第7回 花咲く12月のころ、単線沿いの道を歩く
南ドイツのサンティアゴ巡礼路、ミュンヒナー・ヤコブスヴェーク(参考:Münchner Jakobsweg)を歩く旅は、前回に引き続きアマー湖(Ammersee)のほとりからスタートします。
クリスマス前の最後の週末、朝日にまぶしい湖沿いを南下しながら、快調に進みます。今年は異常な暖冬で、今日も12月中旬すぎだというのに、10℃を越えるようなポカポカ日和。個人的にはありがたいですが、ドイツ人たちは気候の変動を心配しつつ、クリスマス気分がちっとも盛り上がらないとぼやいています。
「へっくし!」
そう、この陽気でなんと花粉が飛びだしているようなのです。花粉症持ちの私がシーズンはじめにまず反応するのはヘーゼルナッツ。道沿いには見かけませんでしたが、どこからか飛んできているのでしょう。ベルリンでは桜が開花したなんてニュースもあったようですが、ここでもほら、桃のような木の蕾もふくらんで、一部ほころんでいます。
巡礼路であることを示すホタテ印とともに「Badebetrieb」の文字が。意味するところはbade=入浴する、betrieb=企業・営業、なので、湖水浴場といったところでしょう。北のほうが北海とバルト海に面しているだけ(そしてなにより夏でも冷たい!)のドイツでは、湖での水浴が一般的。夏となればこのあたりは大にぎわいのスポットです。
もちろん12月とあっては散歩やジョギングする地元の人たちと時折すれ違うのみですが……。
1時間ほども歩いてきたところで、線路沿いの道に出ました。今風の「顔」をしているくせに、2車輌しかないイモムシみたいな電車が、単線を時折行き来します。
暖かい暖かいと書き募りましたが、一部にはこんな場所も。日の当たらない場所の水をせきとめてあり、一面に氷が張っています。もう少し氷が厚くなったら、近所の子どもたちのスケート場になるのでしょう。
■湖沿いの静かな町の昼下がり
スタートから13,14km湖沿いを南下してきたところで、ディーセン(Dießen)という小さな町に到着しました。実はここを逃すとあとは50kmほど、交通が非常に不便になってしまうのです。そろそろ冬至のころ、日が昇ったと思ったらあっという間に暮れてくるドイツの冬。すでに太陽は傾きかけています。まだまだ余力はありますが、ここを今日の終着地とすることにしました。
ディーセンは10分も歩けば通りすぎてしまいそうな町ですが、可愛らしいショップやカフェが点在し、対岸から船でやってきた行楽客たちがのんびりと週末を楽しんでいます。
空腹だった私はもちろん可愛いカフェよりもドイツ料理店に!12月にテラスに座れるということに改めて驚きながら、「キノコのクリームソースとゼンメルクネーデル(frische Champignons in Rahm mit Semmelknödl)」を注文。
こぶし大ほどのボリュームたっぷりのクネーデル(Knödel)は、ドイツ料理の付け合わせの代表選手。じゃがいもや、ゼンメルと言われる白パンなどをつぶして生地にして、ハーブなどを加えゆで上げる、いわばドイツの「お団子」です。
クリームソースはコク深く、キノコはしゃきしゃきと歯ごたえよく香りもワイルド。お腹を心地よく満たしてくれました。
■ちなみに……
今回、アマー湖沿いを北上しまた南下するといういわば「遠回り」の正式な巡礼ルートを行きましたが、実はほかの選択肢として、ショートカットバージョンの道も資料には紹介されていました。もしそちらを行っていたならば、こんな景色にお目にかかったはず。
国際宇宙ステーションなど、宇宙との交信を行っているアンテナだそうです。昔ながらの道沿いに、こんなテクノロジーの粋のような施設が建っているのは、なんだかわくわくしませんか?
著者プロフィール:溝口 シュテルツ 真帆
2004 年に講談社入社。編集者として、『FRIDAY』『週刊現代』『おとなの週末』各誌を中心に、食分野のルポルタージュ、コミック、ガイドブックなどの単行 本編集に携わる。2014年にミュンヘンにわたり、以降フリーランスとして活動。南ドイツの情報サイト『am Wochenende』を運営中。http://www.am-wochenende.com/