ドイツワインコラム第1回「ドイツのワインって?」
「どうしてお前はここで働いてるんだ?」
ワイン畑で剪定をしている時、不意にポーランド人のトーマスが尋ねてきた。
年に一度季節労働者としてドイツのワイナリーで働く彼は経験もありドイツ語も話せるので6人ほどのポーランド人労働者グループのリーダーでもあった。
「日本にいればこんな畑仕事でなくてももっと稼げる仕事はあるだろう?」
ポーランドで半年以上の収入を三カ月ほどで稼げるため、彼は毎年ドイツにやってくるらしい。
「お金のためじゃないんだよ。」
そう答えた後、嫌な奴だと思われはしまいかと、不安になった。
彼らは少しでも良い暮らしの為、自国の家族の為、決して楽とは言えないこの仕事を選んでいるのだ。
「そうか、なんでも経験を積むのは大事だからな」
彼はにっこりと微笑んで言った。
大学も出てインテリである彼がそれに見合う就職先が自国にはないという。
今回のワイナリーでの仕事が終われば、夢を求めてロンドンへ渡ると言っていた。
「シプコ!シプコ!(さぁ急いで!急いで!)」
ポーランド語ではっぱをかける彼は、自国にいる恋人を“アメルチャ”と言う謎の愛称で呼ぶとても気の良い青年だった。
これは、私が初めてワイナリーで働いた時の思い出の一つ。
トーマス
ダニエル(プフェルザー)と私。(もちろん右がダニエルです)彼は今回登場していませんが後につながります。
東欧と欧州の境界に位置し、数多くの隣国を持つヨーロッパ最大の経済大国であるドイツには、多くの外国人労働者や学生などが集まります。
ワイナリーもその例に漏れず、主に東欧からの季節労働者が多く訪れます。
彼ら季節労働者の中には何十年もの経験があり熟練した働き手も多く高品質ワインの生産を目指すワイナリーにとっても貴重な労働力となっています。
近年、素晴らしいワインを数多く生み出しているドイツではありますが、やはりあの飲み物のイメージが最も強い国であることは否めないでしょう。
アルコール界の巨人ビール。
「Wein auf Bier、das rat` ich dir.Bier auf Wein,lass es sein」
「ビールの後にワイン、これはお勧め。ワインの後にビールはよしたほうが良い」
日本でも「とりあえずビール!」はよくありますね。
ドイツは世界でも有数のビール大国として有名です、実際各地域に地ビールがあり、その美味さは比類なしであります。
ドイツワイン最大のライバルはドイツビールなのかもしれません。いや、ドイツビール自体というより、「ドイツはビールがうまい国」というイメージでしょうか。
上の諺は単純にまずビールを飲んで、その後ワイン飲む方がいいよ(悪酔いしない)という事ですが、ドイツのイメージとしてもまずビールが出てくる方も多いのではないでしょうか?
でも実はドイツはワインも凄いんです。
ドイツはワイン生産国としてはほぼ北限の冷涼な地域に属し、そのワインの約65%が白ワインとなり、その最も代表的なブドウ品種がリースリングです。
リースリングはその豊潤な酸が甘さとの絶妙なバランスを生み出し、日本で流通していたドイツワインの多くが甘口のリースリングであったためリースリング=甘口というイメージが根強いようですが、近年はそのほとんどが高品質で食事に合う辛口ワインとして造られています。
近年温暖化の影響もあり、赤ワインの生産量も徐々に伸びてきており、ドイツの代表的な赤ワイン品種シュペートブルグンダー(ピノ・ノワール)を中心にめざましい品質の向上も成し遂げています。
上述のリースリング同様、どうしても甘口のイメージが強いドイツワインですが、現在ドイツワインの約70%が辛口もしくは半辛口です。
多種多様なブドウ品種や地理的要素により、ドイツワインは世界でも屈指の多様性を誇り、同一品種であっても、地域やワイナリーによって全く違う顔を見せます。
ドイツにおけるワイン造りの歴史は古く、現存し何百年も続く歴史あるワイナリーも多くあります。
近年は伝統的な製法により高品質なワインを造り続けるワイナリーと共に伝統的な製法と、新しい技術が融合した革新的なワインを生み出す若い世代も増え、更に多様性を増してきているのもドイツワインの魅力だといえます。
(2017年3月14日投稿)
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著者プロフィール
高瀬亮
双子座 AB型
1998`-2014`在独
ローテンブルグ、ハイデルベルグ、リューデスハイム、マインツに居住。
ドイツにてワイン醸造の国家資格取得。4つのワイン産地5つのワイナリーで修業。
現在神戸にてドイツワイン輸入販売を営みドイツワイン専門ショップであるディ・エアーデのウェブサイトにて販売を行う。随時神戸北野のサロン及び出張でのワイン会を行い、ドイツワインを紹介している。
www.dieerde.net