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第17回 働きものの小石と禁じられた民族舞踊

先を歩く夫の背中も、見慣れた風景のひとつ。

第17回 働きものの小石と禁じられた民族舞踊

ミュンヘン市内から南西のボーデン湖までのサンティアゴ巡礼路、ミュンヒナー・ヤコブスヴェーク(参考:Münchner Jakobsweg)270kmを歩く旅も、今日と明日を残すのみ。起き出してみると、足はずいぶんと軽くなっています。四国お遍路やスペインのサンティアゴ巡礼でも経験済みでしたが、足のつらさは歩き出して3、4日目あたりが最大。どうやらピークは越えたようです。

 

 

 

 

宿の老婦人が手早く準備してくれた朝食を見てびっくり! 何種類ものパン、ハム、チーズ。オレンジジュースに熱いコーヒーまでついています。

うれしくなってしまうような充実の朝食! 歩く前の大切な栄養補給です。

うれしくなってしまうような充実の朝食! 歩く前の大切な栄養補給です。



清潔なベッドとバスタブ付きのバスルーム、そしてこの朝食でひとり19ユーロとは、なんとも良心的です。

 

老婦人に別れを告げ、ここヴァイトナウ(Weitnau)の町の小高い丘の上に建つ教会へ。内部は少し東洋風の趣もある、美しい教会です。尼僧がひとり深く祈りをささげていたので、見物はそこそこに、静かに後にしました。

聖ペラギウス教会。現在の姿になったのは1440年のこととか。

聖ペラギウス教会。現在の姿になったのは1440年のこととか。



 

歩き出すとすぐに田舎道、そして山道へと入っていきます。山中にはところどころアスレチックが設置されていて、巡礼中でなければ飛び乗りたいところ……なんて注意散漫になったところでつり橋でバランスを崩してあわや転倒!

この写真を撮ったあとにバランスを崩し……幸いウェアが汚れただけですみました。

この写真を撮った直後にバランスを崩し……幸いウェアが汚れただけですみました。



 

■ 禁止されてしまった「シュー・プラットラー」

小さな村をいくつも通り過ぎるものの、立ち並ぶのは別荘か農家だけ。立ち寄れるようなレストランやカフェは皆無のため、途中、バス停に腰かけて宿から包んできた朝食の残りでランチ。空腹をなんとか満たします。

途中、こんなものを発見。なにかわかるでしょうか?

冬のドイツには欠かせないものです。

冬のドイツには欠かせないもの。



冬にドイツを訪れたことのある人なら知っているかもしれませんが、雪が降ると、滑り止めのために小石が道一面にまかれるのです。それがなかなか効果的で、氷点下の朝でも転倒してしまうような人はほとんど見かけません。通常は専用の車両が小石をまいていき、雪や氷が解けるとまた回収していくのですが、車両が間に合わないときにはこの箱からつかみ取った小石を人力でまいているようです。

 

さらに発見したのは、「シュー・プラットラー禁止(Schuplattler Verbot)」と書かれた看板。シュー・プラットラーとは、手と靴を打ち鳴らすバイエルンの一部や南チロル地方の伝統的なダンスです。



ミュンヘンでは踊られることのないダンスですが、「南ドイツ=シュー・プラットラー」のイメージがある人も多いらしく、「踊ってよ」と言われて困る夫を見たのは一度や二度ではありません。そのため、その期待に応えたい(?)他の地方の若者がシュー・プラットラーを練習するケースもあるようですが、この看板はそれを良しとしない反対派によるものでしょう。「よそ者のダンスを踊るんじゃない!」なんて、このあたりの頑固親父の顔が浮かびます。それにしてもパチパチと叩かれる太ももが痛そうです……。

 

■ 今夜の巡礼宿は……

ジンマーベルク(Simmerberg)という街が近づいてきたあたりで、おや? 家々の雰囲気ががらりと変わりました。これまでは素朴で力強い様子だった建物が、瀟洒とでも言いたいようなものに変わってきました。点で行く観光旅行も素敵ですが、こうやって線でたどる旅をしていると、こういった地域の変化を目の当たりにします。徒歩の旅の醍醐味のひとつだと私は思っています。

山から水辺へと近づいてきたせいでしょうか。上品で凝った装飾の家々が増えてきました。

山間部から湖畔へと近づいてきたせいでしょうか。上品で凝った装飾の家々が増えてきました。



とくに心奪われたのは、外壁の細かい木細工。まるで魚のうろこのように家を守り、風雨にさらされて暦年変化したものも味わい深い素敵さ。いつか家を持つようなことがあればこのスタイルにしたい! なんて夫に言ってみても「ええ~、高いんじゃない?」なんてひと言……。

うろこのような丸みのあるものと、四角いもの、両方が見られました。

うろこのような丸みのあるものと、四角いもの、両方が見られました。



 

たっぷり30km近くは歩いたはずですが、まだまだ余力を残して今夜の宿である一軒家に到着。反応がないチャイムの前で立ち尽くしていると、向こうのほうから90は超えているであろうおばあさんがゆっくりゆっくりやって来ました。まさかと思えば、この宿の女性主人。懇切丁寧に、部屋の設備のこと、朝食のことなどを説明してくれました。

2階の一部屋をあてがわれ、使いにくいシャワーに四苦八苦しながらもほっとひと息。歩いていける距離にイタリアンレストランしかなかったため、そこでピザの夕食。暮れ行く町をぶらぶらと抜けて帰りながら、さすがに疲れて頭はもう半分寝たような状態です。

この日はヴァイラー(Weiler)という町に宿泊。

この日はヴァイラー(Weiler)という町に宿泊。小さいけれど、居心地のいいベッドです。



 

さあ、次回はミュンヒナー・ヤコブスヴェークの最終日、一路ボーデン湖へ!

 

 

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巡礼中の私と夫著者プロフィール:溝口 シュテルツ 真帆(……と旅の相棒の夫)

2004 年に講談社入社。編集者として、週刊誌、グルメ誌を中心に、食分野のルポルタージュ、コミック、ガイドブックなどの単行本編集に携わる。2014年にミュンヘンにわたり、以降フリーランスとして活動。著書に『ドイツ夫は牛丼屋の夢を見る』(講談社)。南ドイツの情報サイト『am Wochenende』を運営中。http://www.am-wochenende.com/

溝口 シュテルツ 真帆

2004年に講談社入社。編集者として、『FRIDAY』『週刊現代』『おとなの週末』各誌を中心に、食分野のルポルタージュ、コミック、ガイドブックなどの単行本編集に携わる。
2014年にミュンヘンにわたり、以降フリーランスとして活動。『おとなの週末』公式ウェブサイトでコラムを連載。南ドイツの情報サイト『Am Wochenende』を運営。徒歩で行く旅に魅せられ、四国遍路、サンティアゴ巡礼を踏破する。次なる地をドイツに設定し、今ブログで発信中。

Blog : http://www.am-wochenende.com

溝口 シュテルツ 真帆