創造的プロセスとしてのプロダクトデザイン
1年ほど前に、あるプロジェクトにとりかかりました。そのアイデアは、人間は日々の些末なことにとらわれすぎる、というものです。幸福を追い求め、人間は世界中を駆け巡ります。しかしほめ言葉ひとつで、全てを変えることができるのです。ほめ言葉は、人を些末事から目覚めさせ、人に魔法をかけて笑顔にし、しばしの間ストレスから解き放ちます。このような考えから、こんなほめ言葉を考えてみました:And You Look Adorable(そしてあなたは素敵です)。
これでアイデアは生まれました。でもこれから実行のプロセスが始まります。アイデアを現実にしなければなりません。それは、特別な挑戦です。というのも、理屈の上では明快で、疑いをさしはさむ余地がないように見えることも、実際にはそう簡単に実行できないからです。時には、まったく無理だということもあります。そういう場合には、その道のりをプロセスと見るべきだと思います。問題によってアイデアは変わり、それによってプロダクトも変わります。新しいアイデアが生まれると、古いプランは捨てられます。多くのものは、理屈では計画できません。事物は創造のプロセスから生まれるのです。創造の過程を少しのぞいてみましょう。
ほめ言葉というアイデアは生まれましたが、どうすればほめ言葉を届けることができるでしょうか?この少し後、私はテルアビブにいました。そこで偶然、昔のスタンプを扱っている古い店を見つけました。スタンプをメディアとして使うというアイデアを思いついたのは、その場所でした。
これでメディアは決まりました。しかし、どんなデザインの刻印にすれば良いのでしょうか?丸にするか、四角にするか? どんな表現方法ならビジュアルがメッセージをサポートしてくれるでしょう?そもそも、どんなロゴがスタンプにふさわしいのでしょうか?ここに様々なバリエーションの一部を挙げておきます。最終的に満足のいく成果を得るまでには、しばらく時間がかかりました。
これに続き、どのようにして製造するかという問題がありました。質的には高級感がありながら、同時に売りやすい価格帯のものにしたかったのです。ドイツでは、スタンプは比較的高価です。極東も含めてメーカーを探し、交渉を始めました。サンプルをいくつか入手したのですが、メーカーの多くは私の思い描いていたようなものは作れませんでした。だから、とうとう考えていたような結果が出たときは、大変嬉しく思いました。
パッケージにはとても気を配りました。数多くのバリエーションを試し、さまざまの色調や素材を使ってみました。サイズのバランスが良く把握できるよ うに、紙でプロトタイプやダミーを作りました。最終的には包装も個別に作ることにし、ビンテージデザイン風の包装ができあがりました。まだ忙しくなかった 時代をイメージしたものです。パッケージも、そのアイデアを反映したものになっています。このデザインによって、パッケージは中身を保管するだけのもので はなく、住まいの中でアイキャチャーになっています。
それでも完成までには、まだいくつかやるべきことがありました。外箱の印刷はどうするのか?何を印刷するのか?ロゴだけにするのか、それ以外の情報も載せるのか?法規上の表示義務はあるのか?どんな方法で印刷するのか?
私が選んだのは、シンプルで、ロゴをスタンプで押しただけのものです。外箱にはそれ以上の情報は不要です。外箱が自ら語っているからです。
しかし、プロダクトを理解するためには、物語が不可欠です。誰もがこれにまつわる物語を理解できるように、箱に取扱説明書を追加することにしました。取扱説明書は、アイデアや着想豊かな用途を伝えてくれます。
数週間後に、完成したものを手にしました。見た目も美しく、素晴らしい品質と手触りで、完璧でした。このプロダクトは、微細なディテールに至るまでのあらゆる点で、私の思い描いていた通りのものになりました。自分が完全に満足できる何かを作り上げ、至上の幸福観に満たされました。たぶん、多くの手間をかけ、たくさんの決断がこもったプロダクトだから、そう感じたのだと思います。
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