ドイツ人は実質的? フリーランスガーデナーが見るドイツ hommy(細野智美)さん
いいお天気が続く今年の夏、ドイツ人たちが特に精を出すことはなんでしょう? 答えは庭仕事。ドイツ人の庭への愛情は尋常でない気がします。
今春ベルリンへやってきたばかりのhommyさんは、フリーランスのガーデナーとしてドイツ各地の庭を管理しています。ドイツでの仕事の見つけ方やドイツの印象ををうかがいました。
日本での会社員生活から植物に目覚める
hommyさんは武蔵野美術大学を卒業後、東京の広告制作会社に就職してウェブデザインの仕事をしていました。しかし、ハードな毎日から、癒やしを求めてサボテンなどの多肉植物を買い求めるように。多肉植物は水やりなどの手間がほとんどかからず、身近に緑があることで気持ちが落ち着いたのだそうです。コレクション熱が高じて、自宅の部屋と庭にはなんと500株もの多肉植物が集まったそうです。「最終的には卸売業者さんや生産者さんから直接購入していたんですよ」と、hommyさんは笑います。
イギリスのワーホリに当選してロンドンへ
じつは会社を辞める前に、細野さんは海外生活への興味からイギリスのワーキングホリデービザに応募していました。イギリスのワーホリ制度は、申し込めば取得できるドイツとは異なり、ビザ支給の年間定員数が決まっています。細野さんは初めての応募で当選し、ロンドンに滞在することを決めました。
その頃、植物デザインに興味が芽生えていたhommyさんは「ロンドンに行くなら、デザイナーではなく植物の仕事に関わりたい」と考え、3年勤務した広告制作会社を退職。その後、職業訓練校で半年間造園を学びました。
イギリス滞在中に見つけたドイツの仕事
ロンドンでは語学学校で英語を勉強し、現地の求人に出ていた日本人庭師のアシスタントに応募。ロンドンの一戸建て住宅の庭をメンテナンスする仕事を得ました。「イギリス人は庭をとても大切にしますね。日本人に比べて、イギリス人は庭にお金をかけています」
ドイツ行きの転機は、イギリスの国際的なガーデニングショーである「チェルシーフラワーショー」で、庭園デザイナー石原和幸氏の展示の手伝いをしていたときに訪れました。そこで出会った日本人庭師から、ベルリンにある日本大使館の庭の仕事を紹介されたのです。
それまでドイツに来ることは想像していなかったというhommyさん。しかしそれがきっかけとなり、イギリスでのワーホリ期間を経て2018年4月にベルリンへやってきました。
優しく、オープンマインドなドイツ人
本格的にドイツに滞在する前に、下見のためにベルリンとハンブルクを訪れたhommyさんは、そこで人々の優しさに触れたそうです。
「一人でビールを飲んだ帰り道に、転んでしまって。そうしたら周りにいた人が抱き起こしてくれて『なんて優しいんだろう』って(笑)」
そのイメージは、ベルリンに住んだ今も変わりません 。
「今はドイツ人のシングルマザー2人と、それぞれの子どもたちと一緒にWG(フラットシェア)をしていますが、プライベートなことを気軽に話し合ったり、物を貸してくれたりと、何事もオープンでシェアする精神を感じます」
ロンドンにいたときよりも、人との間の距離が近いとか。私もベルリンに来た当初はWGをしていましたが、確かにフラットメイトたちとはプライベートなこともよく話し合い、そこからドイツ人への理解が深まりました。ドイツ人はときにダイレクトだと感じることもありますが、気取らず親切な人が多いのは私も同感です。
こんなに違うドイツとイギリス。庭から見る独英比較
ベルリンではフリーランスのガーデナーとして、当初の予定通り日本大使館の庭をドイツ人同僚とともにメンテナンスしています。
そしてそこからまた新たな仕事の依頼が訪れ、8月からハンブルクにある日本領事館のプロジェクトにも携わるようになりました。それ以外に個人宅の庭のメンテナンスも請け負っています。仕事の紹介も、何かを探すときも、周囲の人が情報を教えてくれるそうで、これもドイツのオープンマインドの表れといえるのかもしれません。
イギリスとドイツの両国で、庭を見てきたhommyさん。どちらも庭好きな国民として知られていますが、じつはその好みには大きな違いがあるそうです。
「イギリス人は花をきれいに咲かせたいなど、鑑賞が大切な目的なんです。ところがドイツ人は野菜、果物、ハーブなど、収穫できるものが大好きなんですよね。ベランダでも野菜を育てたり。暮らしに密着しているというんでしょうか」とhommyさん。
その言葉に私は大きく頷いてしましました。本当にその通りなんです!
庭好きのドイツ人は、必ず「栽培」と「収穫」をセットで考えています。「このハーブはこういう料理に使うとおいしい」「ケーキに使っているリンゴはうちの庭で取れたもの」「庭の野菜でバーベキューをしようよ」という具合。確かに言われてみれば、花が美しくて……とだけ言う人を見た記憶がありません。ドイツ人らしさの一端が表れているように思います。
ドイツにはクラインガルテン(シュレーバーガルテンとも)という、小屋付き市民農園制度があります。これは19世紀初頭からドイツで始まったもので、もともとは貧しい人々の食料確保のためにできた農園でした。そうした歴史から、ドイツの庭は鑑賞だけでなく収穫まで意識したものになったのかもしれません。
植物に関連する仕事の領域を広げたい
hommyさんはガーデナーとしてだけではなく、アーティスト、ボタニカルデザイナーとして植物全般を仕事領域に活動をしています。
たとえば、剪定した植物を使ったアクセサリーや雑貨作り。レーザーカッターで細かい和の伝統柄を描いた木製オーナメントや、ドライフラワーとアロマワックスを組み合わせたアロマワックスサシェなどがあり、どれもとても素敵です。
美大出身でデザインの仕事をしていたhommyさんですから、センスがいいのは当たり前なのかもしれませんが、それでも繊細で素晴らしい作品を前に感激しました。
本来ならば捨てられてしまう剪定後の植物たちが、美しい姿に生まれ変わるコンセプトは、ドイツ人にも支持されそうです。
そのほか、植物をテーマにした旅の記録を「ホミ旅」としてまとめ始めたりなど、プランは次々と広がっています。
現在はワーキングホリデービザで滞在中のhommyさんは、来年はフリーランスビザに切り替えて今後もドイツで頑張りたいと意欲を燃やしています。
「ベルリンはフリーランスが多いので、みんないろいろ教えてくれます。これからはドイツ語を習って、ドイツ語でもっとコミュニケーションを深めていきたいです」
hommyさんの活動は以下でチェックできます。
植物中心の日常エッセイ :
https://www.instagram.com/hommy_t/
hommyの作品ポートフォリオ :
https://www.instagram.com/made_by_hommy/