入口では警察サスペンスだったが、出口ではボーイズラブになっていた。何故だ!
戦時下ベルリンを舞台に、親衛隊将校とユダヤ人元敏腕刑事のコンビが猟奇殺人犯を追う異色のサスペンス小説『ゲルマニア』は、2015年夏、翻訳ミステリ注目の一冊となりました。
そして秋、ミステリ業界は大ベストセラー『その女アレックス』の著者ピエール・ルメートル氏来日でフランス方面が沸騰していた(私も当然、すごく気になっていた…)のですが、そんなの関係ねぇ!とばかり、わがドイツ方面では勝手に『ゲルマニア』祭りを展開して気勢を上げておりました。
実になんと、千葉、名古屋、埼玉の3箇所で翻訳ミステリー大賞系の『ゲルマニア』読書会が開催される展開。しかも同時開催の千葉と名古屋では、ネット接続で会場中継しあうという画期的ギミックが! これは行くしかありません。ということでお邪魔してきました^^ ちなみに3読書会とも事前予約が満員札止めとなる盛況ぶりで、いずれの熱気も凄かったです。
名古屋&千葉読書会(10/24)は、まずそれぞれの読書会内で参加者が感想を述べ合い、それらを纏めてボードに書き出して両会場どうしで見せっこし、ブラッシュアップした所見や疑問点の交換を行う、というスタイルで展開しました。雰囲気は写真のとおり。非常に盛り上がり、また濃厚で興味深い議論が出来ました。参加者の皆様による持ち込み参考資料が充実していたのも印象深いです。
そして埼玉読書会(11/7)は、超翻訳家・酒寄進一さん参戦! 期待通りというか期待以上に【お察しください】な盛り上がりとなりました。酒寄さん曰く「いやー、ボクが来ると立場的にボクがみんなを巻き込んじゃう可能性が高いでしょ。読者としての主観を存分にぶつけあう読書会というのも絶対必要だから、名古屋&千葉があの形で成功したのはとてもいいね!」
…えー、これを客側主観で超訳すると、「酒寄さんが来るとキャラ的に絶対【酒寄進一・ザ・白熱ライヴ】になる。それはそれで素晴らしいけど、居なければ居ないでナイス展開になりうることも確認されたのがよかったです!」という感じになるでしょうか。
いずれにせよどの読書会も、成功のカギは参加者の積極性で、それを引き出した幹事・世話人の皆様の手際と工夫が功を奏したと思います。そして、知恵とノウハウを駆使して会場中継を成功させた技術スタッフの皆様、熱気満点な参加者の皆様に、改めて御礼申し上げます。
さて、3読書会議論の内容は、けっこう共通する要素がありました。重点を端的にまとめると以下のようになります。一部ネタバレ御免!
(お題の『ゲルマニア』の概要についてはこちらをご参照)
(1) 真犯人とその動機がちょっとアレなのはいかがなものか?
→ 本作は実質的に「ミステリの形式を借りた時代風俗小説」でもある。その面で読み応え120%だから別にいいんじゃない?
→ でも途中までの「ミステリ的」な風呂敷の広げ方はなかなか見応えあったから、いささか肩透かし感が残るのは否めない。
→ 本格じゃないと許せない!的な人にとってはNGっぽい。そうでない人にとっては許容範囲っぽい。
→ いやいや、「第一次世界大戦をひきずる人間精神の暗部」という観点から考えるとなかなか味わいぶかいよ!
→ 日本では、第一次世界大戦の歴史的存在感がイマイチ薄いのが不利かもですね。
(2) オッペンハイマー、妻に対する配慮が無さすぎ!
→ 戦時下(でしかも迫害下という異常状況)だからそういうもんじゃないの?
→ えーでもそれ割り引いても無神経すぎるよこのヒト。
→ 作者がそのへんまだ不慣れなのでは? 描きたい焦点は別にあるとか。
→ えーでもそこちゃんとしてくれないと、作者が見せたい焦点に目を向ける気にならない!
→ そのへんは次作での描写力の成長に期待しましょう。
(3) フォーグラーSS大尉のツンデレ感はやはり萌える!
→ 結局このヒト、根は善人なの悪人なの?
→ 良識が死にきってはいないけど歪んでいる。だがそれがいい!
→ ていうか、これほど国防軍がSSに完敗するナチものって珍しくね?
→ フォーグラーは前線勤務に戻ったあと、生き延びる見込みありそうなの?
→ SS「ホーエンシュタウフェン」装甲師団所属だからファレーズ包囲戦で戦死するかもだけど、もしそれを切り抜けたら『遠すぎた橋』の迎撃戦で活躍する可能性が高い。
→ 地下室でオッペンハイマーと一緒に閉じ込められる場面がいいよね!
→ で、ご禁制の『三文オペラ』の曲にノッちゃうあたりがいいよね!
→ 序盤、なぜか全裸になってオッペンハイマーの周囲を一周する場面がいいよね!
→ でも作者は、そういう萌え要素をいっさい意図していないと思います!(ドイツ人の見解)
→ まじかよ!!!(腐女子の衝撃)
という感じで、腐女子的解釈の周囲で特に盛り上がった! というのが今回の重要ポイントでございます。このあたり、以前翻訳ミステリー大賞シンジケートサイトに掲載された♪akiraさんのレビューが実にジャストミート! な感じですね。そう、いま、読書趣味ユニバースはこんな具合に動いているのですよ奥様!^^
ドイツではミステリ絡みで萌え祭り的な展開は存在しないため、個人的にこの点が文化的に非常に興味深かったです。そこで、フェイスブックを通じて作者のハラルト・ギルバース氏に直接報告してみました…すると熱気あふれるお返事が!
ありがとう! 日本での受け止め方はものすごく興味深い。「萌え」と「ツンデレ」か…おかげで、映画『戦場のメリークリスマス』の意味がわかったよ!
お察しのとおり、もともとフォーグラーの行動描写にそのような演出意図はない。あくまで結果的にそうなったといえるだろう。しかし、文化的にとてもそそられる事象だ… ちなみにシリーズ2作目ではフォーグラー不在となるため、腐女子の皆様の期待には充分応えられないかもしれない。だがしかし、【おおおおーっとココはさすがに中略だ。ギルバース氏はサービス精神旺盛で平気でネタバレ満点な情報をドカドカ送ってくれるため驚愕。しかしこれだけは断言しておきます。彼のアイディアストックは素晴らしい。3作目以降もむちゃくちゃ面白そう!】 なので、最近は深作欣二の映画を観て研究しているところだ。そんなこともあって、日本には是非行ってみたい。そのときはどうぞヨロシク!
あ、そうそう、フォーグラーの髪の色はいちおうアッシュブロンドという設定だ…そして実現するかどうか未定だが、実は『ゲルマニア』映像化の話がある。もし実現したら、そこでフォーグラーの髪は「ビジュアル的に」再検討されるかもしれないよ。
どーーーーーーですかっ皆様っ!
ギルバースさん、腐女子の「腐」マインドをスルーせず正面から受け止め、みごとに昇華してくれました。だって戦メリですよ戦メリ。素晴らしい。これ以上のアイアンダスタンOKな反応は考えられません。ギルバースさんありがとう! 拍手拍手拍手っ!
そして、いったいあの物語設定のどこをどう変換していけば深作欣二ワールドに行き着くのか? そうですこのロジック展開は見のがせません。さらに映像化の可能性も…ということでハラルト・ギルバース、今後ますます注目の作家になりそうです。自信をもって乞うご期待!
以上、話題が尽きない今回の『ゲルマニア』読書会シリーズでした。
全体を通して個人的に印象深かったのは、イケメン萌えから入ってきた腐女子読者の皆様が、けっこう期待以上にナチズムの組織的本質や精神的背景の議論に関心を持ってくださった点で、このあたり、今後の「読書×歴史」趣味文化の展開のひとつのカギを握るのではないかと感じております。
それでは、今回はこれにて Tschüss!
(2015.11.27)