Hitzefreiという「のんき」な制度
「まいにち暑いですね」・・・というのが口癖になってしまっている毎度のニッポンの夏ですが、それにしても今年の夏の猛暑はすごかったですね。
豪雨や台風も悲惨ですが、連日40度または40度に近い暑さが続き、7月には気象庁が「命の危険がある暑さ。一つの災害と認識している」と記者会見を開きました。熱中症による死者数は統計をとり始めた2008年以来過去最多とのこと。
かくいう私も先日、港区の屋外プールに入ったら、プールの水が「お湯」になっていて、びっくり。まるで温泉で泳いでいるかのような体感温度でした。さらに泳いでいる間もお湯越しの日差しが強く、普通はプールで過ごすと、いい感じに身体がひんやりするのに、プールから上がった後もまったくスッキリしませんでした。やはり気象庁が言うように「暑さが災害レベル」だと体感できました。
そんな暑い日が続く中、6歳の小学生が熱中症により学校の校外学習で死亡するという痛ましい事件も起きてしまいました。
驚いたのは気象台から「高温注意情報」が出ていたにもかかわらず、学校側の対応がなんだか「のんき」だったこと。同校の校長は「これまで校外学習では大きな問題は起きておらず、気温は高かったが中止するという判断はできなかった。」と語りました。
「のんき」は悪いことではないと思いますが、こと暑さに関しては、子供が死亡した「後」ではなく、その「前」に「のんき度」を発揮してほしかったな、と思ってしまいました。
たとえば、ドイツにはhitzefreiという「暑い時にいは休校」という、ある意味「のんき」な制度があります。
このHitzefreiは、19世紀(1892年、明治25年)にプロイセンの文部省が導入したもので「午前10時に日陰の気温が25度を超える場合、学校の授業は4時間目以降は中止すべし」(※)としています。現在、ドイツの学生は小学生も含めて朝が早く、朝の8時には授業が始まるところが多いですが、同日午前10時の気温が上記に当てはまれば・・・・午前11時ぐらいに学校は終わり!というわけです。のんきですね。
※ 現在は州によって、温度の規定は様々です。例えばベルリンの法律では気温に関する規定はなく、校長先生の判断で授業の中止を決められますし、ノルトライン・ヴェストファーレン州では教室の温度が27度を超えた場合、生徒は家に帰ってよいことになっています。
日本だったら、「そのぶん子供たちの勉強はどうなるの?!」といった旨の声が挙がりそうですが、ドイツの場合は「勉強の遅れ?だって今日、暑いじゃん」という「のんきな思考」を誰もがするため、ドイツで暑い時期に「子供たちの勉強の遅れ」を心配する声は聞いたことありません(笑)
そもそもhitzefreiは大人も子供も「ヤッター!終わりだー!」とみんなが大喜びで帰るお祭り的な要素があるので、絶対になくしてほしくありません(笑)
さて、日本で気になるのは、「暑さも我慢できないようでは『ヤワ』な子供に育ってしまう」だとか「子供にクーラーはいらない」などの暴論ともいえる「意見」を持つ人がいまだに一部いるということ。いわゆる「根性論」に基づいたものですね。
昔ならいざ知らず、この文明の時代に何を言っているんだ、と思ってしまいます。「暑くても休校にしない、でもエアコンも設置しない」というのは一体どういうことなのかと。ちなみに私自身はニッポン流の「やればできる」「何事も根性」という考え方自体は嫌いではありませんが、それは自分が自分自身に課すことであって、他人にそれを課したり、ましてや大人が子供に強要することではないと思っています。
「他人に無理を強いる根性論」に関しては基本的に全部を問題視していますが、特に暑さに関しては子供の死者まで出ているので、本当に大きな問題。ここでも「大人という決定権のある立場にいる人が、子供という自分より立場の弱い人に我慢を強いる」という構図が丸見えになっているのでした。「小学校にクーラーはいらない」という考え方の政治家も自らはひんやり冷えた部屋でのんきに仕事をしているのですから、世の中の不条理を呪いたくもなります。
「暑いところで仕事できない日本人を育ててはならない」という自論を展開し11年間ものあいだ杉並区の小中学校へのエアコンの設置を認めなかった山田区長(現自民党参院議員)を思い出してしまいました。(その後、区長が変わってから、杉並区ではめでたくエアコンを設置)
日本では何かと「暑い中、外でがんばる」のが甲子園をはじめ「美徳」だとみなされているフシがありますが、地球温暖化という状況の中、色んなことを見直す時期に来ているのではないかと。テレビなどのメディアでも最近、このことがよく論議されていますね。
小学校や中学校でも、暑い日に校庭に子供たちが集まり、延々と大人の話を聞く、というわけのわからないものがやたらと多い印象。そんな中、ある種の同調圧力から「具合が悪い」「休みたい」「水が飲みたい」と言い出せない子供がいても不思議ではありませんし、このことを大人はもっと意識すべきではないでしょうか。(すでに認識している方も大勢いらっしゃいますけど。)
熱中症対策は当たり前のことのようでけど、「臨機応変に自分の体質や体調に合わせて温度を調整したり、どう動くかをある程度『自分で』決められる」ことが大事です。そしてhitzefreiに見るように、ある程度の「のんきさ」も必要かと。
私自身に関しては、北国出身ですから(笑)決して「暑さに強い」体質ではないですけれど、なにせ「我慢ができない性格」ですので、外でも中でも常に炭酸水の入った大きなペットボトルを手に持ち、いつでもどこでも気ままにグビグビ飲んでますので、まあ熱中症は大丈夫かな。
皆さんものんきに、そして我慢をしないで、夏を乗り切りましょうね。
サンドラ・ヘフェリン
★追記★
今年はドイツも連日の猛暑です。写真は暑さに耐えきれなかった羊がプールに飛び込んだら溺れそうになり、警察官が制服を脱いで飛び込み、羊を助けて「めでたし、めでたし」の図!・・・というのは、実はちょっと違います。実際には、プールのある敷地内に迷い込んだ羊を警官が捕獲しようとしたら、羊がプールに落ちたので、警察官もその後プールに飛び込んで羊を助けた、というお話。でも、それでも「めでたし」ですよね!