東日本大震災から、そして福島第一原発事故から5年。
もう5年、まだ5年? ドイツの脱原発宣言から、5年でもあります。
ドイツ国内には現在17基の原子力発電所があり、そのうち9基が停止しています。
実は旧東ドイツにも、2つの原子力発電所がありました。
1970年までには20の原子力発電所を作る!と目標を立てていたのですが、幸か不幸か完成したのは2基のみ、
東ドイツ最大の原発となるはずだったシュテンダールは、工事半ばでベルリンの壁が崩壊し、完成を見ずに解体が進んでいます。
1990年以降、DDR時代の原発では廃炉作業が進んでいます。
そのひとつラインスベルク原子力発電所を見学に行きました。
ベルリンから100kmほど離れた自然保護地区のどまんなか、美しい湖に囲まれた場所にこの原発はあります。
ラインスベルク原子力発電所は、1966年、西ドイツに先駆けて完成したドイツ初の原子力発電所。
10マルク札にも描かれているほどで、DDRの人たちがこの原発をいかに誇りに思っていたかがよくわかります。
その発電量は70メガワット、ポツダム市がなんとかカバーできるくらいの小型だそう。
耐久年数は20年とされていたのですが、1986年に電力が足りなかった東ドイツ政府は5年間の延長を決めました……が、ベルリンの壁が崩壊。
1990年、ドイツ連邦共和国の原子力法の安全基準を満たすためには巨額の再整備が必要との結論が出され、
廃炉が決まりました。現在も、作業が続いています。
ガイドをしてくれたヨルグ・メラーさんはラインスベルク出身。1976年からこの原子力発電所で働いています。
お父さんもここで働いていたそう。
「ラインズベルク中心部の人口が5000人くらいでそのうち500人はこの原発で働いていた。
ベルリンの壁が倒れて、廃炉が決まって、仕事が無くなった……と思ったら逆だったよ。
1990年からが、本当の仕事のスタートだったんだ。」
ドイツでは原子力発電所を所有する電力会社は、解体廃炉処分などの作業にかかる費用については自己負担しなければいけないそうですが、ラインズベルクの場合は母体の会社どころか国自体が倒れ、しかも解体作業は手探り状態。
技術者、学者たちを募り、ひとつひとつの問題を解決するため機械を開発するところから、
その機械を作ってくれる会社を探すところからやらなければいけなかったそうです。
すごいなあと思うのは、ここで彼らが解体、廃炉のノウハウを生かす会社として再生したということでした。
(現在は、連邦予算からの寄付金で成り立っているそうです)
いまでは、もうひとつの東ドイツ時代の原発、グライフスヴァルト(現在保管場所にもなっている)などドイツ国内の廃炉の請負だけでなく、ロシアのムルマンスク港でソ連時代の原子力潜水艦の解体も担当しているとか。
大量に出る汚染水を蒸発させ、最終的に体積を減らすという技術は自慢のようで、
日本でも応用できるのではないか?と言われました。
見学に同行していたのは、ベルリンに拠点を置く電力会社Vattenfallの人たちで、
私は彼らとメラーさんが盛り上がる専門技術話に全くついていけず……
東ドイツ60年代建築にばかり気を取られていた部分もあるのですが、
しかし、とにかく廃炉という作業が気の遠くなるような時間と労力とお金が必要だということは、痛いほど伝わってきました。
「作業が完全に終わるのは、2025年かなあ。ここで作られた電力での儲けから考えたら、廃炉にかかった金額のほうが多いし、大変な労力がかかってる」とメラーさん。
そんな大変な廃炉作業を目の当たりにしているメラーさん、
やはり「もう原発要らない」って思ってるでしょ?と聞いてみたら……そうでもなかったです。
「メルケル首相は一晩にして、脱原発を決めたよね。ほんと一晩にして。
そしていまは環境破壊だ、二酸化炭素排出量が多いからって褐炭の火力発電は駄目だという流れになってきている。でも、そういっても皆、コンセントをつなげば電気が流れてこないと嫌だって言うんだ。
まずは使う電力を減らしてほしいよね」
もちろん、彼の言葉に異論はないわけではありませんが、
でも自分もエコとかいいつつ電気じゃんじゃん使ってるもんな……まずは少しでも省エネを考えないとなあ…
最寄り駅までの2時間のサイクリングに息を切らせながら、色々なことを考えた一日でした。
ラインスベルク原子力発電所は、14歳以上は誰でも無料で見学が可能です。
夏場は定期的に見学ツアーが行われています。
河内秀子(かわちひでこ)
東京都出身。2000年からベルリン在住。
ベルリン美術大学在学中からライターとして活動。雑誌『Pen』ウェブマガジン『think the earth』などでもベルリンやドイツの情報を発信しています。趣味は漫画とカフェ巡り、この時期は各地のクリスマスマーケット巡り!Twitter(@berlinbau)で『一日一独』ドイツの風景を1日1枚、アップしています。
著者紹介
河内 秀子
東京都出身。2000年からベルリン在住。2003年、ベルリン美術大学在学中からライター、コーディネーターとして活動。雑誌『Pen』『derdiedas 』などでもベルリンやドイツの情報を発信させて頂いています。趣味は漫画と東ドイツとフォークが刺さったケーキの写真収集、食べ歩き。蚤の市やマンホール、コンクリ建築も大好物。Twitterで『#日々是独日』ドイツの風景を1日1枚、アップしています。@berlinbau