁)のくだり。ザッと日本語で書くと、「ドイツの婚活の際のパートナー募集欄では、ときに『自分がいかにspontanな人間であるか』がアピールされがちである。しかし日本においては、spontanアピールをしてしまうと、永遠に恋人探しをすることなってしまうことでしょう。(つまりは恋人はなかなか見つからない。)日本では、spontanであることはカオスを意味し、和を乱す行為である。」とあります。これなど、日本人とドイツ人の人間関係の違いを語る上で、けっこう大事なことです。もっというと「どのようにしたらモテるのか」という答えも、このあたりに隠れていそう。

●Herr Hoffmann erwartet eine klare Antwort - Ja oder ja?(133頁)

ドイツ人は自分がspontanに提案したことに対して、相手から「即」はっきりとした返事を求めがちで、時に相手の都合をあまり考えない有様が書かれています。たとえば、日本人の有休が平均してドイツ人よりも少なく、会社で有休が取りにくい状況であることを考慮せず、会社員である日本人に対して「来週の頭から、京都に遊びに行きませんか?」などと「直前の思いつき」(3日前とか4日前とか)で日本人を誘うのはちょっと考えたほうが良い、としています。

●Herr Hoffmann empfindet berufliches Vergnügen - Spaß und Arbeit gehen nicht zusammen(121頁)

ここでは、ニッポンの職場においては、なるべく会社のために大変な思いをして働いていることを周囲にも見せるのが「正解」だということが書かれています。欧米流に「楽しく働いている」ことをニッポンの職場でアピールしてしまうと、日本人に「仕事と真面目に向き合っていない」と思われてしまう可能性が高いとも。

そして、ドイツの会社の机には時に家族や配偶者の写真が飾ってあったりしますが、ニッポンにおいてはこれはあまり見られない現象であることも。そういう意味では日本人のほうが「公私」を分ける傾向にあり、「家族」とは「完全に私の部分」なので、あまり会社で家族の話をしないのがニッポン流だということも紹介しています。これについては、日本では週末明けの出勤時に上司から「週末は何をしていましたか?」と聞かれる心配がないのと、週末はアクティブに動いていたことを報告しなくては!というプレッシャーもないので、むしろ楽な面もあるということを著者は書いています。

●Herr Hoffmann schert alle über einen Kamm - Nicht alle Asiaten spielen Pingpong...(248頁)

ここでは、ドイツ人を含む欧米人が時に「中国・韓国・日本・ベトナムなどを全部ゴッチャにしがちであること」を皮肉っています。笑ったのは、"Jaja, das kennt Frau Watanabe schon. Europäer und Amerikaner scheren gerne mal alle Asiaten über einen Kamm. "(和訳:「はい、それは(通訳の)渡辺さんにとって特に新しいことではありません。ヨーロッパ人やアメリカ人は時にアジア人を一緒くたにし全員同じだと見なしてしまうことも多いのでした。」)と書かれていること。本の中で挙げられている具体例も面白いです。

このが親切なのは、ホフマンさんのドジ・エピソードの後に必ず"Was ist diesmal schiefgelaufen?"(「今は何が問題でドジをしてしまったのか?」)と解説の頁があり、その後"Was können Sie besser machen?"(「今後同じ失敗を繰り返さないためにはどうしたらよいのか?」)と続くことです。日本の歴史に関する説明も多く、情報量としても大満足です。

ユーモラスなドイツ語で書かれていながら、日本への愛も感じますし、読んでいてテンションがあがるというか…最高に楽しい本です。ドイツ語ができる日本人がこの本を読んでみるのも面白いかもしれません。ああ、こういう誤解があるのだな、とリアルに書かれていますので。日本のテレビやメディアも「外国人が日本に来て困ったこと」を取り上げていたりしますが、この本は日本側のフィルターを通していないので、いわば「直接」の声なのですね。

お箸の持ち方から、スリッパの履き方、果ては山口組の歴史まで紹介してくれているこの本、非常にバランス感覚に長けています。

・・・・【読書の秋】ですし、皆さんも本を楽しんでくださいね。

サンドラ・ヘフェリン

P.S.秋といえば、読書の秋、そして!食欲の秋でもあります!このあいだドイツで、とてもエキゾチックなお寿司を食べました。なんとバナナが入っていました!こちらからご一読くださいませ。

以下からも読めます↓↓↓

ちょっとビックリな寿司ネタ@ドイツ

 

サンドラ・ヘフェリン

ドイツ・ミュンヘン出身。日本歴19年、著書に「ハーフが美人なんて妄想ですから!!」(中公新書ラクレ) 、「ニッポン在住ハーフな私の切実で笑える100のモンダイ』(原作: サンドラ・ヘフェリン、漫画: ヒラマツオ/KADOKAWA)、「『小顔』ってニホンではホメ言葉なんだ!?~ドイツ人が驚く日本の「日常」~」(原作: サンドラ・ヘフェリン、漫画: 流水りんこ/KKベストセラーズ)」など計11冊。自身が日独ハーフであることから、≪ハーフはナニジン?≫、≪ハーフとバイリンガル教育≫、≪ハーフと日本のいじめ問題≫など「多文化共生」をテーマに執筆活動をしている。ホームページ 「ハーフを考えよう!」 を運営。趣味は時事トピックについてディベートすること、カラオケ、散歩。

サンドラ・ヘフェリン