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第10回 疲れを癒すは大人味のシュニッツェル

第10回 疲れを癒すは大人味のシュニッツェル

前々回前回とバーデン・ヴュルテンベルク州、シュトゥットガルト近郊を歩きましたが、今日は再び、ミュンヒナー・ヤコブスヴェーク(参考:Münchner Jakobsweg)、第7回の続きに戻ってきました。

朝10時半、アマー湖(Ammersee)の西岸に位置するディーセン(Dießen)という小さな町を出発。本日も快晴(もっとも、天気予報でよい天気の日を選んで歩いているので当たり前なのですが)! まず目指すのは、小高い丘の上に建つマリエン大聖堂Marienmünster)。大聖堂(Münster)と名はついていますが、土地の人々に愛されてきたのであろう、比較的小体で上品な教会です。

この道を歩いているからにはこちら、聖ヤコブ(St.Jakob)さんにご挨拶しないわけにはいきません。きちんと(?)旅姿をして、旅人の印であるホタテの貝殻も身に着けています。

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杖の先についているのはひょうたん。こちらも旅人の印です。



足元にはけっこうグロテスクなミイラが横たわっています。「B.RAT.HARDUS」と刻まれていた名を後で調べてみれば、教会への寄進者だそうです。死後も教会のなかで眠りたいと願ったのでしょう。そう思うとちょっと幸せそうな寝顔にも見えなくもありません。

 

■目の病気に効く? 伝説の泉

またしても道しるべを見失って30分ほども住宅街をさまよった後、ようやく正しい道を発見。道は森へと続いていきます。

アップダウンのある道を軽く息を切らしながら進むと、前方になにやらにぎやかな家族連れが。小さな祠のなかに水が湧いていて、その水をかわるがわる飲んでいるようです。

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水を飲もうと手を伸ばす子ども。でも、君にはまだ必要ないかも?



12世紀にこの地で多くの人々を助けたメヒトヒルドという女子修道院長にあやかって「メヒドヒルドの泉」と名のつけられたこの泉、説明書きを読めば、なにやらとくに目の病気によいと書かれています。ど近眼の私もさっそくひと口、そしてまぶたの上にもひとしずくづつ……。水は少し苔のにおいがしました。

 

■サンティアゴ・デ・コンポステーラまで2605km

さて、延々と続く道をひたすら歩きます。同じ片田舎の道なのに、前回までのバーデン・ヴュルテンベルクとはどこか雰囲気が違います。こちらのバイエルンの道のほうが、より田舎っぽいというか、土臭いというか。家々も素朴で古びた感じです。

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一度くらいは雪道を歩くかなあと思っていましたが、どうやら今季はなさそうです。



バイエルンの法律はほかのどの州よりも「歴史ある景観を守る」ことに厳しいと聞いたことがあります。古いもの、昔ながらのものを守ろうとしてきた人々の努力が、この土地独特の素朴さとなって感じられるのかもしれません。

時間は12時半、ちょっと疲れてきたのでこのあたりで少し休憩。といっても延々と続く田舎道ではカフェなどあるはずもなく、そのあたりの道端に腰かけて水筒のお茶を飲むだけ。目の前には、モグラたちが作ったのであろう、土の小山がぽこぽこと。のどかです。

しかし今日は、なんともしんどい1本道が延々と続きます。

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濡れた道が太陽に照らされてまぶしい。目を細めながら行きます。



そろそろ目的地の町が見えてくるかと期待して丘を越えたら、こんな景色だったりして……。

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好きで歩いているはずなのに、自分を呪いたくなる瞬間です。



挙句に「Santiago 2605km」、サンティアゴ・デ・コンポステーラまで2605kmなんて標識を見かけ、どっと疲れに襲われます。

ひとり頭のなかでぼやきながらもようやく到着したのはヴェッソブルンWessobrunn)。立派な修道院が中心に建つ、静かな町です。

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ファッシング(Fasching)の休暇中だったせいでしょうか、人けはありませんでした。



 

■西洋ワサビ香る、大人味の豚のカツレツ

今日はなんともくたびれる道のりだったので、ご褒美(?)がわりにがっつりとお肉が食べたい! と目についたガストハウスに入り、注文したのは「ミュンヒナー・シュニッツェルMünchner Schnitzel)」。南ドイツではおなじみの、優しい酸味のあるさっぱりとしたポテトサラダ沿えです。

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『Gasthof zur Post』でいただいたミュンヒナー・シュニッツェル(9.4€)。



シュニッツェルはいわば「カツレツ」のこと。ウィーンで食べられる巨大な子牛のカツレツ、「ヴィーナー・シュニッツェル(Wiener Schnitzel)」を知る人も多いのではないでしょうか。一方、この「ミュンヘン風」の豚のカツレツは、肉にたっぷりとホースラディッシュ(西洋ワサビ)を塗って揚げてあり、ツンとした香りと辛みがきいた大人味です。肉はたたいて薄く伸ばしてあるので、見た目よりは軽く、ぺろっと食べられてしまいます。

ガストハウスの前には樹齢300年を超えるという菩提樹が生えていました。

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ヴェッソブルンの人々の暮らしを長く見守ってきた菩提樹。



 

【追記】この後、最寄り駅に向かおうと最終バスを待っていたら、なんと、該当のバスは時刻3分前(!)に停留所を高速で素通り! 音楽を聞きながら上機嫌だった運転手のシルエットが目に焼き付いています……。幸いほどなくしてタクシーをつかまえられましたが、なんとも腹立たしい出来事。ドイツではたまにこんなことも起こります。みなさまどうぞお気をつけて。

 

_MG_7332著者プロフィール:溝口 シュテルツ 真帆

2004 年に講談社入社。編集者として、『FRIDAY』『週刊現代』『おとなの週末』各誌を中心に、食分野のルポルタージュ、コミック、ガイドブックなどの単行 本編集に携わる。2014年にミュンヘンにわたり、以降フリーランスとして活動。南ドイツの情報サイト『am Wochenende』を運営中。http://www.am-wochenende.com/

溝口 シュテルツ 真帆

2004年に講談社入社。編集者として、『FRIDAY』『週刊現代』『おとなの週末』各誌を中心に、食分野のルポルタージュ、コミック、ガイドブックなどの単行本編集に携わる。
2014年にミュンヘンにわたり、以降フリーランスとして活動。『おとなの週末』公式ウェブサイトでコラムを連載。南ドイツの情報サイト『Am Wochenende』を運営。徒歩で行く旅に魅せられ、四国遍路、サンティアゴ巡礼を踏破する。次なる地をドイツに設定し、今ブログで発信中。

Blog : http://www.am-wochenende.com

溝口 シュテルツ 真帆