第24回 ときはクリスマス、再びのローテンブルクへ
こんにちは。ミュンヘンでフリーランスの編集者をしている溝口シュテルツ真帆です。今ブログでは、ドイツのサンディアゴ巡礼路をたどる旅の様子をお届けしています。
私が現在歩いているのは、フレンキッシュ・シュヴェービッシャー・ヤコブスヴェーク(Fränkisch-Schwäbischer Jakobsweg)。ヴュルツブルクから中世の街並みが残ることで有名なローテンブルク・オプ・デア・タウバー(Rothenburg ob der Tauber)を通り、ウルムに南下する約270kmのサンティアゴ巡礼路です。
前回の探訪時、涙を呑んでギブアップした「ローテンブルクへ至る最後の数キロ」に、ようやくリベンジする機会がやってきました。日本から旅行に来た知人をローテンブルクに案内するかたわら、街に着いたところで別行動をさせてもらい、彼らは市街観光へ、私は巡礼路へ、という計画です。
ミュンヘンからローテンブルクへの鉄道での道のりは、同じバイエルン州内とはいえ、乗り換えが2~3回、かかる時間も2時間半~3時間半とけっこう厄介。各旅行会社からバスツアーが企画されているのでそれを利用する手もありますが、車窓を楽しめ、時間も自由になる鉄道がやはり気分。私たちは現地での時間がたっぷりとれるようにICE(高速鉄道)を利用しましたが、ローカル線をたどっていけば、ぐんとリーズナブルに到着することができます。
ということで、再度ローテンブルクに到着! ローテンブルクといえばかならず紹介されている「プレーンライン(Plönlein)」と呼ばれるフォトジェニックなこの場所には、今日もたくさんの人が。
「ヨッ、巡礼者!」なんて笑い交じりの同行者の声に送られながら、私はさっそく街をぐるりと取り囲む城壁を抜けて、前回ギブアップしたポイントへ。
当たり前ですが、観光客がひしめく城壁内から一歩外にでれば、ごく普通の住宅街が広がっていて、私たちが知っているローテンブルクとはまた顔を見せます。
しばらく行くと、住宅が途切れて景色がひらけました。車一台通らない、さみしい冬の牧草地ですが、私はやはりこんな景色のほうが心惹かれてしまいます。
小一時間ほどゆっくりと歩きながらしばし静けさを楽しんだら、さあ、体も冷えてきたので再び街へ戻ります。
ちょうどお昼時、12時の鐘が鳴り響くローテンブルクへ入ると、どこからかふわりと甘い香りが。それをたどっていくと、教会のわきで開かれていたささやかなクリスマスマーケットに出くわしました。
そう、ときはクリスマスシーズンまっただなか。ドイツ中が可愛らしく飾られて、人々の表情も(プレゼントの買い物に追われながらも……)どこか優しくなる、そんな季節です。マーケットで温かいものを飲みたくなるのをこらえて、まずはその「聖ヤコプ教会」へ。
聖ヤコブ(ヤコプ)とは、イエス・キリストの使徒のひとりで、さかのぼること9世紀に、スペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラにてその遺体が見つかり、大聖堂に安置されているとされています(だから巡礼者たちは一路その聖地を目指すわけですね)。巡礼路を歩かせてもらっている者として、そのヤコブを祀った教会を素通りするわけにはいきません。
教会の前には旅姿の聖ヤコブ像が立っていて、おや、立てた人差し指がつやつやと光っています。きっと人々が「私はどこへ向かうべきか教えてください」なんて、祈りをこめてなでていった証でしょうか。
2€を支払って内部に入ると、現在はプロテスタント教徒のために使われているという、比較的簡素な祈りの場が広がっています。上階では、1505年のリーメンシュナイダー作の、イエスがユダの裏切りを予感した場面を現したことで有名な「聖血の祭壇」を見ることができます。
個人的に気に入ったのは、展示されていた「クリスマスボート(Weihnachtsboot)」という黒檀の大きな作品。幼子を抱いたマリアも、それをあがめる人々も、みんなアフリカ人です。ローテンブルクとタンザニアの地域ハイの友好の証として贈られたもののようですが、とても温かみのある作品です。
さて、教会を出て、今度こそクリスマスマーケットへ。マーケットに来たら絶対に欠かせない、スパイスの効いた甘いホットワイン、グリューヴァインを……といきたいところですが、実は妊娠中の私。子供向けのアルコールなしの「キンダープンシュ(Kinderpunsch)」でひと息です。
でもこのキンダープンシュ、レモンやオレンジピール、アニス、シナモンなどのスパイス入りのフルーツミックスジュースで、見た目はほとんどグリューヴァイン。ホットワイン気分でいただけてとっても美味しいので、アルコールの苦手な人にはおすすめです。カップもグリューヴァインと同じもので、デポジット制になっているので、記念に持ち帰るのもよし、です。
さてここからは観光気分。クリスマスの雰囲気いっぱいの街をぶらぶらと散策します。
お腹が空いたところで、ジャガイモ料理が自慢のレストラン『ローテンブルガー・カルトッフェルシュトゥーベ(Rothenburger Kartoffelstube)』でポテトグラタンを。あっつあつのポテトと挽き肉とトマトソースに、たっぷりこんがりチーズ! これが美味しくないわけがありません。ハフハフ。
人が通れるようになっている城壁の上をそぞろ歩いた後は、ぜひ訪れたいと思っていた「中世犯罪博物館(Mittelalterliches Kriminalmuseum)」へ。ドイツ唯一だという、中世の法律と犯罪、その刑罰について豊富に展示してある興味深いミュージアムです。
館内では偶然、同行者とばったり。印象に残ったのはこの屋根の不気味な目(?)と、特殊なスピーカーを使用しているのか、途中頭上から耳元にささやかれるように聞こえた女性のナレーション!(あまりにリアルで同行者が悲鳴をあげていました)
さあ、ローテンブルク探訪もそろそろ終わり。ミュンヘンに戻る列車の時間が迫っています。
ところで、私の知る限り、日本人の密度がドイツ中で一番高いのはこの町かもしれません。至るところで見かけた若い日本人の女の子たちのはしゃぎ声に、懐かしい気持ちに。日本語で書かれた説明書きなども多く見受けられました。なんとも可愛く、中世の面影がしっかり保存されたローテンブルク。一度は訪れる価値のある場所です。
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著者プロフィール:溝口 シュテルツ 真帆
2004 年に講談社入社。編集者として、『FRIDAY』『週刊現代』『おとなの週末』各誌を中心に、食分野のルポルタージュ、コミック、ガイドブックなどの単行本編集に携わる。2014年にミュンヘンにわたり、以降フリーランスとして活動。南ドイツの情報サイト『am Wochenende』を運営中。http://www.am-wochenende.com/