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日独ハーフの視点

“Darf ich Ihnen Frau Suzuki vorstellen?”礼儀と個人情報のお話

マナーや礼儀って本当に国や文化によって違うな、と感じる今日この頃。

 

と同時に個人情報というものに対する考え方も国によって違ったりします。

 

近年日本では「マイナンバー」関連のことが話題になっていますが、

 

そういった制度化された個人情報のお話ではなく、

 

今回は、仕事やプライベートで人間と人間がお互いに接する際の個人情報にまつわるお話をしたいと思います。

 

ドイツ人的な感覚だと、自分と親しい人を第三者に紹介する場合、単に「Guten Tag! Darf ich Ihnen vorstellen?Das ist Frau Mariko Suzuki.こんにちは!ちょっと貴方にご紹介してもよろしいですか?こちらが鈴木真理子さんです。」と紹介するだけではちょっと物足りない印象です。むしろ「プラスアルファ」で色んな情報を開示しながら紹介するのが礼儀だったりします。例えばこんな具合に。「こちら、私の友達の鈴木真理子さんです。元々はお互いの趣味である太鼓の教室で知り合いました。鈴木さんは太鼓以外にもピアノも上手で、更にドイツ語にも堪能です。私と一緒にドイツ旅行をしたこともあるんですよ。鈴木さんのご主人もいい人で、ご主人は~」という具合です。

 

はい、これ日本人的な感覚からすると、ちょっとビックリなわけです。え!?人の個人情報をそこまでしゃべっちゃうの?っていう。

 

ではドイツ人の感覚はどうなのかというと、多くの人は、他人そして自分の情報開示について「オープン」なのですね。(余談ですが、ドイツでは「理想のパートナーはどんな人?」という質問に対して「Er soll humorvoll und offen sein.ユーモアがあってオープンな人がいいわ。」と答える人も多いのです。)offen seinやOffenheitという単語が何かと登場することからも、「オープンさ」や「オープンである」ことがドイツ人にとっていかに大事なことなのかがうかがえます。

 

対して、日本の場合は、オープンさよりも、奥ゆかしさやある種の控えめさが美徳だとされています。例えば、持っている能力や資格について全部予め大きな声で言って開示しておくのがドイツ流だとすると、他人に自然に気付かれるまで黙っているのが日本流だったりします。(もちろん会社の面接などは除く。)

そして、何よりも情報開示に関しては、いくら雑談とはいっても、よく知らない人に対して自ら進んで自分の個人的な事を開示することに違和感を感じる人も多いですし、ましてや他人に自分の情報を語られてしまうのはもっと困惑するわけです。

 

先日ある日本人女性が「ドイツ人の男性上司が私をよく仕事関連の会合に連れて行くんです。その会合で(私が)初対面の人と会うたびに、上司がその人に私を紹介してくれるのは嬉しいんだけど、それは大きな声で私の個人情報をしゃべるのよ!」と悩んでいました。聞けば、その上司は「これは私の秘書をしていて、いつも私の仕事を支えてくれている●田●子さんです。」と言った後に、彼女が現在住んでいる地域の駅名、彼女の前職の話、果ては彼女が大学で選考していた学科にまで話が及ぶのだそう。まあ彼女の上司の場合は、きっとかなりおしゃべり好きなドイツ人なのだと想像します(笑)

 

ただここはしつこいようですが、感覚の違いといいますか、ドイツでは「礼儀正しい」とされる人こそ、この手の紹介を詳細にする傾向にあるのもまた事実です。(つまり、「こちらが●田●子さんです。」で紹介を終わらせず、●田●子さんとの関係性や●田さんの情報を第三者に語る。)

 

思うに、ドイツの場合は、前述の通りOffenheit(オープンさ)が非常に大事な要素であるため、実際のところ、全員とはいわないまでもほとんどのドイツ人が自分の情報や周りの人の情報を周りに開示しており、その中である種の「バランス」が取れているのだと思います。ところが日本の社会では、情報開示をしていない人も多いわけですから、こういった情報開示には皆さん敏感で、「開示された自分の情報が悪用されたらどうしよう」とか「開示された情報によって誤解されたらどうしよう」とか「情報を開示したことによって、変に期待されたらどうしよう」・・・などと心配が尽きないわけです。

©colourbox.de

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まあこれも文化の違いですね。私自身、ドイツに住んでいた頃のほうが自分の家族構成から住んでいる場所、自分の交友関係などについて初対面の人にも自ら進んで開示していましたし、日本に来てからもしばらくはそれを続けていました。けど、先日、来日20年にして自分が日本人的になってきているな、と気づきました。それはドイツ人の知り合いの女性がその人の行きつけのバーに連れて行ってくれた時のこと。店に入り、カウンターに着くなり、バーテンダーに「この人サンドラ。」と紹介したかと思ったら、その後すごい勢いで私のあんなことやこんなことまで大きな声でバーテンダーに報告しているではありませんか。一番気になったのは仕事関連。そこまで詳細に初対面のバーテンダーには言ってほしくなかったなあ、、、と思ったものの時既に遅し。情報というものがすっかり怖くなってしまった私です。まあスパイじゃあるまいし、ドイツ人的な感覚からいうと「気にしすぎ」なのでしょうけど。

 

なにはともあれ人との距離感も含め、どこまでの情報をその人の守るべき個人情報だとするかは文化の違いも大きいんだなあ、と感じた夜でした。

 

※本文に登場する名前は仮名です。

著者紹介

サンドラ・ヘフェリン

ドイツ・ミュンヘン出身。日本歴19年、著書に「ハーフが美人なんて妄想ですから!!」(中公新書ラクレ) 、「ニッポン在住ハーフな私の切実で笑える100のモンダイ』(原作: サンドラ・ヘフェリン、漫画: ヒラマツオ/KADOKAWA)、「『小顔』ってニホンではホメ言葉なんだ!?~ドイツ人が驚く日本の「日常」~」(原作: サンドラ・ヘフェリン、漫画: 流水りんこ/KKベストセラーズ)」など計11冊。自身が日独ハーフであることから、≪ハーフはナニジン?≫、≪ハーフとバイリンガル教育≫、≪ハーフと日本のいじめ問題≫など「多文化共生」をテーマに執筆活動をしている。ホームページ 「ハーフを考えよう!」 を運営。趣味は時事トピックについてディベートすること、カラオケ、散歩。

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