ベルリンの若手デザイナーに関する最新情報
ベルリン芸術大学の卒業制作展については何度か書きましたが、今年もまた行ってみました。プロダクトデザイン科の作品について、簡単に報告してみます。
学生に与えられた課題は、デザインというものの意味を新たに考えなおすこと。つまり、当たり前のやり方を問い直し、デザイナーの役割そのものや、産業界との関係性、制作プロセス、デザイナーに対する意識などについて、考え直すということでした。
ここで、作品をいくつかご紹介したいと思います。
ヴァレンティン・デュセアックの「IN VISIBLE」は、3つのボウル形のものからなる、限定版の作品です。一見しただけでは作品の意味は解りませんが、それがまさにこの作品の意味なのです。ボウルはブロンズで鋳造され、磨き上げてあり、見る人がその中に映り込むようになっています。このことによって、見る人と見る対象との関係が問い直されるのです。奇抜で変わったフォルムが意識的に選ばれ、素材や、必要な製造工程も、大量生産では使われないものです。この作品は観察者に考えさせることで、新しい認識のかたちを可能にします。
ニナ・エーベルレの「MAKE BELIEVE」は、とても気に入りました。彼女は日常での光との関係を問い直し、特に印象深い作品を作りました。私たちの日常で光はどこにもあり、何をするにも必要不可欠です。でも、照明はスイッチを入れるだけで点灯するので、光の大切さを忘れがちになります。この「MAKE BELIEVE」では、人がスイッチの役割を果たします。人が能動的に照明を手に取り、決まった位置で垂直にすると点灯する仕組みです。その際にランプの両端が接触することはなく、磁石で位置が保たれます。照明は、再び取り外し横に寝かされるまで、空中に浮かんでいます。
リサ・グリフェルは「KORD」 という作品で、自分に合わせて設計できる家具を企画しました。この家具は、ノコギリ、カナヅチ、クギなどを使うのは得意でないという人のために考え出されました。Kordを使うことで、自分だけの家具を作る情熱を感じ、楽しむことができます。組み立ては結束バンドを使うので、とても簡単です。
学生の何人かはさらに、材料の再利用、あるいは材料を大切に使うというテーマに取り組みました。
たとえば、シュテファン・シュネレンベルガーは、古びてきれいでなくなった棚や板を、新しい家具に再生することを考えました。彼が考えた接続用のパーツを使うことで、廃棄物扱いされていた物に新たな用途が生まれます。この方法で作られた家具は、個性的なだけでなく、サステナブルで美しいものです。
ある女子学生は、靴というテーマに取り組みました。伝統的な靴の製造法では、いろいろなパーツを縫い合わせますが、彼女は何か別の方法はないかと考え、ソファーの構造に思い至りました。枠に沿って全てのパーツをつなぎ合わせていくことで、パーツを一つずつ取り換えたり、修理したりできます。
この他にも、とり上げるべきアイデアがいくつかありましたが、ここでは、自分がいちばん興味を持ったものを紹介しました。いくつかは実験的な性格のものでしょうが、でもそれが大事なのです。実験的な枠組の中で、ちがった視点から将来に向けてアイデアを展開するということです。今回の展覧会はとても気に入りましたし、また次回を楽しみにしています。