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同性同士の結婚、書けることのありがたさについて~2015年を振り返って~

同性同士の結婚、書けることのありがたさについて~2015年を振り返って~

早いものでもう少しで今年も終わりだ。

今年2015年もまた色んなことがあったが、最近このコラムでは「恋愛」について書いているので、その観点からさっそく今年を振り返ってみると・・・・

6月にアメリカの最高裁が全州でゲイ同士の結婚を認めたことが印象に残っている。前回は私、「同棲」について書いたが、今回は同性婚について書くなんて、なんだかダジャレみたいではないか^^;

さて、その同性婚だが、こちらの記事に載っている写真!うれしそうにしている人たちを見ると、こちらも嬉しくなってしまう。結婚が恋愛の延長線にあることを考えると、アメリカの全州で同性結婚が認められたのは本当に喜ばしいこと。

さて、ドイツでの状況はどうかというと、ドイツでは現段階において同性婚は認められていない。が、eingetragene Lebenspartnerschaft (和訳:「登録された生活パートナーシップ」)というものを結ぶことができる。ドイツは同性間の「結婚」に関しては確かにアメリカに遅れをとっているが、ドイツの場合、一部にはゲイに対して日本よりも自由な風潮が以前からあった。たとえば昔のベルリンの市長(2001年から2014年までベルリンの市長)のKlaus Wowereit氏はゲイであることを公表していた。もちろんドイツにも保守的な人達はいるので、全員がそれを喜ばしいこととして受け止めていたわけではないのだが、そうはいっても、たとえば日本の市長さんにゲイである事を自ら公表している人がほぼいないことを考えると(たまたまいないだけなのかもしれないが)やはりその点に関してはドイツは自由だなと思う。

ただKlaus Wowereit氏に関しては「ベルリン」の市長さんであった、という点も大きい。ベルリン自体がドイツの中でもかなり自由な雰囲気の街であるということも関係しているかもしれない。

今年2015年は日本でも渋谷区や世田谷区が「パートナーシップ証明書」や「パートナーシップ宣誓書受領証」の発行を始めた。これらの書類によって家の賃貸契約がしやすくなったり、恋人が病気で入院をした際に「パートナー」として面会がしやすくなることを願うばかり。

このように日本でも公の機関がゲイを認める流れになりつつあるが、そうはいっても、日本の場合、欧米ほど「同性のカップル」や「同性婚」を認める「動き」は強くない印象を受ける。その背景には様々な理由があるのだろうが、理由の一つに、日本は欧米ほど「カップル社会」ではない、という点が挙げられる。

アメリカやドイツはぶっちゃけ「カップル社会」(ドイツ語で言うと"Paargesellschaft")である。それは、ドイツで週末にカフェやレストランをのぞいてみれば、すぐにわかることである。ドイツのカフェやレストランにはカップルが多いし、友達の誕生日パーティーにもカップルで駆けつける人が多い。また、大使館のレセプションなど、フォーマルな場であればあるほど、欧米では昔から「カップルでの参加」が当たり前というか、いわば「常識」だったのである。

そういった事情を考えると、ドイツを含む欧米社会においてゲイの人々は「周りの(異性同士の)カップルがパーティーに堂々と参加しているのに対し、ゲイの自分は堂々とパートナーを連れて歩けない」という理不尽さと不自由さを日本よりも感じやすかったのだと想像。

日本の場合、そもそもカップル社会ではない(Japan ist keine "Paargesellschaft".)。身近な例を挙げると、日曜日の銀座のカフェには、ほとんど女性しかいない。いわばカフェ全体が女子会のようなものである。いったい男性はどこに消えてしまったんだろうか・・・?となんだか不思議。なお、フォーマルな場においても、パートナーや配偶者を連れて行けなくても、日本ではそれほど「自分が『カップル』ではなく『一人』で参加している」とミジメな気持ちにさせられる機会が(欧米と比べると)少ない。

日本の場合、会社の忘年会は社員が参加するものであり「配偶者や恋人(パートナー)もどうそ」ということは、ほとんどない。そもそも日本の場合、パーティーであっても、欧米とは違い、同僚同士(男性同士や女性同士)で顔を出すこともあるし、必ずしも「行く先、行く先、どこも『カップル』で行かないと気まずい」と思わされる状況ではないのだ。まあ日本の首相などは夫人同伴で外国訪問などをしているが、この「ファーストレディー」という考え方も、元々欧米のものを日本が受け入れた形だし、はっきり言ってしまうとPaargesellschaft ist etwas Westliches.(カップル社会とは西洋文化圏からきたもの)なのである。

日本的な「カップル文化的ではない生活」(日本では女子同士や男子同士のおでかけも市民権を得ている)をしていると、ゲイの人達もパートナー同伴でフォーマルな場に行けない事を欧米人ほどには苦痛に感じないのかもしれない。(そうは言っても、日本にも会社や親にカミングアウトできないゲイの人達も数多くいるし、彼ら/彼女達の苦悩も大変なものなのだが。)

やはり社会の「雰囲気」なるものを考えると、欧米における「ゲイを認めてほしい」活動の原動力のようなものは「欧米社会がカップル社会であること」と無関係ではない気がするのだ。

COLOURBOX3475292話は変わるが、私は最近「書けることのありがたさ」をつくづく実感している。正確に言うと「自由に書けることのありがたさ」である。このYoung Germanyにおいても、ドイツと日本の様々な違いを書いていく中で、ドイツについてシビアなことを書くこともあるが、とくにドイツ大使館に怒られることもなく自由にやらせてもらえていることは本当にありがたい。これは、ドイツと日本という言論の自由が認められている国だからこそ可能であり、ここ最近改めて日本とドイツの間で活動できることのありがたさを感じている。自分のルーツ、そしてどこの国に生まれてくるか、というのは、本人が選べるわけではないので、いわばドイツと日本の間に生まれたことはラッキー以外のなにものでもない。

文化の違いを書いていく中でうっかり批判などをしてしまえば、投獄されかねない国が世界には沢山あるのだから。悲しいことだが世界には「家族が大事ならば日頃の言動(行動)を慎むように」という脅しのようなお達しが日常茶飯事化している国も少なくない。

今年を振り返りながらそんなことを考えると、自由にいわば好き勝手に書ける状況をありがたいな、と改めて思うのだった。

・・・長々と書いてしまったが、みなさんにとっては、この一年はどんな年でしたか?

ちょっと気が早いですが、よいお年をお迎えください。Einen Guten Rutsch ins Jahr 2016!

来年2016年もどうぞよろしくお願いいたします。

サンドラ・ヘフェリン

ドイツ・ミュンヘン出身。日本歴19年、著書に「ハーフが美人なんて妄想ですから!!」(中公新書ラクレ) 、「ニッポン在住ハーフな私の切実で笑える100のモンダイ』(原作: サンドラ・ヘフェリン、漫画: ヒラマツオ/KADOKAWA)、「『小顔』ってニホンではホメ言葉なんだ!?~ドイツ人が驚く日本の「日常」~」(原作: サンドラ・ヘフェリン、漫画: 流水りんこ/KKベストセラーズ)」など計11冊。自身が日独ハーフであることから、≪ハーフはナニジン?≫、≪ハーフとバイリンガル教育≫、≪ハーフと日本のいじめ問題≫など「多文化共生」をテーマに執筆活動をしている。ホームページ 「ハーフを考えよう!」 を運営。趣味は時事トピックについてディベートすること、カラオケ、散歩。

サンドラ・ヘフェリン