第25回 ドイツでいただく鯉の味、ダチョウの味
みなさんこんにちは! ミュンヘンで編集者をしている溝口シュテルツ真帆です。今ブログでは、ドイツのサンディアゴ巡礼路を行く旅の様子をお届けしています。
私が現在たどっているのは、フレンキッシュ・シュヴェービッシャー・ヤコブスヴェーク(Fränkisch-Schwäbischer Jakobsweg)。ヴュルツブルクから中世の街並みが残ることで有名なローテンブルク・オプ・デア・タウバーを通り、ウルムに南下する約270kmのサンティアゴ巡礼路です。
今回は、バイエルン州のローテンブルクから南下し州境を越え、バーデン=ヴュルテンベルク州の街クライルスハイム(Crailsheim)へと至る、約50kmの道のりをご紹介します。
ローテンブルクを出発すると、まずは川沿いの道が続きます。この小川はシャンタウバー川というタウバー川の支流。タウバーといえば、「ローテンブルク・オプ・デア・タウバー」=「タウバー川を望むローテンブルク」と街の名前にもなるほど。どれほど滔々と流れる大河かと思えば、こちらのシャンタウバー川も、本流のタウバー川もささやかな川でやや拍子抜け?
途中には可愛いロバが2匹! カメラをかまえるとトコトコとそばへ寄ってきて、背中を触らせてくれました。ちょっとかじかんだ手に、ロバの背中はほかほかと暖か。
さて、ここから8km先の町、ベッテンフェルト(Bettenfeld)では、さっそくのランチを。「フランケンテラー(Frankenteller)」は、豚肩肉のローストと自家製ソーセージに、ザワークラウトとクネーデルが添えられたボリューム満点のひと皿。豚肩肉のローストは、メニューには「シュヴァイネショイフェレ(Schweineschäufele)」と南ドイツ風の呼び名で記されていました。食べ終わった際に残る骨が、まるでシャベル(Schaufel)のような形状なことからそう呼ばれているそうです。
もうひと皿ご紹介したいのは、日替わりメニューのなんと「鯉」のフライ! ときはまもなくのファッシング(カーニバル)、そして断食期を経ての復活祭。断食といってもドイツでは肉やお酒を控える程度に行われており、このあたりでも断食期には魚、とりわけ鯉を食べる習慣があるようです(クリスマスや大晦日に食べる習慣もあるそうですね)。厚めの衣をまといからりと揚がった鯉に、ぎゅっとレモンを絞ってタルタルソースとともにいただけば……うん、美味しい! 鯉への先入観がなくなりそうな一品でした。
次に訪れたのはハウゼン・アム・バッハ(Hausen am Bach)という、足を止めることなく通り過ぎてしまいそうな小さな町……と思っていたら見かけた「Straußenfarm」、「ダチョウ牧場」の看板! 好奇心を抑えられずに入り込んでみると、いました! ちょっと臆病そうに、首をのばしたり引っ込めたり、コミカルな動きに思わず笑いが漏れます。
オーナーのおじさんがやってきて、「15年前までベジタリアンだったのに、ダチョウの肉の美味しさに開眼してベジタリアンをやめ(!)、牧場まで開いてしまった」「鳥インフルエンザが流行っていて、ダチョウたちを3月中旬まで小屋から出すことを禁じられている」など、いろいろ気さくに話してくれました(ダチョウのステーキを食べたことがある知人によると、柔らかく、とても美味しい。ひょっとすると牛を超えるかも、とのコメント)。
この牧場では、ダチョウの肉やソーセージ、卵の殻や皮、羽で作った小物を購入することも可能。珍しいダチョウ肉、ぜひとも試してみたいと思いつつも、お腹はぱんぱんのうえ旅の身。後ろ髪を引かれながらこの小さな町をあとにしました。
ロイバッハ(Reubach)、シャインバッハ(Schainbach)、ヴァルハウゼン(Wallhausen)といった小さな町を通り過ぎて、先へ進みます。冷たさがずいぶんとゆるんだ風に、春の気配を感じます。
次の町、ブレスヴァーゲン(Buleswagen)へ向かう途中、田園地帯のど真ん中になにやら巨大で奇妙な物体を発見。近寄ってみれば、どうやら何かの遺跡のよう……。
打ち付けられていた説明書きによると、1403年当時の修道院の壁の一部だとのこと。前身は14世紀の礼拝堂で、18世紀までは崩壊と再建を繰り返してきたが、以降はそのまま、この壁の一部のみが残されたようです。哀愁をさそう姿に思わず立ちすくんでしまいました。
さて、この日の目的地、クライスルハイムに到着! 小規模ながら、暮らしやすそうなよい街です。ここからの道のりは、また次回、お届けします。
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著者プロフィール:溝口 シュテルツ 真帆
2004 年に講談社入社。編集者として、『FRIDAY』『週刊現代』『おとなの週末』各誌を中心に、食分野のルポルタージュ、コミック、ガイドブックなどの単行本編集に携わる。2014年にミュンヘンにわたり、以降フリーランスとして活動。南ドイツの情報サイト『am Wochenende』を運営中。http://www.am-wochenende.com/