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経験ゼロからDJ・イベントオーガナイザーに Platinum Porkさん

DJ・イベントオーガナイザーとして活躍するPlatinum Porkさん

経験ゼロからDJ・イベントオーガナイザーに Platinum Porkさん

ベルリンといえばクラブカルチャーを思い浮かべる人も多いはず。その本場で、経験ゼロからDJとして精力的に活動しているのがPlatinum Porkさんです。

単にクラブでDJとしてプレイするだけでなく、自分でパーティーをオーガナイズしたり、日本酒フェスを立ち上げて大成功を収めたりと、活動の場を広げています。

なぜベルリンで音楽の道へ進んだのか、星の数ほどDJがいるベルリンで、経験なしでどうしてそこまで活躍できるようになったのか。

Platinum Porkさんの自宅兼仕事場にお邪魔して、これまでの流れから仕事に対する取り組み方まで、たくさんお話を伺いました。そこから、海外で暮らすためのヒントも見えてきました。


■ベルリンの音楽と自由な空気に引き寄せられて

Platinum Porkさんは東京工業大学大学院で情報工学を学んだ後に、個人事業主として友人と共にシステム開発に従事していました。
しかし、ALS(筋萎縮性側索硬化症)を患った祖母の死をきっかけに「後悔しない人生を送りたい。今できることは今やろう」と思うように。その気持ちから、仕事が一段落したときに2年間かけて世界40ヵ国を渡り歩いたそうです。

その後、ベルリンへ旅行。クラブで出会った音楽に感動し、街に漂うオープンマインドでインターナショナルな空気を感じました。
以前から海外で暮らしたいと考えていたPlatinum Porkさんは、ベルリン旅行以前にシリコンバレーでの起業を試みたこともありましたが、滞在許可取得が難しいことから断念して別の都市を模索していました。そんなときに訪れたベルリンで、海外在住への想いが湧き上がります。

「ベルリンは自由で人が親切だし、物価も安いです。この街なら日本人が挑戦しやすいんじゃないか、経験ゼロのアーティストでも受け入れられるんじゃないかと思いました」

日本での音楽活動経験はゼロ。それでも音楽への思いを抱いて、2014年3月にPlatinum Porkさんはベルリンへやってきました。

仕事場に並ぶ機材

仕事場に並ぶ機材




■人間関係を築き、自分でパーティーを主催

一般的には、クラブカルチャーが盛んなベルリンでいきなりDJを目指すのは無謀に思えるかもしれません。それでもPlatinum Porkさんは2015年11月に、約80人収容のバーでパーティーを主催しました。
既にベルリンで活躍していた日本人DJのSub Human Brosの2人から「仕事には人のつながりや人間性が大切」と教わり、あちこちのパーティーに顔を出して人脈を広げた結果でした。

「初めてプレイした時は、自分の音楽で外国人が踊っているのを見て感動しましたね。人間関係を築けば、友人がパーティーに来てサポートしてくれるようになります。パーティーを主催していると、来てくれている人の動きを学べるようになります」

そして2016年6月にベルリンの人気クラブUrban Spreeで、自身のパーティー”Kids On Wax”を初めて主催して300人以上が来場。その成功が、その後8・9・11月と1年間で4回ものパーティーを開く結果に結びつきました。

■人生賭けた酒フェスが大成功

Urban Spreeには庭があり、夏はビアガーデンになります。ベルリンの夏は空気がカラッとしていて適度な気温で、夜も9時頃まで明るいのです。ですから夏はオープンエアーのイベントが盛んです。

「夏はみんな夜10時頃まで外でビールを飲んでいて、その後でパーティーへ流れ込むパターンが多いんです。なのでパーティーが盛り上がる早目の時間帯に、クラブで何かイベントをやったらいいと思っていました」

そう考えていたPlatinum Porkさんの頭に浮かんだのが「サケ」。そう、日本酒です。
それまで何回かたこ焼きホームパーティーをしていたときに、ゲストに日本酒を振る舞ったところ大好評だったことから、「酒イベントは受け入れられるのでは」と思っていたそうです。

そこでUrban Spreeに酒イベントを提案し、”Japanese Sake Festival”として実現したのが2017年1月。会場にはPlatinum Porkさんが試飲して選んだ日本酒、焼き鳥やおでん、お好み焼き、コロッケなどの日本のソウルフードや日本人アーティスト作品のブースが並びました。
まったく初めてのイベントだったにもかかわらず、フタを開けてみたら予想を遥かに上回る約2,700人が訪れ、ドイツのテレビ局からも取材されるという大成功。「サケ」に特化したことと、わかりやすいネーミングが成功の要因だったのではないかと考えているそうです。

「本当に大勢の人がこの酒フェスに関わっていたので、自分の中では人生を賭けた大勝負でした。プレッシャーはありましたが、結果を見て、楽しければ人は集まってくるのだとわかりました」

大盛況だったJapanese Sake Festival

大盛況だったJapanese Sake Festival



Platinum Porkさんの選んだ、ドイツではなかなか飲めない日本酒が勢揃い

Platinum Porkさんの選んだ、ドイツではなかなか飲めない日本酒が勢揃い



寒い1月の開催だったので、熱燗も登場

寒い1月の開催だったので、熱燗も登場




■音楽と酒の相乗効果をさらに追求

”Japanese Sake Festival”の大成功を受け、今後はロンドンやニューヨークでも酒フェスを開きたいと話すPlatinum Porkさん。
さらに「酒革命」と題し、日本酒をヨーロッパにもっと浸透させるための活動をしていく予定です。
「それにはヨーロッパで日本酒を飲める機会がもっと増えないと。現在の流通の流れを変えてコストを下げ、大量のロットを仕入れることで、誰もが気軽に飲めるようになってほしいです。あとは酒の情報伝達手段を変えたいですね。例えばSNSをもっと利用することを考えています」
と、日本酒ビジネスのアイディアが次々と湧き出ているところ。それを着実に実行に移しています。

もちろん、酒フェスはDJ活動とつながっているもの。
「Japanese Sake Festivalが有名になることでパーティーに来てくれる人も増えます。音楽と酒で相乗効果があるわけですよね。これからもその2つを組み合わせたフェスを進めていきますが、音楽だけ、または酒だけを楽しんで帰ったっていいんです。酒を取り込むことで、これまでの音楽単体フェスよりも来場者の年代も広がると思います。老若男女誰もが思い思いに楽しんでほしいですね」

私は今回Platinum Porkさんにインタビューする前に、「経験なしでいきなりDJを志して、どうしてここまで成功するんだろう」と不思議に思っていました。
でもお話をうかがっているうちに、その秘密がわかりました。Platinum Porkさんはただ単にDJのオファーを待っているのではなく、パーティーを主催したり酒フェスを提案して、仕事の場を自ら作り出す人だったのです。
こうした考え方は、特に海外で暮らすには大きな力になります。

「みんなが楽しめるフェスを常に考え続けていますね。スピード感が求められるのでプレッシャーにはなりますが、後悔しない人生を送りたいですから」


文・写真/ベルリン在住ライター 久保田由希
2002年よりベルリン在住。ドイツ・ベルリンのライフスタイル分野に関する著書多数。主な著書に『ベルリンの大人の部屋』(辰巳出版)、『ベルリンのカフェスタイル』(河出書房新社)、『レトロミックス・ライフ』(グラフィック社)、『歩いてまわる小さなベルリン』(大和書房)、『かわいいドイツに、会いに行く』(清流出版)、『きらめくドイツ クリスマスマーケットの旅』(マイナビ出版)など。
http://www.kubomaga.com/

久保田 由希

東京都出身。小学6年生のとき、父親の仕事の関係で1年間だけルール地方のボーフムに滞在。ドイツ語がまったくできないにもかかわらず現地の学校に通い、カルチャーショックを受け帰国。大学卒業後、出版社で編集の仕事をしたのち、フリーライターとなる。ただ単に住んでみたいと、2002年にベルリンへ渡り、そのまま在住。書籍や雑誌を通じて、日本にベルリン・ドイツの魅力を伝えている。『ベルリンの大人の部屋』(辰巳出版)、『歩いてまわる小さなベルリン』『心がラクになる ドイツのシンプル家事』(大和書房)、『かわいいドイツに、会いに行く』(清流出版)、『きらめくドイツ クリスマスマーケットの旅』(マイナビ出版)ほか著書多数。新刊『ドイツ人が教えてくれたストレスを溜めない生き方』(産業編集センター)。散歩、写真、ビールが大好き。

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久保田 由希