第26回 ”お尻パン”の街の愉快な伝説
みなさんこんにちは! ミュンヘンで編集者をしている溝口シュテルツ真帆です。今ブログでは、ドイツのサンディアゴ巡礼路を行く旅の様子をお届けしています。
私が現在たどっているのは、フレンキッシュ・シュヴェービッシャー・ヤコブスヴェーク(Fränkisch-Schwäbischer Jakobsweg)。ヴュルツブルクから中世の街並みが残ることで有名なローテンブルク・オプ・デア・タウバーを通り、ウルムに南下する約270kmのサンティアゴ巡礼路です。
今回は、バーデン=ヴュルテンベルク州の街クライルスハイム(Crailsheim)からホーエンシュタット(Hohenstadt)という町までの約55kmの道のりをご紹介したいと思います。
冒頭の写真のクライルスハイム(Crailsheim)は、人口3万人ほどの小さな街。街の中心をヤクスト(Jagst)という川が流れていて、巡礼路はその川沿いに広がる公園内を通っていきます。朝、凍り付いた池越しに見える街に、少し寄り道をしてみました。
街の周囲にはかつての市壁が一部残されていて、その塔のなかに入ってみれば、暗闇のなか、恐ろしい魔女裁判の場面を語るナレーションが突然流れてきてゾゾッ。ここクライルスハイムでも、16世紀に魔女狩りの嵐が吹き荒れたそうです。
そして街のことを調べてみてなんとも愉快だったのは、ここクライルスハイムのとある伝説。14世紀後半、敵軍に包囲され食糧が枯渇してしまったクライルスハイム。そこで案をめぐらし、最後に残った小麦をかきあつめて「ホラッフェン」というパンを焼き、敵に向かって投げつけたのです。そしてその先頭に立ったのは、丸々と太った市長のおかみさん。その様子を見た敵軍は「こんなに豊かな街にはとても勝てぬ」と撤退したというのです。
現在でも、毎年春にこの伝説をもとにした祝祭が行われていて、子どもたちにはそのホラッフェンが配られるそうです。「ホラッフェン、食べてみたい!」といくつかパン屋をめぐりましたが、残念ながら発見ならず。でも、1軒のカフェでホラッフェン型のクッキーを見つけました。こちらです。
まるい「W」のような不思議な形……なんだかわかりますか? これ、なんとそのおかみさんの大きな「お尻」を模した形だそう! ホラッフェン改め、「お尻パン」と呼びたいクライルスハイム名物、いつか食べてみたいものです。
さて、クライルスハイムを後にして、巡礼路探訪は続きます。
続く町、オーバーシュペルタハ(Oberspeltach)に向かう途中の山中を行くと、鮮やかなオレンジ色の展望台が見えてきました。1階部分はカフェになっていて、周囲の人けのなさとは打って変わって、なかにはたくさんの家族連れが! 周辺の人々のハイキング途中の恰好の休憩場所になっているようです。
住宅地のオーバーシュペルタハ、グリュンデルハルト(Gründelhardt)を越えると、牧歌的な風景が広がりました。ヘルマンスホーフェン(Hellmannshofen)、と村の名前を記した、こんなに可愛らしい標識も見つけました。
続いて目指すのは、聖地のひとつであるホーエンベルク(Hohenberg)に建つ教会、ヴァルファーツ教会(Wallfahrtskirche)。高い(=hohen)山(=Berg)と名の付くほどには厳しい道のりではありませんが、やはり上り道が続きます。途中には、巡礼者を励ますようにこんな銅像が建てられていました。
丘の上に建つヴァルファーツ教会の前には、ようやくここへたどり着いたことに言葉を失ったような、同じく巡礼者の銅像が。
目線の先には教会にすっくと建っているのがヴァルファーツ教会です。
今回はもう少しだけ先に足を伸ばし、ヒュッテン(Hüttenn)、ライヒャーツホーフェン(Reichertshofen)など、いくつかの村を越えた先にあるホーエンシュタット(Hohenstadt)という町で旅を終えることにします。
立派な教会、人が住んでいるのかいないのか、古い大きな邸宅などが立ち並んだ町ですが、人の気配はなく、なんとくさみしいような雰囲気……(日差しがあれば、また違った印象だったのかもしれませんが)。
ドイツのいろいろな表情を見せてくれる巡礼路は、まだまだ先に続きます。
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著者プロフィール:溝口 シュテルツ 真帆
2004 年に講談社入社。編集者として、『FRIDAY』『週刊現代』『おとなの週末』各誌を中心に、食分野のルポルタージュ、コミック、ガイドブックなどの単行本編集に携わる。2014年にミュンヘンにわたり、以降フリーランスとして活動。南ドイツの情報サイト『am Wochenende』を運営中。http://www.am-wochenende.com/