モノの博物館(Museum der Dinge)Berlin/Kreuzberg
デザインファンの皆様、こんにちは。
今回の記事では、ドイツデザインの歴史を記録するという点で非常に重要な役割を果たしているけれども、おそらくそれほど有名ではない、とある博物館について書いてみたいと思います。ベルリンのクロイツベルク区、オラニエン通り55番にある Museum der Dinge(モノの博物館)です。
この博物館は、西ドイツ、東ドイツ、そして東西ドイツのデザインの歴史を知る上でまさに宝の宝庫です。館内のどこを歩いても、興味深く、突飛で、キッチュで、そして素晴らしいデザインに出会うことができます。その数、約50000点!
この博物館を経営しているWerkbundarchiv(ヴェルクブントアーチーフ)の起源は1907から1908年にミュンヘンで設立されたDeutschen Werkbund(ドイチェン・ヴェルクブント=ドイツ工作連盟、略してDWB)まで遡ります。12名の芸術家と12の企業によって設立されたこの団体は、その一年後には工業界、工芸界、芸術界などから565もの参加者を擁するまでになりました。
1913年、ドイツ工作連盟は初めての年鑑を発表します。この団体は『良い造形』というものを教え広めることを課題としていました。ドイツ国民に『良い造形』と『悪い造形』の違いを理解させること、デザイン教育をサポートし造形に対する洗練されたセンスを根付かせること、そしてそれによってドイツ国民の生活の質を向上させようという狙いがありました。
1919年には、デザインの歴史ではもはや伝説でもあるヴァルター・グロピウスやブルーノ・タウトがDWBの代表となりました。この年、グロピウスはワイマールにバウハウスを設立しています。この時から、 ドイツの造形は装飾的なものから、明確なラインと削ぎ落とされ整理されたフォームを持つものへと急速に変化していきます。建築家ブルーノ・タウトは日本でも有名ですね。日本にも数年間滞在して研究を続け、そこでも偉大な 功績を残しました。このことについては、いつかここで書いてみたいと思っています。話を元に戻しましょう。この博物館では、様々な対比を見ることができます。キッチュなデザイン、 装飾過剰なデザインに対する、質素なデザイン。有名なモノと無名なモノ、オリジナル製品とコピー品、カラフルとモノトーン、西ドイツ製品と東ドイツ製品……などです。
ドイツのデザインの歴史中の特別なテーマを扱った展示ケースもあります。日本でも有名なドイツ企業Braunでデザイン部門の主任者ディーター・ラムズが手がけた比類なき製品たちや、戦後の何もなかった時代に武器や軍隊の装備などから作りかえられた『間に合わせの日用品』なども見ることができます。イギリス人E. E. Williamsの著作『Made in Germany』 (1896年)も展示されています。少し解説しておきますと、Made in Germanyという言葉は、安価で質の悪い製品を生産していた当時の敵国ドイツを揶揄するためにWilliamsが作った造語なのです。もちろん現在では、全く逆の意味で使われています。
個人的に興味深かったのは、『良いデザイン』を詰め込んだ学習用スーツケースです。DWBは50年代から60年代にかけて、このスーツケースを各学校へと持ち込み、子供達に良いデザインと悪いデザインの違いを説明しようとしたのです。
ベルリンへお越しの際は、是非このMuseum der Dingeを訪れてみてください。クロイツベルク区の地理的な中心であり、また文化的な中心でもあるオラニエン通りにあります。見て回るだけでも非常に楽しい博物館ですよ。